コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第25回
2019年12月23日更新
祝!「スター・ウォーズ」完結。感謝の気持ちと、もう十分ですよねという気持ち
12月20日、池袋のグランドシネマサンシャインに「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」を見に行きました。エピソード9にして、シリーズの完結編です。
この完結編を見るにあたって、自身の「スター・ウォーズ」鑑賞史について振り返っていました。以下、極めて個人的な思い出話なので、時間に余裕のある方だけお付き合いいただければと思います。
第1作目の「スター・ウォーズ エピソード4」、後に「新たなる希望」という副題を与えられたものを見たのは、高校生の時でした。冒頭、宇宙船が上手から現れて、スクリーン全体を使ってその巨体をゆっくりと晒し、下手にはけていくシークエンスで、チビりそうになるほど興奮したのを今でも覚えています。嫌いだった柔道の授業は、その日から、ジェダイに扮装する時間に変わりました。剣道の竹刀をライトセーバーに見立ててチャンバラし、先生を困らせました。いま、映画の仕事をしているのも、恐らく十代で「スター・ウォーズ」をリアルタイムで体験したのが原因の一つです。
ちなみにこの時点で、私はまだ「2001年宇宙の旅」を見ていません。田舎(私の場合は青森県)では、映画を見る順番が東京とは全然違っちゃってた。
続く「エピソード5 帝国の逆襲」「エピソード6 ジェダイの帰還」は、いずれも大学生の頃。両作品とも、土曜日の歌舞伎町に先行オールナイトを見に行きました。
「エピソード6」は、デビッド・リンチにオファーが行ってたということを後で知りますが、この頃、私はデビッド・リンチが何者なのか分かっていません。後で「砂の惑星」を映画館で見ましたが、「スティングが出ているから」とかそんな理由で見に行ったような気がします。ティーンエイジャーの私には、デビッド・リンチじゃなくて、断然「スター・ウォーズ」だし、「ポリス」だったわけです。
そして、インターネットの時代になって、ジョージ・ルーカスが20年以上を経て再びメガホンをとる「エピソード1」が製作されることになりました。この発表が正式に行われた時には、すでに映画.comは存在しています。
私たちは「ハリウッドで『スター・ウォーズ』を初日に見よう」と読者に呼びかけて、旅行会社にツアーを作ってもらいました。チャイニーズシアターには、1カ月以上前から行列ができて、私たちも現地で行列に並びながら取材した記憶があります。
1999年7月10日に見た「エピソード1 ファントム・メナス」は、とても微妙な映画でした。私はチャイニーズシアターの席を立った時に「これはヒドい映画よ!大人が見るものじゃないわ」と叫んでいる女性に遭遇し、ちょっと驚いたことを覚えています。「そんなに言わなくても」って思いましたけど、ちょっと同意せざるを得なかった。
この時のツアーでは、「マトリックス」の1作目も鑑賞することができて、プラスマイナスゼロでしたけど。
思えば、この「エピソード1」体験は、自分の「スター・ウォーズ」に対するスタンスが変化したターニングポイントです。そして、恐らく多くの映画ファンが同様の感慨を持ったんじゃないかなと。「ジョージ・ルーカスも、もうお終いか?」って。
その後、年末の旅行でチュニジアに行ったことがあります。パジェロで砂漠をドライブするツアーに参加したら、まったく思いがけず「スター・ウォーズ」のオープンセットを見学できたり、ロケで使ったホテルが残っていたりと、とても興奮した経験があります。「エピソード1」は微妙だったけど、次の「エピソード2」も「エピソード3」もきちんと見届けなくてはって誓いましたね。北アフリカの地で。
そして「エピソード2 クローンの攻撃」も「エピソード3 シスの復讐」も、LAに見に行きました。「スター・ウォーズ」を初日にハリウッドで見るのは、いつしか、自分の中で恒例のイベントになりました。
「エピソード3」で2度目のトリロジーが完結すると、ジョージ・ルーカスも肩の荷を降ろしたくなったのでしょうか。やがて、ルーカスフィルムがディズニーに買収されるという俄には信じがたい報道がありました。
これには本当に驚いた。そんなことアリなのかって。「おいおい、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』をディズニーに売っちまったよ」って。
シリーズがスタートした時のスピリットは変節し、よりコマーシャルな風味を帯びるのは確実でした。しかしまさか、主人公ジェダイを女子にするとは! ここに2つ目のターニングポイントが訪れました。しかし、ディズニーの決断は、株主からしたら大賛成でしょう。これまで、「スター・ウォーズ」があんまりリーチできていなかった女性層に強烈にアピールすることができる。
同じ頃、「ホドロフスキーのDUNE」というドキュメンタリーを見たのも衝撃でした。「スター・ウォーズ」の原型のいくつかが、そこにありありと存在していますからね。このドキュメンタリーを見て、私は「ジョージ・ルーカスは、本質的にスティーブ・ジョブズと同じだな」と思ったほど。自分が発明家なのではなくて、誰か他の人が発明したものをブラッシュアップして、ポピュラーなプロダクトに生まれ変わらせる達人なんだと。
いずれにせよ、そのジョージ・ルーカスも「スター・ウォーズ」から離脱してしまいます。
「エピソード7」から「エピソード9」の時代は、北米の公開と日本公開との時差はなくなり、わざわざLAまで見に行く必要もなくなりました。さらには「スター・ウォーズ」よりも収益性の高い「ハリー・ポッター」とか「アベンジャーズ」ほかMCUといったコンテンツシリーズも開発され、ハリウッドの王者としてのポジションが微妙になってしまった。
今回私が「エピソード9」を見て改めて思ったのは、「プロダクトデザインの古さ」です。ミレニアムファルコンにしても、ライトセーバーにしても、40年前から変わってない。「そういう設定なんだ」って言われてしまえば反論できませんが、それにしてもすべてがレトロに見えてしまう。ワープ航法はあるのに、ネットもスマホもないんですよね、このギャラクシーには。地球の最新テクノロジーとのギャップに違和感を覚えることも多くなった。
そして、私自身も歳をとって、だいぶ嗜好が変わってしまいました。もう「スター・ウォーズ」に限らず、ファンタジー映画には食指が動きません。まったく動かない。
「エピソード9」でポジティブに感じたのは、主演の2人、デイジー・リドリーとアダム・ドライバーの成長です。存在感は安定しているし、演技も堂々としている。ドライバーは他の映画でオスカー候補にもなっていて、貫禄すら感じました。リドリーは、アンジェリナ・ジョリー以来のアクション女優って評価でいいんじゃないでしょうか。次にどんな映画に出るのか楽しみです。
「スター・ウォーズ」の全9作品が完結し、大きなお祭りが終わった寂寥感もさることながら、一方で「もうこれを見なくていいんだ」って安堵感も覚えます。およそ40年、個人的にもメディア的にも、十分楽しませていただきました。関係者の皆さまに深く感謝するとともに、スピンオフを含むすべての続編も前日譚も、一切製作されないことを祈っております。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi