「ワン・バトル・アフター・アナザー」スピルバーグ、スコセッシ、コッポラはどう観た?
2025年10月9日 16:00

3大映画祭で監督賞を制覇したポール・トーマス・アンダーソンが監督を務める「ワン・バトル・アフター・アナザー」(公開中)。SNSで続々と感想が発信されている本作について、「激突」で壮絶なカーチェイスを描いたスティーブン・スピルバーグ、本作の主演レオナルド・ディカプリオと7度目のタッグが決定したマーティン・スコセッシ、「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」などで知られるフランシス・フォード・コッポラという映画界の巨匠たちも、それぞれの言葉で本作を激賞している。
世界初お披露目となったワールドプレミアに先駆けて行われた特別上映イベントで、アンダーソン監督と対談したスピルバーグは、「なんてクレイジーな映画なんだ。すべてが最高!」だと絶賛。この時、既に3回鑑賞していたことを明かした。

全米公開の直前、全米監督協会の上映会でアンダーソン監督と対談したスコセッシは、「魅惑的で、並外れた出来栄えの映画で、至る所で素晴らしい演技が光る。現代社会を見事に反映していて、単なる傑作ではなく、現代アメリカ映画における画期的な作品だ」と、作品の構築力だけではなく、普遍的でありながら時代性を見事にとらえた作品だと評価した。
滞在中のローマで本作を鑑賞したというコッポラは「2度観たい作品だ。まるでキューブリックの映画のように、もう一度観たいと思った。私にとって非常に感動的な作品だった」と自身のInstagramに投稿している。

スピルバーグとコッポラは、スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」を引き合いに出し、本作を語っている。名優ジョージ・C・スコットが怪演したバック・タージドソン将軍の振る舞いは、本作である目的を果たすために主人公ボブ(ディカプリオ)と娘のウィラ(チェイス・インフィニティ)を執拗に追いかけるロックジョー(ショーン・ペン)の姿に重なる。
「スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』にこれほど近いトーンの映画は見たことがない」と断言するスピルバーグは、変態軍人ロックジョーを演じたペンについて「彼のキャリアの中で一番好きな演技だと言わざるを得ない。あまりにも奇妙でありながら、同時に現代に通じる要素が絶妙に組み合わさっていて、これまでポール・トーマス・アンダーソンが監督したどの作品よりもアクションが満載で、何もかもが本当に素晴らしい」と分析。

「まるでキューブリックの映画のように、もう一度観たいと思った」と語るコッポラも、「ロックジョーというキャラクターの奇妙な名前から、キューブリックのタージドソン将軍をすぐに連想した」と指摘している。
アンダーソン監督は、キューブリックの傑作と並べて語られることについて「『博士の異常な愛情』と言われるのは怖かった。多くのフィルムメーカーたちがこのような作品を作ろうとして失敗してきたからだ。むしろ、手を出すべきでない作品だと感じている。この作品が僕らとは全く別世界に存在していることをリスペクトしなければいけない。模倣したり、いじったり、手を出すべきではない傑作だから」と謙虚に受け止めた。そして「そんな風に評価されることは光栄で褒め言葉として受け止めているが、『博士の異常な愛情』はある種、触れてはいけない領域のように思っている」ともコメントしている。

本作の脚本は、60年代のヒッピーが80年代をどう生き抜くのかを描いたトマス・ピンチョンの「ヴァインランド」にインスパイアされている。脚本も手掛けたアンダーソン監督は「20年前にこの物語に取り組み始めた。当初はカーアクション映画を書きたいと思った。2000年代に入り、トマス・ピンチョンの『ヴァインランド』を脚色することを思いついた。これは1980年代にピンチョンが書いた、1960年代を題材にした小説だ。だからあれから20年以上経った今、この物語が何を意味するのかを考えていた。さらに、私の頭の中に漂っていた3つ目のアイデアは、女性の革命家というキャラクターだ。要するに、私は20年間にわたってこれらの異なる糸を引っ張り続けてきて、結局そのどれもが私の中から消えることはなかった」と述懐。

「カーチェイス」と「ヴァインランド」が描いた主人公の世界観、そして「女性の革命家」。3つの要素をつなぎ合わせたアンダーソン監督は、「久しく手掛けていなかった現代劇であり、とても解放的だった。本当に楽しかった。なぜなら、当時の車や小道具が整うのを待つ必要がなく、撮りたいときに撮りたいものを撮れるからだ。そうして自由に進めながら、物語をいろいろな形に変化させていくことができた。撮影は、テキサス州エルパソからカリフォルニア州ユリカまで、さまざまな地域で行われ、その場所自体が物語を育んでくれた。映画に登場する高校のダンスシーンの子どもたちは、実際にその学校に通う生徒たちだ。我々はまずその学校を下見し、流れていた曲をすべて録音し、生徒たちが着ていた服を記録した。そして再び彼らを呼び戻し、その高校でダンスを撮影した。現代劇においてはとても良いやり方だったと思う」と、自由に撮影を進めることができたと振り返っている。

また、アンダーソン監督が本作で描くテーマについて、コッポラは「現代のアメリカで実際に起こっていることを舞台にしたアクションストーリー、現実を舞台にした架空のスリラーという点が気に入っている」とし、すべての登場人物たちに“世界の今”が宿っていると指摘するスコセッシは「現代社会を見事に反映していて、単なる傑作ではなく、現代アメリカ映画における画期的な作品だ」と最大級の賛辞を送っている。
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