「エンター・ザ・ボイド」が結構面白かったので鑑賞。
「アレックス」では、時間が逆回しで編集されている。だから最初は全く意味がわからない。いきなり救急車に乗せられていくヴァンサン・カッセル、そもそもその前の裸のオッサンによる哲学語りは何なんだ?
普通、その後は「2週間前」とか「6時間前」というテロップが入って、この顛末につながるストーリーが展開されるものだと思うのが人情だが、特に説明もなく40分ほど前のヴァンサン・カッセルの様子が描かれ、そこでようやく「逆回しなんだ〜」と理解する。
それでもヴァンサン・カッセルが何をしているのかは不明だ。なんだかメチャクチャ怒ってるみたいだが、一体何が起きたというのか。冒頭のオッサンは関係あるのか。そもそも「アレックス」って何よ?
と、いきなりカオスの中へ投げ出される。
この感覚は実際に救急車や消防車やパトカーが続々と集結してきて、事件か事故か、それとも火事か?と野次馬が集まる感覚に似ている。
何も情報がない中で、手探りで状況を把握しようとする、人間の性みたいなもの。映画の中で起きたことは、ほとんど現実と同じように、結果から順番に第三者である観客の目に晒されていく。
タイトルロールのアレックスの身に起こったこと、それに至るまでの夫婦間のやり取りや二人の出会い。
悲劇は起きてしまい、それは起こった後になってしまってはどうやっても防ぐことは出来ないけれど、遡るに連れて「どこかに悲劇を防ぐポイントが存在していたんじゃないか」と思ってしまう。なのに原題のフランス語の意味は「不可逆」で、そんなことは望むべくもないのだ、と突きつけられるのだ。
同じく時系列を逆にした映画で有名なのは「メメント」だが、「メメント」では主人公の記憶障害を追体験する形で逆回転が機能していた。「アレックス」で体験させられるのは、事件や事故のニュースで我々が触れる出来事の方で、あまりに絶望的な映画の中の出来事は普段我々が接している世界と同じ、という救いのなさと、絶望に直面した時の愚かな行動のどうしようもなさを突きつけている。
表面的な陰惨さがクローズアップされがちなギャスパー・ノエだが、彼の切り取る世界とテーマは印象以上に社会派で、そのバランス感覚も面白い。
「退席者続出!」とか騒がれる監督だが、私は結構好きだな。