コラム:細野真宏の試写室日記 - 第76回

2020年6月8日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第76回 試写室日記 【番外編】残念な映画のお金事情―この3年で「100億円以上の損失」を記録した映画ランキング:第1回

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映画は大ヒットすれば大きな利益が得られますが、逆にコケてしまうと大きな損失が出てしまいます。

この「光と影の関係」を考える上での詳細なデータがハリウッドのDeadlineで出たので、それを基に今回はコケた作品と損失額を紹介していきます。

そもそも「映画の損失とは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きな収入として劇場公開で得られる「興行収入」があります。

そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。

その一方で、映画には作るための「制作費」がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかります。通常は、この「制作費」と「P&A費」を合わせて「製作費」と呼びます。

大まかには、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」や「損失」となるわけです。

【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】

まずは、作品のイメージがしやすくなるように、今回は損失が100億円までは行かなかった第15位から紹介します。


●第15位 「くるみ割り人形と秘密の王国」 損失額6580万ドル (65億8000万円規模)

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この作品は、チャイコフスキー作曲の音楽によるバレエ「くるみ割り人形」の原作でもある童話「くるみ割り人形とねずみの王様」の実写映画化なので知名度はありました。

しかもディズニー配給なので、それほど失敗しないイメージはありましたが、確かに物語に斬新さがなく日本でも興行収入は8.3億円と、10億円突破にはなりませんでした。

主役を演じたマッケンジー・フォイは目を見張るほどの美しさだったので、これから注目すべき女優となったのは間違いないと思います。

ただ、脇をキーラ・ナイトレイヘレン・ミレンモーガン・フリーマンなどの名役者が固めても損失額6580万ドル(65億8000万円規模)という結果に終わってしまいました。

●第14位 「ジオストーム」 損失額7160万ドル (71億6000万円規模)

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この作品は、近未来的な自然災害を人為的に操るといった設定でしたが、リアリティ感が乏しい面もあり残念な結果に終わりました。

ところが、日本では配給のワーナーが頑張ったからなのか、国内の興行収入は12.4億円というスマッシュヒットをしているのです!

日本でのスマッシュヒットの理由は、「SF災害映画で予告編などで面白そうに思えたから」や「日本のテーマ曲をB'zが担当したから」くらいしか思い浮かびません。

ただ、日本での頑張りも虚しく、最終的な損失額は7160万ドル(71億6000万円規模)と災害級な結果になってしまいました。

●第13位 「グレートウォール」 損失額7450万ドル (74億5000万円規模)

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この作品は、人類史上最大の建築物である「万里の長城」が舞台のアクション大作映画で、「中国・アメリカの合作」となっています。

中国が舞台ですが、世界的に稼ごうと主演はマット・デイモンで、「HERO」や「LOVERS」などの世界的な大ヒット作でも知られる中国のチャン・イーモウ監督作です。

本作は「中国で撮影が行なわれた映画」の中では史上最高の1億5000万ドル(150億円規模)という制作費がかけられました。

その甲斐があってか中国での興行収入は1億7096万ドル(170億9600万円規模)と、世界の半分以上を稼ぐなど、なかなか健闘していました。

ただ、日本の興行収入は3億2000万円と苦戦し、期待されていたアメリカでも4554万ドル(45億5400万円規模)と、中国の4分の1程度しか稼げませんでした。

さらには、「P&A費」で8000万ドル(80億円規模)をかけるなど、最終的な損失額は7450万ドル(74億5000万円規模)となりました。

●第12位 「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」 損失額7690万ドル (76億9000万円規模)

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この作品は、キラーコンテンツであった「スター・ウォーズ」シリーズで初めての赤字作だったので衝撃を与えました。

確かに注目度は高い作品ですが、ディズニーに買収されてからは、かなりのペースで作られていったため、観客が待ったをかけた形と言えるでしょうか。

実際にこの作品を機に、ディズニーも「スター・ウォーズ」関連のスケジュールを見直す考えを示しました。

本作は、監督がスタジオとの方向性の違い等で変わったりと、最終的に担当したロン・ハワード監督が結局、大部分を撮り直すことになりました。

これで制作費が跳ね上がったことも失敗の大きな要因の一つであり、結局は7690万ドル (76億9000万円規模)もの損失を出してしまいました。

●第11位 「フッド ザ・ビギニング」 損失額8370万ドル (83億7000万円規模)

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この作品は、「キングスマン」シリーズや「ロケットマン」でお馴染みのタロン・エジャトンが主演、レオナルド・ディカプリオが製作を務め、新しい形を求めた「ロビン・フッド」の映画です。

弓矢を使ったアクションシーンなどは、それなりに迫力のあるように撮られていたのですが、それほど物語に新しいものがなく興味を引くことに失敗したようです。

制作費は1億ドル(100億円規模)と決して高すぎるわけではなかったのですが、世界興行収入が8477万ドル(84億7700万円規模)と、制作費にすら届かなかったのです…。

基本的に興行収入の半分は映画館の取り分なので、最終的には「P&A費」なども踏まえて8370万ドル (83億7000万円規模)もの損失を出してしまいました。

タイトルも含めて、続編を狙っていたようですが、これはどう考えても厳しそうですね。


以上のように、ワースト10に行くまでの作品も意外性があって興味深いのです。

では、次回はいよいよ100億円以上の損失を出してしまった作品を第10位から紹介していきます。

特に6位、7位、8位の作品は、誰もが知るような大作映画だったりもします。

≫第2回(第10位~第6位)はこちら
≫第3回(第5位~第1位)はこちら

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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