【「アステロイド・シティ」インタビュー】ウェス・アンダーソン監督が語る、盟友ジェイソン・シュワルツマンとの間に生まれた“奇妙な偶然”
2023年8月30日 10:00

「グランド・ブダペスト・ホテル」「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」など、唯一無二の世界観と美学で、映画ファンの心を掴むウェス・アンダーソン監督。1950年代アメリカの舞台や映画への愛に溢れた最新作「アステロイド・シティ」がいよいよ、9月1日に公開される。映画.comのインタビューで、アンダーソン監督は、盟友ジェイソン・シュワルツマンとの出会いから、本作で生まれたある“奇妙な偶然”までを振り返り、映画・脚本づくりのこだわりを語った。(取材・文/編集部)

舞台は1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落下してできた巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーら、参加者たちがそれぞれの思いを抱えるなかで授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ、人々は大混乱に陥る。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽するなか、子どもたちは外部へ情報を伝えようとする。
キャストには、シュワルツマンをはじめ、エドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォーら、アンダーソン監督作品の常連俳優陣が集結。さらに、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、マーゴット・ロビー、スティーブ・カレルら、豪華キャストが顔をそろえた。

そもそも本作は、(一緒に原案を担当した)ロマン・コッポラと話して、「ジェイソンのために何か書き下ろしたいね」という思いから始まっているんです。ジェイソンとは、彼が17歳だった頃からの知り合い。僕の第2作で、彼のデビュー作でもある「天才マックスの世界」以来ずっと、親密なお付き合いをしています。非常に興味深く、面白く、多彩で、そして作品に全身全霊で力を注ぎ込むタイプです。

今回は、彼が主役とはいえ、アンサンブルキャストで組んでいる作品。彼は自分の撮影がない日でも、ちゃんと役になりきって、衣装を着て現場にやってきて、役の通りに振る舞うんです。周囲は全然気付かなくて、「今日出番があるのかな」と思っているようですが、僕だけは「彼は今日、本当はオフなんだよ」と知っているんです(笑)。それでも現場にやってきて、オフ日を一切とらず、「自分がやりたいからやる」という人なんです。
ミュージシャンとしても非常に才能豊かで、型にはまらないオリジナルな考え方ができる人なので、それが役者としての才能にも生かされていると思います。俳優は演技をする上で、いろいろな取捨選択をしますが、その選択がとても面白くて。僕だけではなく、彼自身も我ながら驚いてしまう、「目から鱗」という瞬間があるんです。また僕と彼の間に緊密な信頼関係があって、親友であることが、うまく映画にも生かされていると思います。

当時は主役を見つけるために、8カ月くらいオーディションが続いていたんです。なかなか、ぴったりのキャストが見つからなくて。ただ、ジェイソンが部屋に入ってきたときに、2分で「あぁ、この人だ」と(笑)。主役に起用しようというだけではなく、「この人とは長年の友だちになれそうだな」と思いました。

このキャラクター造形には、実は奇妙な偶然がありました。オーギーは妻と死別して、悲しみを携えたキャラクター。最初にロマンと物語を練っているときは、彼をアーサー・ミラー的な劇作家に仕立てようとしたんです。彼がこのストーリーを物語って、かつ自ら出演するという設定。ですが、そのうち「ロバート・キャパ的な戦場カメラマンにしよう」と変更しました。
ジェイソンには、「君のために書き下ろしている話があるから」とあらかじめ知らせて、きちんとスケジュールをおさえましたが、内容は一切伝えませんでした。いざ脚本が書き上がって、彼に渡したとき、びっくりしていました。なぜかというと、「妻と死別して、子どもにその事実を隠している」という設定が、彼自身の家族のストーリーと重なっていたんです。

彼の父と伯父は、40年代か50年代の頃、ニュージャージーから西海岸に引っ越しました。ふたりはその道中、母が亡くなっている事実を知らされなかったそうなんです。ジェイソン曰く、彼の父は後に、「お母さんのお葬式は、いつだったんだろう?」と、いろいろ考えたそうです。ジェイソンの家族にそんな過去があると知って、何という奇遇だと、僕はびっくりしました。ロマンはジェイソンの従弟なので、家族の歴史を知っていたのかなと思ったんですが、確認してみたら、ロマンも一切その事実を知らなかったようなんです。だから、とてもおかしな偶然なんです。
当時は多くの人が、東側の都会からカリフォルニアへ移住して、カリフォルニアが栄えていった時代。さらに、悲しみやトラウマについて、家族同士で語り合うという世代でもなかった。目を向けたくないものには蓋をする時代だったと思うので、偶然とはいえ、「あの時代では、こんなこともありうるのかな。結果的に、時代背景が表れた物語になっているのかな」とも思いました。


死別や喪失ではなく、「家族イベント」というモチーフが、脚本の起点になっています。私たちにはそれぞれ仕事や、友だちとの付き合いがありますが、自分の生活や人生のなかで、家族が集まるイベントは、かなり大きな部分を占めると思うんです。「こういうテーマを探求しよう」と意識するというよりも、ストーリーを書き始めると、自ずとそうしたテーマが出てきて、自分の人生や経験が投影されるんです。

いつも「これまでの作品とは全然違うものを作ろう」と考えていますが、キャラクターを創造していくうちに、脚本を書き進めていくうちに、自分のなかの何かが反映されている特定の方向に引っ張られるんです。書いている間は自覚がなくても、完成した映画を振り返ってみると、「また自分の人生が反映されているな」と気付くこともあります。だからといって、無理やり方向を変えることもしません。書いていくうちに、「こういう方向に進みたいんだな」という物語の意志が出てくる。流れに身を任せて、物語が自ら生まれ出ずるというのが、僕のプロセスです。

例えばホラー映画だったら、あるいはアクション映画だったら、観客を怖がらせる、手に汗握らせるという明確な目的があると思います。僕が何かを作る場合、観客から特定のリアクションを誘発したいという思いは、あまりないんです。時には笑わせ、時にはほんのり悲しい思いをさせることもありますが、「こういう反応を狙おう」という意図はなく、より広く、観客の皆さんに共通体験をしてもらいたいと思っています。リアクションは人それぞれだと思いますし、映画づくりを、より抽象的な観点から見ています。そういう作り方をしているので、あまり固定のジャンルにはまらないんだろうと思います。
「こういった構造で描くから、観客はこう思うだろう」ではなく、「僕はこういうことに興味があって、もっと掘り下げたくて、皆に考えてほしくて、経験してもらいたくて……」という思いなんです。僕は、あの時代の舞台や演劇にすごく神秘性を感じていて、惹かれるんです。また、50年代の西部の砂漠を舞台にした、西部劇ではないアメリカンシネマも大好きなんです。そういう世界で自分も生きてみたいし、自分のキャラクターも据えたいという欲望があって、この物語を作りました。観客に、より豊かな体験を提供したいという気持ちで、映画を作っています。

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