コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第244回
2013年12月5日更新
第244回:“ロマコメの名手”R・カーティス監督の新作「アバウト・タイム」の魅力
一昨日の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」と、昨日の「ホビット 竜に奪われた王国」で、今年のゴールデン・グローブ賞のための試写がすべて終了した。これからの数日間は見過ごした映画をDVDでチェックしつつ、審査をしていくことになる。難しいのは、完成度が高いわけではないけれど、好きでたまらない作品の評価だ。
たとえば、リチャード・カーティス監督の「アバウト・タイム(原題)」がそうだ。
カーティス監督は、「フォー・ウェディング」や「ノッティングヒルの恋人」、「ブリジット・ジョーンズの日記」などの脚本を手がけ、「ラブ・アクチュアリー」で監督デビューを果たしたロマンティック・コメディの名手だ。新作「アバウト・タイム」もロマンティック・コメディなのだが、大胆にもタイムトラベルの要素が加えられている。
主人公のティムは、21歳になったとき、父から衝撃の事実を知らされる。彼の家系の男性は、誰もが過去にタイムトラベルする能力を備えているというのだ。しかも、やり方は極めて簡単。暗いところで、両手をぎゅっと握り、戻りたい時間を思い描けばいい。
こんな秘密を知らされたティムはどうするのか? この世を去った人と再会したり、事故を未然に防いだりと、あらゆる選択肢があるなかで、彼はあっけないほどバカバカしい用途にその特殊能力を用いる。それは、ガールフレンド作りだ。
人は良いが不器用なティム(ドーナル・グリーソン)には恋人がいない。可愛いけれど、同様に不器用なメアリー(レイチェル・マクアダムス)と出会ったとき、ティムは新たに身につけた特殊能力を生かして、アプローチを繰り返すのだが、簡単にはうまくいかず、ユーモアが生まれていく。
でも、これは「アバウト・タイム」の魅力のひとつに過ぎない。
実は、リチャード・カーティス映画にはいつも話を詰め込みすぎるという欠点がある。「ラブ・アクチュアリー」はその最たる例で、数人分のキャラクターを削っていたら、ずっとすっきりした作品になっていたと思う。(実際、アメリカで劇場公開されたバージョンは、オリジナル版よりも短い)。
この作品にしても同様で、タイムトラベルが引き起こすトラブルがちょっと多すぎるのだが、クライマックスではすべてを帳消しにするサプライズが待っていた。
「アバウト・タイム」の真のテーマは、文字通り「時間」だ。人は限られた人生をどうしたら満喫することができるのか? ティムは特殊能力を乱用して理想の人生を実現するために躍起になるのだが、やがてタイムトラベラーの先輩である父(ビル・ナイ)から、その極意を学ぶことになる。その方法は、タイムトラベラーではない僕にも実現が可能なほどシンプルでありながら、奥が深い。作品としてはバランスを欠いているけれど、監督のメッセージは僕の心に深く響いた。これはやはり、自分にとっては傑作ということなんだと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi