コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第12回

2015年4月16日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第12回:ゴジラが吠える歌舞伎町シネコンは、IMAXからアニメ・韓流まで“全部入り”!

■立地から“韓流ファンの受け皿”としての独自性を打ち出す

どんなにスペックが素晴らしくとも、本質的な決め手は、掛ける作品そのものだ。もはやシネコンは、最新の大作・話題作を鑑賞する場として、その差異を打ち出しにくい側面もある。ピカデリーとバルト、先行する2つのシネコンとの差別化について問うと、真っ先に返ってきたのは意外ともいえる回答だった。「まずわれわれの立地上、新大久保から歩いてお越し頂けるので、韓流ファンの受け皿としてお使い頂きたいと考えています。将来的には、ハングル字幕付きの作品編成も検討していきたい」(TOHOシネマズ新宿支配人・小林正樹)

不幸な要因もあって韓流ブームは後退した。アジア映画の専門館として韓流作品を積極的に編成してきたシネマート六本木の6月閉館など、取り巻く環境は未だよくない。しかし根強いファンは存在する。エリア特性から企画されたTOHOシネマズ新宿の韓流テコ入れ策は、ブーム再燃の導火線となる可能性もあるかもしれない。もちろん背景には、上層階のホテルグレイスリー新宿に宿泊する観光客の外国人比率が60%にのぼるという読みがある。内訳は、アジア7割、欧米3割と想定。ホテルには、韓国、中国、タイのスタッフも配している。

■ミニシアター系とも競い合う編成こそ12スクリーンの強味

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オープニング記念としては、ポン・ジュノがプロデュースし、「殺人の追憶」の脚本家シム・ソンボが監督デビューを飾ったサスペンスの問題作「海にかかる霧」を、一般公開よりも1週間早く日本最速公開することが決まった。初夏には、韓国映画の海洋アクションアドベンチャー「パイレーツ」のメイン館になる予定だ。

当然のことながら、アカデミー賞3部門受賞作「セッション」のメイン館にもなるが、デヴィッド・リンチ監督によるライブ映画「デュラン・デュラン:アンステージド」をコケラ落としに持ってくるあたりにも独自性を感じさせる。5月には、隔離施設を舞台したSFスリラーのカルト作「シグナル」のメイン館にもなる。邦画では、園子温監督の「新宿スワン」は、5月にレッドカーペットと完成披露試写会がTOHOシネマズ新宿で行われる。今年の園子温作品は「ラブ&ピース」「みんな!エスパーだよ!」も併せ、3作品のメイン館は本シネコンだ。

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つまり先行するシネコン2館のみならず、エリア的には、新宿武蔵野館、シネマカリテ、角川シネマ新宿、テアトル新宿といったミニシアター系/アート系とも競い合うような個性的編成で挑むわけだ。「そこがまさしく、12スクリーンを擁するわれわれの強味です。大きな宣伝に乗っかっていない作品でも、少しずつ掛けていきたいと思っています」。小林支配人の唱えるこの方針が、新宿の映画人口の底上げにつながることを祈りたい。

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■このシネコンでしか観られないショートアニメ「アニメガタリ」

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そして、若者を吸引する上で外せないのが、アニメだ。すでに聖地化しているバルト9とは、どのような違いを打ち出していくのか。「TOHOシネマズ新宿でしか観られないアニメコンテンツをご用意します。幕間に上映するショートアニメ『アニメガタリ』は2カ月に1度くらい更新していきます。※それと、開業と同時に、創刊30周年を迎えるアニメ雑誌『ニュータイプ』さんにご協力頂きまして、いくつかのアニメイベントを開催します。また、週末夜を利用し「シネ×アニ」レーベルとして、東宝作品に限らず劇場版アニメやテレビアニメなどを特集するアニメ・ナイト的な編成も実施していくつもりです」(小林支配人)。すでに決定しているレイトショーは、「新TVシリーズ放送決定記念特別企画 ルパン三世アニメ・ナイト」。4~5月の金曜22時より、第1弾は「峰不二子スペシャル」と題して上映されることが決まったようだ。

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構想段階ではあるが、今後の企画としては、コアファンに愛される作品の先行公開時に、遠方から来ていち早く鑑賞し、上層階のホテルに宿泊してもらうパッケージツアーもあり得るという。最後発という不利な条件、歌舞伎町という立地、そしてホテルとの一体化という特性。ゴジラが吠える歌舞伎町シネコンのキーワードは、さしずめ、<よりデカく、より深く、より多く>だろうか。より巨大なスクリーンとより快適なサウンドを提供し、よりディープな編成で映画通を刺激し、より多くのスクリーン数で大人数を誘い込む。ゴジラヘッドは威圧するためではなく、すべてを呑み込むためのシンボルに思えてくる。

※「アニメガタリ」は“京アニの制作”ではないと発言者から訂正がありましたので、お詫びして訂正します。

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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