コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第114回
2009年6月1日更新
第114回:不況の世に各スタジオはヒット確実の続編製作に急ぎ足
「トランスフォーマー/リベンジ」の取材のとき、主演のシャイア・ラブーフくんに続編の可能性を尋ねてみた。前作のときは無名に等しかった彼も、いまや立派な主演俳優だ。「ウォール街」の続編「Money Never Sleeps」や、ジョン・グリシャム原作のサスペンス映画「The Associate」など、話題の企画をつぎつぎオファーされている彼が、拘束期間が長く、肉体的にもハードな超大作に3度も挑戦する意志があるのか興味があったのだ。するとシャイアくんは、まだ正式決定していないと前置きしながらも、「マイケル(・ベイ監督)もミーガン(・フォックス)もみんな、2011年のスケジュールをあけてあるんだ」と打ち明けてくれた。つまり、11年の撮影、12年の公開がほぼ決まっているということになる。
07年に公開された第1弾が世界で7億ドル以上の大ヒットを記録した以上、今夏公開の第2弾がよっぽどひどい成績を出さない限り、今後もシリーズが継続するのは間違いない。しかし、ぼくが驚いたのは、まだ22歳の若者が、2年後のスケジュールをしっかり空けているという事実だった。ぼくなんて、来月の予定も決まっていないのに。
他のフランチャイズ映画の出演者も、シャイア・ラブーフと同じ状況のようだ。たとえば、「アイアンマン」でトニー・スターク役を演じたロバート・ダウニー・Jr.は、「アイアンマン2」と「アイアンマン3」、おまけにマーベル・コミックのヒーローが結集する「アベンジャーズ」まで出演契約を交わしているし、「トワイライト」でブレイクしたロバート・パティンソンとクリステン・スチュワートにしても、第2弾「New Moon」に続けて、第3弾「Eclipse」の撮影に入るから、ずいぶん先まで予定が組まれていることになる。
数年先まで出演者のスケジュールが押さえられているということは、スタジオ側がシリーズものの製作にゴーサインを出しているということだ。これまでは、劇場公開の結果を待ってから続編製作にゴーサインを出すのが普通だったが、最近は公開前に続編の製作をスタートさせるパターンが顕著だ。たとえば、パラマウントは「スター・トレック」の全米公開の2カ月前に、続編にゴーサインを出している(続編の脚本は前作のロベルト・オーチーとアレックス・カーツマンに加えて、「LOST」のデイモン・リンデロフが参加するのでとても楽しみだ)。ソニーも「ダ・ヴィンチ・コード」の続編「天使と悪魔」の公開前に、シリーズ最新作「The Lost Symbol」の製作を発表している。
もっともアグレッシブなのが20世紀フォックスで、「X-MEN」シリーズのスピンオフ「ウルヴァリン/X-MEN ZERO」の公開前に、悪役マグニートーを主役にしたスピンオフ「Magneto」や若いキャラクターを主役にしたシリーズ第4弾「X-Men: First Class」などの企画開発をスタート。さらに、「ウルヴァリン/X-MEN ZERO」の続編や、そのスピンオフ「Deadpool」の企画開発をスタートさせている。
スタジオがフランチャイズ映画の製作着手を急ぐのは、公開の間隔をなるべく狭めるためだ。フランチャイズ映画は、テントポール映画(テントポールは「テントの支柱」という意味)とも呼ばれ、スタジオの屋台骨を支える大切な存在である。世界が不況に陥ったいま、確実にヒットを期待できるのは現実逃避を提供する大作映画のみであり、だからこそ、各社ともリスクを冒して製作を急いでいるのかもしれない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi