「てっぺんの向こうにあなたがいる」あらすじ・概要・評論まとめ ~日本が生んだ世界的な登山家・田部井淳子の素顔を温かい視線で描く~【おすすめの注目映画】
2025年10月30日 08:30

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本記事では、「てっぺんの向こうにあなたがいる」(2025年10月31日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会吉永小百合の124本目となる映画出演作で、女性で初めて世界最高峰エベレストの登頂に成功した登山家・田部井淳子をモデルに、人生のすべてを懸けて“てっぺん”に挑み続けた女性登山家の姿を描いたドラマ。
1975年、エベレスト日本女子登山隊の副隊長兼登攀隊長として、世界最高峰エベレストの女性世界初登頂に成功した多部純子。その偉業は世界中を驚かせ、純子自身や友人、家族たちに光を与えたが、同時に深い影も落とすこととなった。登山家としての挑戦はその後も続き、晩年には闘病生活を送りながら、余命宣告を受けた後もなお、純子は笑顔で周囲を巻き込み、山に登り続けた。
キャストには、田部井淳子をモデルにしたキャラクター、多部純子を演じる吉永のほか、夫・正明役に佐藤浩市、エベレスト登頂の相棒で純子の盟友・北山悦子役に天海祐希、青年期の純子役にのんが名を連ねる。吉永主演の「北のカナリアたち」でもメガホンを取った阪本順治が監督を務め、同作以来13年ぶりに吉永とタッグを組んだ。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会阪本順治監督と吉永小百合が「北のカナリアたち」以来、13年ぶりにタッグを組んだ感動作。実在の女性登山家・田部井淳子(作中では多部純子)の生涯を描き、女性だけでエベレスト初登頂を果たした不屈の精神を軸に、のちに病魔に侵されながらも人生の頂を目指す姿を、青年期と現在の2つのパートに分けて活写する。出演は若い頃の純子をのん、その夫・正明を工藤阿須加、現代パートを吉永と佐藤浩市がそれぞれ演じる。ほかに若葉竜也、木村文乃、天海祐希ほか。
1975年、日本で初めて女性だけの登山隊でエベレスト登頂に成功した純子は一躍メディアの注目を浴びるが、そんな彼女に反発を覚え、去っていく仲間たちもいた。結婚し家庭を持ちながら、輝かしい実績を築いていく純子だったが、一方では反抗期の息子が勝手に高校を辞めてしまうこともあった。そして後年、純子は自分の体調不良に気づき、夫を伴って精密検査を受ける。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会世界有数の登山家を描いているとはいえ、題名からも分かるように、この作品はいわゆる“山映画”ではない。のんが演じる前半部分も、資金調達やスポンサー探しの難しさ、家庭との両立、メディア対応など、今から半世紀も前に、世界の最高峰に挑んだ女性たちが受けた社会からの逆風を、近所の人々や、夫の同僚たちの反応、子どもが見せる表情などを絡めたエピソードをさりげなく積み重ねていく。登頂に成功するシーンは派手なCGや演出を控え、ドキュメンタリータッチで、淡々と描いている。
反面、吉永が演じる現在パートは、子どもたちの成長とそれに伴う家庭内のトラブルはありつつも、ピアスやシャンソン(実際の田部井さんは50歳を過ぎてから、他にも運転免許、ブログ執筆、競馬予想、スマホなどに挑戦した)など多くの趣味を嗜み、また登山を通して青少年の育成にも貢献し、病を抱えながらも夫に支えられ、前向きに人生を謳歌した「人間・多部純子」が描かれる。過去に「顔(2000)」「魂萌え!」などで女性の機微を表現してきた監督の冴えた手腕が感じられる。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会映画は、同じ主人公を2人のキャストが演じる構成にしながらも、過去のシーンをセピアにしたり枠を付けたりといった、ありきたりな方法は取らず、あくまでもそれぞれの女優の魅力を生かしながら、一つの人生を自然に描いている。脚本と編集の巧みさによって、身長もルックスも違うのんと吉永が、次第に融合するような不思議な感覚を味わった。
なお本映画の原作を含め、田部井さんが遺した著書には、山登りを通してのマネジメントの大切さが記されている。大きな目標に向かいながらも、きれいごとだけでは済まない偉業の裏側がリアルに描かれ、男性登山家とは違った味わいがある。「淳子のてっぺん」(唯川恵著)などの評伝を含め、興味のある方はぜひご一読を。
執筆者紹介
本田敬 (ほんだ・けい)
映画.com外部スタッフ。映像宣伝会社エクラン代表。監督は成瀬巳喜男とドゥニ、ビルヌーブ、女優は高峰秀子とブリット・マーリングが好み。落語好きで古典も新作も好きな爆笑派。
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