最初に惹かれたのは、予告で目にした、みずみずしく躍動的な画の美しさ。本編はもちろん期待以上に素晴らしく、最初から最後まで存分に堪能した。とはいえ、それ以上に心を揺さぶられたのは、物語そのもの。これまで様々な形で表現されてきた「竹取物語」の中で最高であり、今後も、これを超えるものはまず出ない、と思う。
何と言っても、姫の性格付けに説得力があり、魅力的。これまでのものは、求婚者たちの生き生きとした人間くさい立ち振る舞いに比べ、姫や帝の描写が控えめすぎたり踏み込みすぎたり。たとえば、求婚者を振り回す姫も、姫と帝の淡い恋模様も、どうもしっくりこなかった。何より、主役の姫が脇役より魅力を欠くなんて! 一方、本作の姫は血が通った人間(地球人ではないけれど)であり、生きる活力そのもの。スクリーンを所狭しと跳ね回り、喜びも悲しみも身体いっぱいに表現する。だからこそ、そんな彼女の真の姿を知らずに、うわべだけで求婚する輩の浅はかさが際立ち、「姫君」の枠に押し込められる彼女の息苦しさと孤独が、観る者の胸に強く迫る。
そして、オリジナルキャラクター•捨丸の存在。都へ移り住んでも草木やケモノと生きる「人間らしい暮らし」への愛着を忘れず、姫を支え続ける媼以上に、彼女に近しい存在=心惹かれた地球人として、彼を登場させた点が成功している。彼は、ごく当たり前に自然の中で生き、理屈や損得にとらわれず直感的に振る舞う。山での生活=捨丸たちとの伸びやかな日々が丁寧に描かれている分、都での生活に苦しみながらも、姫が月に帰りたがらなかったわけが、ストンと腑に落ちた。
圧巻は、捨丸と姫の、最後の再会の場面。分別をあっさりと脱ぎ捨てて感情に流れ、躍動してしまう地球人のもろさにして最大の魅力…を、視覚で表現しきっていてぞくりとした。大小様々な物事から喜び悲しみを見出す心の豊かさはもちろん、こずるさも、愚かさも、弱さも…全部ひっくるめて、姫が愛した地球人の姿なのだ、と改めて気付かされた。同時に、人間らしく生きるには、草木や他の生き物と共に生きる、手ごたえのある生き方(『天空の城ラピュタ』の「土から離れず生きる」にも繋がる)が必要なのだ、とも。
観終えて数日…幾度となく本作を思い返すうちに、あの激情と至福に包まれた二人の姿は、姫の視点ではなく、捨丸のものかもしれない、と思い当たった。とはいえ、平安時代の人々は、誰かが夢に出てくるのは、自分が強く想ったからではなく、相手が自分を想っている証、と考えたという。とすれば、捨丸の体験は、姫の強い想いが生み出したもの、となる。あの再会は、引き離された二人の想いが、偶然と必然のはざまで重なりあった瞬間の、美しくも恐ろしい奇跡(または月世界の情け)と思いたい。