コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第40回
2016年10月31日更新
パリで日本映画の特集上映開催 ロマンポルノ、SFや怪獣映画も紹介
パリのシネマテーク・フランセーズ(映画博物館)で、「日本の銀幕 60年にわたる発見」と題された展覧会と、日本映画の特集上映が始まった。日本映画の黄金時代と言われた、1950年代から現代に至る歴史が一挙に俯瞰できる、なんとも興味深いプログラムだ。
シネマテークではこれまで1963、71、84年と、3回大きな日本映画特集が開催されてきた。だが展覧会に関しては、長らくシネマテークのあったシャイヨー宮には常設美術館のスペースしかなかったため、たとえば衣装など日本映画がらみの展示品もそのなかの一部として見られるのみだった。2005年に現在のベルシー地区に移転して以来、今回初めてまとまった展示が可能になったのである。しかもいわゆる小津、溝口、黒澤、成瀬といった、フランスで以前から評価の高い“王道系”のみならず、寺山修司や松本俊夫などの実験的な作家、若松孝二のようなロマンポルノ系、キッチュなSFや怪獣映画も取り上げられ、ポスター、映画のスチール、衣装(「地獄門」「影武者」)、デッサンや手紙など、さまざまな資料が集められている。
特に目を楽しませてくれるのがポスターだ。実際こうして一堂に会すると、かつての日本映画のポスターはきわめて個性的で、ラジカルだったことがわかる。とくに横尾忠則が手掛けた「新宿泥棒日記」のポスターに代表される60年代から70年代にかけてのグラフィックセンスは抜群。いまの日本映画にもこんなセンスがあったらと、つい思ってしまうほど。
特集上映に関しても、レアな作品を基本にさまざまなジャンルによる26本の作品が揃った。今回の展覧会のきっかけを作った監督であり、日本映画に詳しい映画講師でもあるパスカル=アレックス・バンサン(「美輪明宏ドキュメンタリー 黒蜥蜴を探して」)はこう語る。
「日本映画は長いあいだ専門家が楽しむ特別なジャンルのように思われてきましたが、わたしに言わせるとアメリカ映画と同様に、普遍的で誰にでも楽しめると思います。純粋に長い歴史を持ち、素晴らしい監督をたくさん輩出してきたという点が特別なのです。それにさまざまなジャンルが存在するのも日本映画の特徴です。今回はまずフランスでなかなか観られる機会のない、たとえば吉村公三郎の『源氏物語』や黒澤明の『白痴』といった作品と並んで、ジャンル映画も取り込み、とくに傑作と言えないまでもいわゆるユニークな大衆映画を取り上げています。ヤクザ映画、怪獣もの、SF、チャンバラ、ロマンポルノ、そしてもちろんアニメ作品など。シネマテークは教育的な機関ですから、いまのフランスの若い世代にこれらの作品を知ってもらい、楽しんでもらうことも目的です」
今回彼とコラボレーションを果たした、シネマテークの修復・保存部門の責任者であるエルべ・ピシャールはこう付け加える。「なるべくオリジナルの、35ミリフィルムで見せるというのも今回の目的でした。そういう機会が現在はどんどん減っていますから」
展覧会と掛けて10月には、バンサンが指揮したフランスで初めて編さんされた日本映画に関する辞典(「Coffret l’Age d’Or du Cinema Japonais」)も発売された。日仏の執筆者たちが101人の監督を紹介したもので、序文は黒沢清。「東京物語」「残菊物語」「切腹」「青春残酷物語」「わが青春に悔なし」「乱れる」の6作のDVDが付いている(Carlotta Films/ http://www.carlottavod.com )。
展覧会は2017年6月12日まで、特集上映は今年の11月24日まで開催(http://www.cinematheque.fr)。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato