コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第147回
2011年8月17日更新
第147回:ハリウッド映画、今年の夏はジャンルミックスでヒットを狙う!?
2011年の夏の映画シーズンがそろそろ終わろうとしている。ハリウッド映画のなかでも夏に公開される超大作はテントポール映画と呼ばれ、映画スタジオ経営の屋台骨を支える重要な役割を果たしている。広い観客層にアピールすることが第1条件のため、この時期に公開される作品に鋭さや深みを期待することはできないが――昨年夏に公開された「インセプション」は例外だったのだ――、それでも判で押したような大作ばかりに見えて、実は観客の好みに合わせて傾向が変化している。今年に関して言えば、異なるジャンルを掛け合わせた作品が多かった気がする。
たとえば、2009年にアメリカで公開された「ハングオーバー!」が好例だ。R指定のコメディでありながら、ミステリーの要素を持ち込むことで、同作はサプライズヒットとなった。今夏公開された続編「ハングオーバー!!」もその方程式をしっかりと踏襲して、しっかり大ヒットを記録している。
ジャンルを掛け合わせる手法は、今夏公開された他の作品にも見られる。
たとえば、スーパーヒーロー映画がそうだ。スーパーヒーロー映画とは、特殊能力を得た主人公の葛藤と活躍を描く人気ジャンルで、今夏も「マイティ・ソー」「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」「グリーン・ランタン」「キャプテン・アメリカ」の4作品が全米公開された。このなかの「X-MEN」と「キャプテン・アメリカ」は過去を舞台にしていることから――前者はキューバ危機、後者は第2次世界大戦――、歴史ドラマとしての魅力が加わっている。スーパーヒーロー映画ではないが、「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」もアポロ計画を物語に取り入れており、史実をフィクションに組み込むことで、歴史改変SFとしての楽しさを提供している。
もっとも大胆なジャンルミックスに挑戦したのが、西部劇とSF映画を合わせた「カウボーイ&エイリアン」だ。開拓時代のアメリカ西部をエイリアンが襲撃するというC級映画的な荒唐無稽な設定ながら、ダニエル・クレイグとハリソン・フォードというトップ俳優が参加したことで、A級のエンターテイメント作品に仕上がっている。取材時にジョン・ファブロー監督も言っていたけれど、この映画の魅力は、エイリアンに襲撃される人々の反応そのものだ。UFOやエイリアンといったものが一般の人々に認知されたのは、冷戦時代に作られた数々のSF映画がきっかけだ。西部開拓時代の人々はエイリアンという概念すらないから、悪魔と勘違いして恐れおののく。宇宙人襲撃モノの舞台を西部開拓時代に移すことで、フレッシュさを生み出すことに成功しているのだ。
ジャンルミックスにはまだまだ可能性が残されているはずなので、今後の展開に期待したい。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi