草彅剛&樋口真嗣監督「新幹線大爆破」へ注いだ情熱と分厚い信頼関係【インタビュー】
2025年4月25日 17:00

高倉健さんが主演した1975年公開のサスペンス映画の傑作「新幹線大爆破」が、50年の時を経てNetflix映画としてリブートされた。手に汗握るパニックアクションとして蘇らせたのは、「日本沈没」以来18年ぶりにタッグを組んだ草彅剛と樋口真嗣監督。完成した作品に強い手応えを感じるふたりに、話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)
キアヌ・リーブス主演の「スピード」にも多大な影響を与えたとされる佐藤純彌監督作「新幹線大爆破(1975)」は、東京・博多間を走る新幹線に仕掛けられた爆弾をめぐり犯人と捜査当局の対決を描いた意欲作だ。リブート版となる今作では、これまで様々な作品でスペクタクル映像と人間ドラマを融合させてきた樋口監督が、時速100キロ以下に速度が落ちると爆発する爆弾が仕掛けられた新幹線を舞台に最新のVFXと特撮を融合させ、極限の状態の中で人命を守るために奔走する人間の攻防を描く。
樋口監督は、「日本沈没(1973)」「太陽を盗んだ男」、そして「新幹線大爆破」を好きな映画として公言しており、うち2本を自らのメガホンでリブートしたことになる。今作についても長年にわたり構想を温め続けてきたそうで、その熱い思いが企画を突き動かす原動力になったことは想像に難くない。

樋口監督「Netflixの中で企画にGOが出るとき、外資系の会社なので信号みたいに『グリーンライトが出た』とか格好いい言い方をするわけです。そこにたどり着くまでに、もちろん脚本は作るわけですが、誰に向けてどう作るのかという企画の検証は日本の映画会社とは全く違うんです。見た人にどう伝えるのかなど、心構えとしてきちんと用意しておかなければならない。そこは気合が入りました。
キャスティングは、企画が通ってからです。これまでは意外とキャストありきで、そこからどうするかだった。今作はまずストーリーをどうするのかを組み立ててからでないと動いてはいけないという流れがあったので、すごく丁寧にアプローチができたと思います」
草彅は、「日本沈没」以降も樋口監督とは定期的に連絡は取り合っていたという。18年という短くない間に「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」で相まみえることもあったわけだが、久々に主演俳優としてオファーを受けたときの心境は筆舌に尽くしがたいものがあっただろう。

草彅「監督が新作を撮るという噂を聞くと『剛くん、今度仕事をすることになるよ!』と連絡をくれたりして、でも発表されてみたら別の方が主役だった……みたいな状態が18年続いたわけです(笑)。今回も『剛くん、今度面白い企画を考えているからね!』と連絡をいただいていたんですが、半信半疑だったんです。やるやる詐欺じゃないか? あったとしても『進撃の巨人』の時のような1シーンとかかな? って。
ただ、僕が連絡を取り合っている監督って樋口さんだけなんです。いつも心の中にある関係で、波長が合うというか、監督が『今度仕事するよ』と言いながら実際は僕とやらなくても、実はなんとも思っていませんでした。とはいえ僕の作品を見ては感想の連絡をくれたりもしていたので、この2~3年はそろそろ本当にやりたいなって思っていましたから、今回のお話は絶妙なタイミングでした。
かなりの助走期間でしたが、最高の助走になったんじゃないかな。自分の代表作にするつもりでいつも挑んでいますが、すごく良いものが出来たと思っています。最高でしょう? 監督は撮影中から『これはいいよ!』と言っていて、完成した作品を試写室で見たときは2人で抱き合いましたから。キャラクターの誰ひとり欠けても成立しない。本当に胸を張って、僕の代表作だと言えます」


草彅の言葉をかみ締めるように、横で目を細める樋口監督の表情からは“座長・草彅”への揺るぎない信頼がうかがえる。そんな樋口監督は撮影前、新幹線の設計に詳しい識者に「どのようなメカニズムなのか?」を聞いて回り、研究を重ねていったそうだ。
それもそのはずで、現代の日本にあって新幹線は“通勤”にも利用されるなど、もはや欠かすことのできない移動手段のひとつだ。システムが確立されているなかで、爆弾の仕掛けられた新幹線が停車することなく走り続けることが可能なのか? そんな状況は起こり得るのか? そして起こった場合はどのような影響が想定されるのか? そういった疑問をひとつずつ潰していくことで、樋口監督をはじめとする製作陣は理論武装を増強していった。
何より、JR東日本の特別協力が得られたということに、驚きを隠せない。75年版が、当時の国鉄の協力を得られなかったことの方がうなずける。東北新幹線・新青森発東京行きのはやぶさ60号が舞台となるわけだが、撮影に際しては特別ダイヤで専用貸し切り車両を7往復走らせたほか、鉄道各部署の業務内容、所作や言い回しまでJR東日本が監修したという。これほどまでの協力が得られたことで、作品にとっても最も大きな力になったことを聞いてみた。

樋口監督「色々なことが分かった、ということですかね。もちろん説得力のある画が撮れるということもありますが、それ以上に質問したら戻ってくる言葉が素晴らしかったんです。脚本を読んでもらって『こういう時に社員の方はどういう反応をしますか?』『こうはなりません』『じゃあ、どうなりますか?』というやり取りの後の打ち返しが素晴らしかったので、感動しました。脚本の一字一句にいたるまで精査し、それをこちらが反映するという繰り返しでしたし、ひとりひとりの芝居についても所作含めて全部付き合ってくれました。それが本当にありがたかったですね」
一方、草彅は爆弾が仕掛けられたはやぶさ60号に車掌として乗務する主人公の高市に扮している。乗客を安全に目的地まで届けるという信念を胸に秘め事件と車内の対処に当たるが、極限の状況下で究極の選択を迫られることになる……という役どころだ。

筆者は「碁盤斬り」で取材した際、草彅から生前に交流のあった高倉健さんへの思いを聞いていた。「実は毎日、健さんのことを考えて撮影していました。京都・太秦の撮影所だったこともあって、健さんも若い頃にバンバン撮影されていたんだろうな……と思ったりしましたし。待ち時間も結構あったので、自然と健さんが僕の中に降りてきてくれていた気がします。寡黙な役だったので、健さんの佇まいから拾えるものがないかなとか、本当に常に健さんのことを考えて過ごしていましたね」。奇しくも「新幹線大爆破」も健さん主演作。今回も撮影中に健さんの息吹を感じることはあったのだろうか。
草彅「撮影中は何もなかったんだよね。お話をいただいたときは、健さんと繋がる作品ということで嬉しかったんです。『鉄道員(ぽっぽや)』をイメージしたりしてね。すごく可愛がってもらったし、演技している時には、どこかで見てくれているんじゃないかと思って頑張れているところもあるので。

とはいえ、健さんは到底たどり着けない領域なので、何か少しでも近づけたらいいなと思いながらお芝居をしているのですが、初号試写を観ている時に健さんの声が聞こえてきたんです。『ちゃんと生きていないとその役に見えないよ、剛くん』って言われたような気がして。どの役もそうなんですが、出来たものを見るときは不安なんです。今回はなんとか車掌に見える!と思って。その時にまた、健さんの声が聞こえてきたんです。『うん、そうやって役になるには普段からちゃんと生きていないとダメだよ』って。その声が聞こえたので、撮影の時も健さんがそばにいてくれたんですよね。近すぎて感じなかったのかもしれません」
取材中の草彅と樋口監督は、笑顔を絶やすことなく和気あいあいとした雰囲気を崩さない。ここからは、ふたりの空気感が感じられる対談形式でお届けする。

草彅「ストロングポイント? いいね。あなたのストロングポイントは? これが俺のストロングポイント!みたいな使い方ですよね。今度取材のときに使ってみよう」
樋口監督「20年近く前から知っているからこそなのかもしれませんが、良い年の重ね方をしていますよね。この20年で、本当に色々なことがあったわけです。だけど、そういった経験が全て演技者としてのレイヤーになっている印象なんです」
草彅「レイヤー? 格好いいなあ。横文字いいねえ」
樋口監督「ストロングポイントに対抗してさ(笑)。重ね着もレイヤードって言うよね?」
草彅「洒落た言葉を使わないでよ。でも、いいね。役者としてのレイヤー……。すごい誉め言葉じゃないですか」

樋口監督「本当に見るたびに違う顔になっていてさ。そのたびに演出家に対して嫉妬ですよ。悔しい! 俺も撮りたい!って。でもそれは格好悪いから言えないわけです。仕事をする時に、ちゃんと言おうって思っていました」
草彅「それで、やるやる詐欺になっていたんだね」
樋口監督「そうそう。いいのありそうだよ! と言うとダメになったりね」
草彅「レイヤーが増えている時にこの作品で監督と久しぶりに会えて、かえって良かったのかもしれませんね。僕としては感謝しかないんです。樋口監督、ありがとう。監督は本物の男。足を向けて寝れませんよ。こんなに素晴らしい作品に携われて、感謝しかありません。今後もこの感謝を胸に、新たな可能性を秘めた作品でご一緒できたらなと思っています」
樋口監督「20年後ではなく、もっと早くね(笑)」

最後は冗談めかした樋口監督だが、これだけの大作のメガホンをとるうえでの重責は計り知れない。劇中に「ベストかベストじゃないかではなく、やるかやらないかの責任」というセリフがあるが、作品全体からそういった矜持を感じることが出来る。

樋口監督「今作には、大勢の人が登場します。それぞれの人物にそれぞれの人生があるはずなので、どんなに短い出演時間であっても、その人がどういう人生を歩んできたのかというのをちゃんと答えとして用意しておいた方がいいなと思っていました。たとえそれが画面に出なかったとしても、どういう人生なのかをひとりひとり考えて目くばせし、映った時にそれが出るといいかなって考えながらやっています。なんとなくいる人というのは、今作にはひとりもいないはず。皆それぞれの人生、役割があって、それぞれのラストシーンに向かっていくというお話にしましたから」
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執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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