コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第247回

2014年1月20日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第247回:賞レースでも注目のスパイク・ジョーンズ新作「her 世界でひとつの彼女」

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今年でゴールデン・グローブ賞の授賞式に出席するのは3度目になるのだけれど、かつてテレビで中継を見ていたときと同じように、結果に一喜一憂していた。投票している側だから、事前に予想がついて然るべきだと思われるかもしれないが、会員同士で相談してはいけないことになっているし、みんなそれぞれの基準や好みに従って勝手に投票しているので、見当がつかないのだ。だからビバリーヒルトン・ホテルの会場では結果にがっかりしたり、喜んだりしていたのだが、もっとも驚いたのは「her 世界でひとつの彼女」の脚本賞受賞だった。個人的には昨年のベスト3に入るお気に入り映画だけど、風変わりな作品だから受賞はないと勝手に諦めていたのだ。

さて、「her 世界でひとつの彼女」の舞台は近未来のロサンゼルスだ。主人公のセオドア(ホアキン・フェニックス)は、手紙の代筆業者「Beautiful Handwritten Letters.com」で働いている。文才を生かした仕事に就き、豪華なマンションに暮らしているものの、孤独に苛まれている。別居中の妻から離婚を迫られており、自分を愛してくれていたはずの妻にどうしてここまで憎まれているのか理解できずにいる。そんななか、セオドアはコンピューターに新しいOSをインストールする。ユーザーに合わせて学習する人工知能を備えた最新型だ。簡単なアンケートに答え、性別を決定したら設定完了。色っぽい声をしたサマンサという人工知能(声はスカーレット・ヨハンソン)が立ち上がる。有能なサマンサは、ボイスコマンドでつぎつぎと命令を処理していく一方で、セオドアに質問を繰り出していく。この世に生をうけたばかりのサマンサにとって、世界が驚きと謎に満ちているためだ。そんなサマンサの知的好奇心を満たしてやるために、セオドアは携帯端末で外に連れ出す。猛スピードで成長していくサマンサを通じて、セオドアも世界を再発見していくことになり、やがてサマンサに心を惹かれていくことになる。つまり、これは人工知能(AI)とのラブストーリーなのだ。

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無生物との恋愛映画である点や、悪者が存在しない点などは、ライアン・ゴスリング主演の「ラースと、その彼女」と似ている。たが、こちらは近未来を舞台にしているぶん、ずっと大がかりだ。上海の風景を取り込んだ未来のロサンゼルスや、ハイウエストのパンツが流行している未来のファッション、アーケード・ファイアによるメランコリックなサウンドトラック、オランダの撮影監督ホイテ・バン・ホイテマによる美しい映像(彼はクリストファー・ノーランの新作『インターステラー』も撮影している)と、映像作家としてのセンスを存分に発揮。だが、最大の魅力は恋愛の痛みと喜びをリアルに投影していることだ。この作品は、スパイク・ジョーンズ監督のオリジナル脚本。SF的な仕掛けが持ち込まれているものの、物語の核は妻との別れを克服する男の物語であり、その点を意識すると、ルーニー・マーラ演じる元妻の容姿や行動がスパイク・ジョーンズの元妻ソフィア・コッポラと似ていることに気付く。そんな彼のパーソナルな経験がたっぷり盛り込まれているからこそ、奇をてらったような設定でありながら、観客の心を揺さぶるのかもしれない。

her 世界でひとつの彼女」は、6月28日から全国ロードショー。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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