コラム:細野真宏の試写室日記 - 第90回
2020年9月9日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第90回 試写室日記 「映画クレヨンしんちゃん」。新型コロナ時代にどう動く?
今年も「映画クレヨンしんちゃん」の新作「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」が公開されます。
当初は例年通り4月24日(金)と「4月公開」予定でしたが、新型コロナ騒動の影響で今週末9月11日(金)公開となりました。
「映画クレヨンしんちゃん」は1993年の第1作目「映画 クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」から公開され、本作は第28作目となります。
「映画クレヨンしんちゃん」は第1作目「アクション仮面VSハイグレ魔王」の興行収入が22.2億円、第2作目「ブリブリ王国の秘宝」の興行収入が20.6億円と、当初はかなり好調でした。
ただ、1995年の第3作目「雲黒斎の野望」からは興行収入14.2億円と下がり出し、1999年の第7作目「爆発!温泉わくわく大決戦」では興行収入9.4億円と10億円を割り込んでしまいました。
その後は、2011年の第19作目「嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦」までは何とか興行収入10億円台を維持していましたが、2012年の第20作目「嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス」で再び興行収入9.8億円と、興行収入10億円を割ってしまいました。
アニメーション映画と興行収入の関係においては、「入場者プレゼント」が大きく関係していることもあります。ただ、「映画クレヨンしんちゃん」においては、1994年の第2作目から2009年の第17作目「オタケベ!カスカベ野生王国」(興行収入10億円)までは「入場者プレゼント」がありましたが、「入場者プレゼント」をなくした2010年の第18作目「超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」は興行収入12.5億円と上がっていたりと、必ずしも相関関係はないように思われます。
「映画クレヨンしんちゃん」で注目すべき点は2013年の第21作目で橋本昌和監督が出てきた作品から、作品のクオリティーが上がっている、というところでしょうか。
第21作目「バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」は興行収入13億円と、再び10億円を突破しましたが、この作品はかなり出来が良かったのです。
さらに2014年の第22作目からは高橋渉監督も登場し、第22作目「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」も非常に出来が良く、興行収入18.3億円と着実にV字回復をしていました。
その流れを受け、2015年の第23作目「オラの引越し物語 サボテン大襲撃」では興行収入22.9億円と第1作目を超え、過去最高の興行収入を記録するにまでなりました。
そして、昨年2019年の第27作目「新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」(橋本昌和監督)は、おそらく過去最高の出来で、興行収入20.8億円を記録しています。
そのため、もし平時で、この流れで行くと「映画クレヨンしんちゃん」の興行収入は20億円規模が見込めそうという感じになっていました。
ところが、本作「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」から少し流れが変わってくるのかもしれません。
まず、監督が2013年以降と変わり、新監督となっています。
作品の出来については、前作が最高傑作レベルだったので比較はしませんが、想定内の出来となっていました。
そして、何と言っても新型コロナウイルス騒動がある中、「映画クレヨンしんちゃん」のコア層であると想定される未就学児を連れるファミリー層への影響は小さくないのかもしれません。
このアウェイな状況下においては、私は、本作は興行収入10億円を突破できれば十分成功だと思っています。
そもそも初期と、この数年が例外で、基本は興行収入10億円規模のコンテンツではあるので、特にこういう状況下であれば近年ではなく、初期からの全体的なコンテンツの推移で考えることが重要に思えます。
本作では、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」とクライマックスで共通点があるため、そういう視点が広まったりすると作品への関心度が高まり相乗効果があるのかもしれません。
いずれにしても、刻々と変化する新型コロナウイルスに対する認識をはかる意味でも本作の動向には大いに注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono