フランス文化を愛した高畑勲監督 パリでの展覧会が連日盛況【パリ発コラム】
2025年11月2日 12:00

パリ日本文化会館で10月15日から、「高畑勲 今日のアニメーションのパイオニアー戦後からスタジオジブリまで」展が始まり、連日満員御礼の盛況を見せている。これまでスタジオジブリ展などはパリでも紹介されてきたが、高畑勲単独の展覧会は初めとあって、フランスの全国紙などでも取り上げられた。
プレス内覧ではスタジオジブリの田中千義氏と高畑監督の息子、耕介氏が解説をおこなった。
田中氏によれば本展は大方、この夏麻布台ヒルズギャラリーでおこなわれた高畑勲展と同じ構成ながら、フランスのシネマテークが所蔵する高畑の素描ノートを展示したコーナーが新たに加わったという。

全体は時代順に4章に分かれ、1章は「出発点―アニメーション映画への情熱」として、高畑がポール・グリモーの「王と鳥」(当時の題名は「やぶにらみの暴君」)に啓蒙され、アニメーション制作を決意して東映動画に入社した後、「太陽の王子 ホルスの大冒険」(1968)で初長編監督を務めるまでのプロセスに光を当てている。高畑は途中、中断も含め3年かかった難産の本作で、従来のアニメーション制作にある縦型のヒエラルキーを崩し、スタッフが映画のコンセプト、脚本やキャラクターのグラフィック・コンセプトに関われるような制作システムを作り上げたという。
第2章は「日常生活のよろこびーアニメーションの新たな表現領域を開拓」。「アルプスの少女ハイジ」(1974)、「母をたずねて三千里」(1976)、「赤毛のアン」(1979)を中心にアニメーションの新たな可能性を切り開いた過程を追う。とくに宮崎駿をはじめとする、高畑映画に重要なコラボレーターたちとのチームワークにより、海外を舞台にした作品において、日常生活の細部にわたる丹念な描写がなされていったことが伺える。

第3章は「日本文化への眼差し―過去と現在の対話」。「じゃりン子チエ」(1981)、「セロ弾きのゴーシュ」(1982)など、日本を舞台にした作品に集中するようになった高畑が、日本の風土や庶民の生活のリアリティにこだわったさまが見てとれる。
最後の第4章は「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999)と「かぐや姫の物語」(2013)を取り上げ、「スケッチの躍動―新たなアニメーションへの挑戦」と題し、肉体表現のさらなる細やかさを模索した過程が示される。「山田くん」ではセル画ではなくデジタル技術を活かして手描きの水彩のタッチを表現。さらにその技術を進化させた「かぐや姫の物語」では、日本中の優れたアニメーターが集結。橋下晋治が担当したかぐや姫の疾走シーンでは、わずか2秒のシーンのために52枚もの絵が用意されたという。それを解説する動画は、アニメーションのもっとも手間のかかる作業が素人にもわかりやすく伝わり、感銘を受ける。

また高畑耕介氏は、高畑監督がいかにフランス文化を愛し、影響を受けていたかを語った。
「父が生きていたら、フランスで行われたこの展覧会をとても光栄に思ったことでしょう。父は西洋の文化とその価値に魅せられ、ポール・グリモー監督の『王と鳥』を観て感銘を受け、アニメーション映画の制作を手がけることを決心しました。また(脚本を担当した詩人)ジャック・プレヴェールを大いに愛していました。(中略)彼はつねに人間の人生を豊かに描くことを切望し、いかにリアルに描写して人々の心に届くものにできるかに心を砕いていました。そこには多くの人に理解して頂ける普遍性があると思います。本展がよりたくさんの人に父の仕事を知ってもらえるきっかけになれば幸いです」と挨拶した。
さらに本展に合わせて日本文化会館では高畑作品のレトロスペクティヴも開催。なかでもテレビシリーズ12話を集めた「狼少年ケン」(1963)とアニメーション入りの実写ドキュメンタリー「柳川堀割物語」(1987)の2つはフランスで初公開となる他、グリモーの「王と鳥」(1980)や、高畑がアーティスティック・プロデューサーを務めたマイケル・デュドク・ドゥ・ビット監督の「レッドタートル ある島の物語」なども上映される。
展覧会は2026年1月24日まで。特集上映は10月31日まで続いた後、来年2月2日から2月7日まで再上映される。展覧会はその後2026年4月24日から9月27日まで、スイス、ローザンヌにあるコンテンポラリー・デザインと応用美術の美術館(MUDAC)でも開催される。(佐藤久理子)

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