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「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」あらすじ・概要・評論まとめ ~無駄を優雅に、エレガントに、ゴージャスに作り込む美学の粋~【おすすめの注目映画】

2025年9月18日 08:30

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「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」
「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」
Courtesy of TPS Productions Focus Features (C) 2025 All Rights Reserved.

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!

本記事では、「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」(2025年9月19日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。


画像2Courtesy of TPS Productions Focus Features (C) 2025 All Rights Reserved.
【「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」あらすじ・概要】

ウェス・アンダーソン監督がベニチオ・デル・トロを主演に迎え、ビジネスの危機的状況を打開するべく旅に出たヨーロッパの富豪ザ・ザ・コルダが、娘で修道女のリーズルとともにさまざまな事件に巻き込まれていく姿を描いたコメディ。

独立した複数の都市国家からなる架空の大独立国フェニキア。6度の暗殺未遂を生き延びたヨーロッパの大富豪ザ・ザ・コルダは、フェニキア全域におよぶインフラを整備する大プロジェクト「フェニキア計画」を画策していた。成功すれば、今後150年にわたり毎年ザ・ザに利益が入ってくる。しかし妨害により赤字が拡大し、30年かけて練り上げてきた計画が危機に陥ってしまう。ザ・ザは資金調達のため、疎遠になっていた娘で後継人の修道女リーズルとともに、フェニキア全土を横断する旅に出るが……。

共演にはケイト・ウィンスレットの実娘で俳優のミア・スレアプレトンマイケル・セラリズ・アーメッドら、ウェス・アンダーソン監督作に初参加のキャストに加え、トム・ハンクススカーレット・ヨハンソンベネディクト・カンバーバッチらおなじみの顔ぶれも集結。2025年・第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。


●無駄を優雅に、エレガントに、ゴージャスに作り込む美学の粋(執筆:川口敦子)
画像3Courtesy of TPS Productions Focus Features (C) 2025 All Rights Reserved.

繰り返される暗殺の試みを未遂のままにくぐり抜け、6度目の墜落事故をサバイブした“larger than life”な存在、ちまちまとした実物大の日常とは無縁、リアルを超えたどてらい男ザ・ザ・コルダ――50年代欧州に君臨する大富豪が血まみれの顔で生々しい墜落現場にヌッと立つ。演じるベニチオ・デル・トロのこってりと脂身多めな持ち味もあってン⁈ かわいくおしゃれなウェス・アンダーソン(以下WA)界の変貌かと、思わず身を乗り出したくなるすべり出しだ。

が、続くオープニング・クレジット、豪邸のバスタブで優雅にくつろぐザ・ザを俯瞰のスローモーションに掬い取る長まわしは、瀟洒な床のタイル、ビデでさりげなく高級ワインのボトルを冷やすノンシャランな洒落ものぶりに目をやってああ、相変わらずおしゃれなWA界健在、ただしちょっとかわいさはセーブ気味、と新世界構築への意欲も感知させる。

画像4Courtesy of TPS Productions Focus Features (C) 2025 All Rights Reserved.

そんな一場に「アンタッチャブル」のブライアン・デ・パルマへの目配せを指摘するプロダクション・ノートはまた、オーソン・ウェルズジュリアン・デヴィヴィエジャン=ピエール・メルヴィル、さらにはルイス・ブニュエルへの言及にもふれていて、これみよがしの対極で静かに全うされているWA的シネフィル道のことを思わせもする。

で、デ・パルマといえばアルフレッド・ヒッチコックとついつい妄想を逞しくするとトウモロコシ畑に墜落というのも「北北西に進路を取れ」をかすめ見て? と勝手にうれしくなってくる。もっといえばタイトルにもある“フェニキア計画”そのものがヒッチ曰くの「なんでもない」もの=マクガフィン、筋を運ぶためだけのいってしまえば大いなる無駄なのではと思えてくる。その無駄を優雅に、エレガントに、ゴージャスに作り込む、そこにWAの美学の粋があるのだと改めて感じ入りもする。

画像5Courtesy of TPS Productions Focus Features (C) 2025 All Rights Reserved.

シューボックス(「グランド・ブダペスト・ホテル」のお菓子箱のピンクから渋い茶系になっている点も要チェック)に箱詰めにされた“計画”とその損益補充の担い手確保をめざして断行される旅。水運、鉄道、発電と壮大な計画をめぐって華麗なるスターを配したプロットは大詰めの異母兄弟ザ・ザとヌバルの取っ組み合いの子供じみた喧嘩まで(WAと仲良しの監督アルノー・デプレシャンの家族もの、こんがらがった神話と系図のことも少し想起させる)、それぞれに世界最古の映画スタジオ、バーベルスベルグの底力を味方につけて構築された世界で贅沢に展開される。無駄にこそ贅を尽くす心意気を貫いて本物の絵画、宝石をそこここにあっけらかんと置く映画は、しかしその大いなる無駄の果てに父娘のほとんどハードボイルドなやりとりに滲む濃やかな親愛の情、そこに行き着くまでの波乱万丈の行路をこそ物語の核心としてみせる。

くわえてちょっと超現実な天上界、宗教的なモチーフ、はたまた父娘再会のテーブルに居座る頭蓋骨が象るメメントモリ(死を想え)やヴェニタス(人生の虚しさ)のモチーフのさりげない置き方でWA世界の成熟を否応なしに思わせもするだろう。おまけの情報として、疎遠の父娘をめぐる物語をもうひとりのアンダーソン、PTA(ポール・トーマス・アンダーソン)の新作もまた差し出しているようで見比べのお愉しみに乞うご期待。

執筆者紹介

川口敦子 (かわぐち・あつこ)

映画評論家。著作に「映画の森―その魅惑の鬱蒼に分け入って」(芳賀書店)、訳書には「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」(キネマ旬報社)などがある。


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