コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第8回

清水節のメディア・シンクタンク

第8回:「GODZILLA」VFX徹底解明! ギャレス監督“着ぐるみ愛”を激白!!

■怪獣に人間性を求めれば「着ぐるみ」に辿り着く

円谷英二が「ゴジラ」を創造したときには、1933年に製作された「キング・コング」への憧れがあった。しかし物理的制約から、同作の特撮マンであるウィリス・オブライエンが魅せた魔術的なコマ撮りこと、ストップモーション・アニメの手法は断念せざるを得なかった。そして、着ぐるみに入った人間がミニチュアの街を破壊するという日本独自の特撮が誕生する。ギャレスはこのスタイルについてどんな認識をもっているのだろう。

「今振り返れば、限られた時間と予算の中、1954年の時点で人間が着ぐるみに入って撮影したのは、とてもクレバーで正しい選択だったと思います。僕はストップモーション・アニメが大好きですが、すべてのシーンをコマ撮りで完璧に行うのは不可能に近い。それに、おそらくあの当時、世界中に数名しか熟練した経験豊富なストップモーション・アニメーターは存在しなかったでしょう。着ぐるみが巧くいったのは、やはり人間味が出るからです。その怪獣がどんな奇妙な形であろうが、人間性を感じられる。ボディランゲージからエモーションが表われる。人間的でなければ、僕らはよく理解できないんです。実を言うと、今回の『GODZILLA』も着ぐるみとミニチュアでやりたかったんです。でもそれでは、ワンテイクしか撮れないですよね。壊しちゃったらそれまでですから(笑)。それにキャメラアングルは固定され、演技も制限されてしまうのでCGにしました」

ギャレスは“着ぐるみ愛”まで告白する。アンディ・サーキスの起用は、「人が演じるからこそ怪獣が人間味を感じさせる」という発想に通じる。こうした演出意図に基づくからこそ、「GODZILLA」は社会的で深遠なテーマのみならず、キャラクターそのものの存在感からも、伝統的なゴジラ映画への敬意を感じさせるのだろう。ぜひ今度機会があれば、ミニチュアを使ってくださいとリクエストしてみると、ギャレスは「もしミニチュアをたくさん造ってくれるならね」と言って微笑み、少年のような表情になって、ストップモーション・アニメの神様と出会ったときのエピソードを得意げに話し始めた。

「僕はレイ・ハリーハウゼンに会ったことがあるんです。BBCの友達が彼にインタビューするから来てみないかと言われ、クルーの1人だと嘘をついて潜入しました。待ち時間に彼と話をする機会があったんです。その日はたまたま、ピーター・ジャクソンの『キング・コング』のトレーラーがネットで公開された日だった。おそるおそる彼に観てもらったんです。やはり違和感を唱えるのかなあ……と予想していたんですが、ハリーハウゼンは、『これからはこうした技術が主流になるだろう』と認めて、すごく興奮していましたよ!」

■出現に1時間、尺2時間4分のスピルバーグ言語

メジャー大作に縁遠かった「モンスターズ」の制作中、ギャレスはこんなVFX論を述べている。「ハリウッド映画の問題点は、CGに時間をかけすぎる点。破片でも何でも完璧な位置に入れてしまい、演出されすぎていると感じさせ、リアリティが欠けて見える」。今回はこのポリシーを念頭に置き、結果には満足しているのか。

「イエスとノーの両方ですね。本作は多くの観客に訴求しなければならない作品であり、インディーズ映画とは事情が異なります。VFXは出来るだけ抑えていこうという態度で臨んだけれど、そうすると観客にとってはフラストレーションが溜まったりもするわけです。CGは進化しすぎ、僕が要求したものはすべて今のテクノロジーで創造可能になってしまった。もう眼をつぶってどんな映画にしたいかということだけに集中し、イメージした映像を要求出来るという限界なき時代。なんとか人間味のある映像を心掛けていきたいと思います」

彼が70~80年代の映画にこだわるのは、郷愁からではない。精緻に作り込むだけのデジタル映像は、私たちがイマジネーションを働かせる余地がないことを知っているからだろう。そして観る者の情動を揺り動かすには、「見せない」で徹底的にじらす演出も大切だ。彼はそれを「スピルバーグ言語」と呼ぶ。「GODZILLA」の2時間4分という尺(上映時間)は、なんと「ジョーズ」の尺と全く同じ。それだけではない。サメが全貌を見せるまでに要するのは約1時間後。これもゴジラ出現までの時間に符合する。意図的なのか?

「仰る通りです。昔ストップウォッチで計ったことがあるんです。『モンスターズ』では、モンスター登場場面が足りないと批判する人は少なくなかった。でも、誰もが認め絶賛する『ジョーズ』には、サメが6分しか出てこない。もっと観たい、と思わせた方がいいと思うんですよ。料理と一緒で、おいしいものでも食べ過ぎたら具合が悪くなりますよね。どうせなら、おいしい上に、また食べたいと思わせたいじゃないですか」

■「SWスピンオフ」、そして「G2」へ

ところで、これまでのギャレス発言をチェックすれば、お気に入りのゴジラシリーズは訊かれる度に変化している。興味深いのは、怪獣たちが人類に管理された世界を描く1968年の昭和ゴジラシリーズ「怪獣総進撃」を挙げている点だ。ドラマに深みを求める彼の好みからすれば異色に思えるが、愛する理由はこうだ。「もし恐竜を甦らせることができるなら、驚くのは一世代しかいない。その子らの世代は、生まれた時から恐竜が存在するので驚きはない。そんな時代を描いているので面白いのさ」。用意してきた「怪獣総進撃」のヴィンテージもの劇場パンフを筆者がプレゼントすると、ギャレスはGODZILLAアートブックに返礼のサインをくれた。控えめなサインは性格の表われにも思える。関係者の間で密かに「G2」と呼ばれる続編が始動するとき、それは「ゴジラの存在をすでに人間が知っている時代の物語」になるのだろうか。となれば、「怪獣総進撃」から新怪獣が起用される可能性も無きにしもあらず。その前にギャレスは「スター・ウォーズ」のスピンオフのメガホンを執ることが決まっている。筆者が握手を求め、「May the force be with you.」と別れの言葉を告げると、ギャレスは「日本語ではどう言うんですか?」と問い、「フォースが共にあらんことを」という日本語の響きに肩をすくめる。映画界の誰もが羨む2大SFファンタジー映画の“それぞれの続き”を控える彼は、「僕も楽しみなんです」と相好を崩した。

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。