コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第224回
2013年5月14日更新
第224回:作品の面白さを追求する“マーベル流”映画製作
「アイアンマン3」を見て、マーベルの映画作りの上手さにつくづく感心した。
マーベルが自社コミックの映画化に着手したのは実はわりと最近のことで、2008年公開の「アイアンマン」が最初だ。以降、「インクレディブル・ハルク」(08)、「アイアンマン2」(10)、「マイティ・ソー」(11)、「キャプテン・アメリカ」(11)を立て続けに発表し、これらのヒーローを一斉に登場させた「アベンジャーズ」で世界興行歴代3位という大記録を樹立してしまった。
同じ物語世界を舞台にしているのでそれぞれのストーリーが交差しているうえに、同時進行で作っているから、共倒れのリスクがある。でも、程度の違いこそあれ、どの作品も高いクオリティを維持していることから、いずれもヒットを記録。また、「アベンジャーズ」のおかげで、その次に公開された「アイアンマン3」がシリーズ最高のヒットを記録するなど、相乗効果が生まれている。
最大の功労者は、マーベルの映画制作を統括するケビン・ファイグ氏だ。コミックのみならず映画に関しても幅広い知識を持つ彼は、それぞれの企画に個性的な監督を起用。また、全作品のプロデューサーを手がけ、ストーリーの整合性に目を光らせている。
ただし、「アベンジャーズ」のジョス・ウェドン監督よれば、マーベル映画を担当する監督同士が話しあうことはないという。それなのに、それぞれの作品がしっかり繋がっているのは、マーベルの作品の監督が、過去に作られた作品を確認したうえで新たなアイデアを盛り込む仕組みになっているからだという。おおまかな方向は決まっているものの、細かな点はそれぞれの監督の裁量に任されているのだ。
たとえば「アイアンマン」のラストで、主人公トニー・スタークは自らがアイアンマンであることを公表する。続編を作ることを想定すれば、こんな大胆な変化を盛り込むべきではないのに、マーベルは痛快なエンディングを優先してしまう。その結果、「アイアンマン2」は足かせをかけられてしまうわけだが、あとのことより今製作中の映画を最良にするのがマーベル流なのだ。
最新作「アイアンマン3」でも、あるキャラクターに大きな変化が発生する。嬉しいサプライズだけれど、「アイアンマン4」を作るときにはきっと大きな障害となるはずだ。それでも盛り込まれたのは、「アイアンマン3」を手がけたシェーン・ブラック監督が、作品としての面白さを優先したからだ。ストーリー上の障害は、続編を担当する監督が悩めばいいのだ。
「アベンジャーズ」でマーベルが「フェーズ1」と呼ぶ第1段階が終了しており、「アイアンマン3」は「フェーズ2」の第1弾となる。「マイティ・ソー ダーク・ワールド」、「キャプテン・アメリカ ザ・ウィンター・ソルジャー(原題)」、「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー(原題)」があとに続き、15年公開予定の「アベンジャーズ2(原題)」で、「フェーズ2」が終了する計画になっている。「アイアンマン3」の仕上がりを見る限り、マーベルは「フェーズ2」も安泰といえそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi