コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第4回

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏

11月を迎え、年間を通した映画興行の動向について、映画業界では様々な話が飛び交うような季節になってきた。大方の推移が固まってきたからだが、その意を短く凝縮してみるなら、邦画がある程度良好な成績となったのに対して、洋画が相変わらず厳しい展開のままで1年が終わりそうである。前者にはいつものように、東宝のこれまでにも増した好調さが大きく押し上げたことを付け加える必要があるから、こうした見立てからは、ここ数年の映画興行と大差ない現状が見えてくるということになる。

総論は年明けとしたいが、このほど1月から9月までの邦画と洋画の配給会社13社(松竹、東宝、東映、東宝東和、ギャガ、ワーナー、ディズニー、ソニー、パラマウント、20世紀フォックスなど)の累計興収が明らかになったので、まずはそのことをお伝えしよう。映画業界の配給会社は、もちろん13社のみということはないが、大手、中堅のこの13社の累計興収を見れば、だいたい年間の興収がつかめる。その成績は、1380億5437万5848円で、これは昨年の1~9月の累計興収と比べて105.8%だった。

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今年も年間2000億円突破は難しい

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大まかな年間興収を、この5.8%増という数字から計算してみるなら、今年は1900億円台の前半あたりが予想されるということになる。もちろんこの推定も、残り3カ月の10~12月の展開いかんだが、今後の作品をざっと見た限りでは、数字の差異は若干あったとしても、それほど極端なものではないと考えていい。単純に言ってしまえば、映画業界が毎年ひとつの目安としている年間2000億円の突破は、なかなか難しいのではないかとの判断が、今の段階ではできるということである。

パッとしないな、というのが私の率直な感想だ。東日本大震災が起こった昨年は、その影響が大幅な興収減を促す主要な原因になった。だが今年は、災害の“言い訳“は全くできない。にもかかわらず、一昨年の2010年に記録した2207億円という成績には、ほど遠いのである。10年に顕著だった洋画3D映画のバブル状態を差し引いたとしても、全く物足りない。その最大の理由が、洋画の不振である。

驚くべきことがある。あれだけ落ち込んだ昨年でさえ、9月までの興収で、東宝、ディズニー、ワーナー、東映の4社が100億円を超えていたのに、今年は東宝とワーナーの2社のみ。洋画メジャー系に目を移せば、100億円からバーを少し下げて90億円としても、今年これを超えたのはワーナーとソニーのみ。昨年はディズニー、ワーナー、20世紀フォックス、ソニーと4社が90億円を超えていた。明らかに、洋画メジャー系会社の成績が下がっているのがわかる。

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東宝の上昇分が全体のアップに直結

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ではなぜ、今年の成績が昨年を上回るとの見通しができるかといえば、東宝が昨年の35.8%増で、その増加分は161億9030万円。前述したように、今年の9月までの全体の成績は、昨年の5.8%増だが、その増加分の興収は75億3931万円。恐ろしいことに、東宝は全体の増加分を超えた成績増を果たしているのである。これにより、東宝の上昇分が明らかに全体のアップを促しているのがわかるだろう。東宝の増加分がなければ、今年は昨年を下回るような結果になる公算さえが強かったのである。こんなことが、あっていいのだろうか。

洋画不振の個別分析は、いろいろなことが可能だが、ここはひとつ、正月、春、夏という、興行のかきいれどきの時期での図抜けたヒット作品が、全くなかったことを挙げておくに留める。なかでも、とくに夏興行の低迷は際立っていた。「アメイジング・スパイダーマン」「ダークナイト ライジング」「アベンジャーズ」「プロメテウス」。個別の成績は載せないが、このなかから、50億円を超えた作品が1本も登場しなかったことが、大きく響いたと言えようか。

かつて私は、ヒットの“1本かぶり現象”に頼るのみでは、興行全体の底上げは難しいと書いた記憶がある。それは、中級のヒット作品によって、全体の底上げを実現することの重要性を指摘したつもりだったのだが、今や、“大”や“メガ”が文句なく付くヒット作品、つまり1本かぶり作品が年間に数本ないと、全体の興行が立ちいかないところまできてしまった。それは、ヒットしない作品の興収の平均値が、かつてと比べ大きく下がってしまったからである。興行の下部を支える作品が大方なくなったため、スーパー“大”のヒット構築ができないと、興行全体の膨らみが達成できなくなってしまった。

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洋画の正月作品における宣伝の取り組みを注視

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今年は昨年と比べて、興収の若干の増加が見込まれるだろうが、それは東宝の増加分が大きな原因で、他社、とくに洋画メジャー系の不振は、昨年から何も変わっていない。これが11月を前にして、先の興行データから見えてきた今年の映画興行状況である。その“流れ”は、2013年の洋画の正月作品をつらつら見るに、大きな変化はうかがえないだろうとの推測につながるのだが、私がとくに注視したいのは、興行のシビアな結果よりも、作品宣伝の各々の場において、どのような取り組みがなされるのか。その経緯そのものである。

レ・ミゼラブル」というハリウッド久しぶりの重厚な作品が放つ魅力。それは、どのように人々に届くのか。より切れ味のいいアクション描写が目につく「007 スカイフォール」は、どのようにシリーズの枠を破って興奮の度合いを増してくれるか。「ホビット 思いがけない冒険」「フランケンウィニー」は、それぞれ野心的な監督の手になる映像の新展開が見られそうだが、それはどの層の関心をこじ開けるのか。己々、その際の宣伝の“お手並み“が重要であり、そこへ向けた関係者たちの強い意志を、私は見たくて仕方がないのである。

筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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