コラム:細野真宏の試写室日記 - 第139回
2021年9月15日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第139回 「マスカレード・ナイト」。2021年度実写1位の可能性は?
いよいよ今週末の9月17日(金)から木村拓哉×長澤まさみ共演の「マスカレード・ナイト」が公開されます。
本作は2019年1月18日に公開された「マスカレード・ホテル」の続編です。
「マスカレード・ホテル」は、木村拓哉×フジテレビ映画の大ヒット作「HERO」の2作目の興行収入46.7億円とほぼ同じ、興行収入46.4億円という大ヒットをしているのです!
これは、原作者の東野圭吾が、「マスカレード・ホテル」の主人公の刑事・新田浩介には、木村拓哉を想定し書いていたこともあり、かなりのハマり役だったことも関係があるのでしょう。
本作「マスカレード・ナイト」は、原作の「マスカレード」シリーズでは第3弾となっている作品です。
12月31日にホテル・コルテシア東京で開催される「年越しカウントダウン・パーティー」が通称「マスカレード・ナイト」と呼ばれることから、それがタイトルになっています。
そもそも“マスカレード”とは「仮面舞踏会」を意味し、本作では文字通り、参加者が全員、仮面を被って変装した状態で「年越しカウントダウン・パーティー」が行われるのです。
しかも、映画では原作とは異なり、大晦日の1日の出来事となっていて「タイムリミットは24時間で、招待客500名の中から殺人犯を見つけ出さなければならない」という非常に難易度の高いミッションになっています。
ちなみに、この設定で思い浮かべるのは、現在、大ヒット公開中で、細田守監督の歴代興行収入トップに踊り出たアニメーション映画「竜とそばかすの姫」です。
第132回でも書いたように、私は細田守監督の作品は好きですが、「竜とそばかすの姫」では脚本にいくつか難点を感じています。
例えば、「仮想世界U」において「アカウント50億の中から1つを見つけ出さないといけない」という異常に難易度の高いミッションが出てきます。
ただ、映画では、この「特定」の仕方が早すぎるのです。しかも、本来は世界中から探しているため、その相手が日本にいる必然性が全くなかったりする点も含め、やや偶然性に寄り過ぎている面があります。
本来、このような難易度の高いミッションは、1つの作品を作れるほど脚本の見せ場が必要で、面白いネタの宝庫だと思います。
この大掛かりな設定で、過去に脚本で成功していると思った作品に「デスノート」があります。
しかも、「デスノート」ですら、犯人の「特定」については、“数々の難事件を解決してきた特別な世界的名探偵”によっても「かなりアバウトな絞り込み」しかできていないのです。
そして、その後、犯人を見つけ出す(1人を見つけ出す)ことに膨大な時間を割いていくわけです。
そういう視点から見ても、本作「マスカレード・ナイト」の「仮面を被った招待客500名の中から殺人犯を見つけ出さなければならない」というミッションと、それを解決する脚本は非常に良く出来ていると思います。
2020年以降の現在、世界中の映画業界においては、新型コロナウイルスの影響により、制作作業が停滞する事態が起こっています。
これは、不幸中の幸いと言うべきか、「のだめカンタービレ」「翔んで埼玉」などでも有名なフジテレビの若松央樹プロデューサーが「2020年はずっとこの作品の脚本作業をしていた」と語るほど、脚本に磨きをかけていたのです。
作品にもよりますが、映画や連続ドラマの脚本というのは、脚本家だけではなく、プロデューサーや監督らが中心となって細部を詰めたりする工程があります。
本作の場合は、具体的に週に1度は打合せをし、脚本をブラッシュアップし続け、「優に50稿を超える」くらいにまでクオリティーを上げる、という「コロナ禍の利点」を最大限に活用していたのです!
さらに、その完成度の高い脚本を映像化する際において「HERO」でも木村拓哉とタッグを組んだ鈴木雅之監督も見事。「映画」に相応しい華やかな画に昇華させ、流石の演出力でした。
そして、コロナ禍ということを忘れさせてくれるくらいに豪華な舞台における「キャストの競演」はプロフェッショナルそのものと言えるでしょう。
このように、ピンチをチャンスに変えた本作のクオリティーは、確実に前作を超えています。
さて、肝心の興行収入ですが、通常であれば、作品の出来が明らかに上回るので、本作「マスカレード・ナイト」は、前作「マスカレード・ホテル」よりもヒットすることが見込めます。
目下、本年度の邦画実写では、「るろうに剣心 最終章 The Final」がトップですが、フジテレビ映画の「東京リベンジャーズ」(9月12日時点で42億2124万8860円)が追い抜きそうな勢いです。
ただ、もし「マスカレード・ナイト」が前作の興行収入46.4億円を叩き出すことができれば、一気に本年度実写1位にまで行けそうなのです!
一般的に続編映画の場合は、前作を見ていないと厳しくなるなどの理由で「2割減」が目安とされています。
さらには、コロナ禍で、映画館に足を運ぶ人も前作とは単純な比較はできない環境にもあります。
とは言え、これだけの完成度の作品であれば本年度実写1位は十分に狙えるとは思います。
ちなみに、本作は、前作を見ていなくても十分についていけるので、その点では有利なのです。
ただ、欲を言えば、前作を見て、登場人物らの距離感や雰囲気も知ったうえで見ると、より楽しめるのは確かなので、前作をどのくらいの人たちが見るのかも重要になります。
そこで、注目したいのは「鬼滅の刃」の影響力でしょう。
フジテレビ系列では、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の世界最速放送に先駆けて、先週末からテレビ版のスペシャルを、土日19時から放送しています。
そして、その続きが今週の9月18日(土)にもあり、その直後の「土曜プレミアム」で21時から前作「マスカレード・ホテル」が放送されるのです!
つまり、「鬼滅の刃」の視聴率が先週末のように高ければ、その流れで前作「マスカレード・ホテル」を見る人も増えそうなので、これは大きな援護射撃と言えます。
その一方で、台風が公開初週末に来そうだというマイナス要素もあります。
果たして、このコロナ禍を見事に克服した作品がどのような結果になるのか、大いに注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono