【来日インタビュー】シンシア・エリボ×アリアナ・グランデ×ジョン・M・チュウ監督、いま「ウィキッド　ふたりの魔女」が求められる理由は？

2025年3月5日 13:00

初演から20年以上にわたり愛され続ける大ヒットブロードウェイミュージカル「ウィキッド」が、ついに舞台からスクリーンへ――。「ウィキッド　ふたりの魔女」と題された映画版は、名作児童文学「オズの魔法使い」に登場する魔女たちの知られざる物語を2部作で描く超大作の第1弾だ。

すでに各国で大ヒットを記録する本作を携え、後の“西の悪い魔女”となるエルファバを演じるシンシア・エリボ、“善い魔女”となるグリンダ役のアリアナ・グランデ、そして、メガホンをとったジョン・M・チュウ監督（「イン・ザ・ハイツ」「クレイジー・リッチ！」）が緊急来日した。第97回アカデミー賞では10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞、美術賞を受賞。世界中に魔法をかけた3人が、日本のファンに向けて、作品の魅力を語った。（取材・文／内田涼）

●いま「ウィキッド　ふたりの魔女」が求められる理由

――批評・興行の両面で大成功を収め、日本のファンも公開を待ち望んでいる「ウィキッド　ふたりの魔女」。これほどまでに、この作品が求められる理由は何だと思いますか？

エリボ：社会が混迷するなかで、誰もがありのままの自分を理解してほしいと願っているし、価値観を押し付けたりせず、優しく寛容な眼差しを求めている。自分らしくあろうとして、裏切られ、傷ついた経験は、エルファバにも私自身にもあります。だからこそ、「ウィキッド　ふたりの魔女」という作品を通して、他者と話し合うきっかけが生まれればと期待しています。自分の考えを変えたり、相手を許したりということが、どんなことなのか、いまこそ見つめ直すときが来ているんだと思います。

グランデ：私も同感です。いまの時代は、あまりにも多くの分断が起こっている。だからこそ、誰かの味方になり、寄り添うことがとても重要だと思います。映画を見てもらえれば、わかってもらえるはずですが、どの登場人物も完全な悪、完全な善とは言い切れない。人間らしさって、そういうものですよね。人はどう成長し、ときにいかに憎悪と向き合うか。とてもタイムリーな題材であり、「オズの魔法使い」が書かれた時代から受け継がれるタイムレスな物語だと思います。

チュウ監督：緑色の肌をもち、周囲から誤解されてしまうエルファバと、野心的で美しく人気者のグリンダが、最初こそ激しく衝突するけれど、試練をともに、かけがえのない存在になっていきます。見た目も性格も全く異なる正反対のふたりが違いを乗り越えて、友情を結ぶ姿は、世界中の人たちが求めている美しい物語なのだと思いますね。

●親密な関係性から生まれた“ふたりの魔女の絆”

――エルファバとグリンダの絆、それは演じるおふたりの親密な関係性から生まれたものといえますね。

グランデ：それは断言できます。本作はハードな挑戦の連続だったけれど、シンシアがいなければ、絶対に成し遂げることはできなかった。全てを演技に注ぎ尽くして、疲れ切ったときなんて、お互いを「Husks」（抜け殻）なんて呼び合ったりして（笑）、ときには自分の出番が終わっても、シンシアがそばにいてくれた。これほどの愛と安心感を共演者と分かち合えるなんて、本当に恵まれていた。映画から、私たちの絆を感じてもらえたなら、それは本当に自然と溢れ出たもの。共演そのものが、感動の旅路でした。

エリボ：出会った瞬間に、特別なつながりを感じました。今回の撮影は長丁場で、たくさんの試練が待ち受けているとわかっていたから、お互いをケアし合うことを大切にしたし、アリアナの存在には、喜びを感じるほどに勇気づけられた。学びや発見を求める喜びを一緒に共有したかったし、彼女と一緒だと、いつも“特別な何か”が起きていました。

グランデ：（エリボに）なんて素敵なことを言ってくれるの！

エリボ：何より、アリアナにとっては「ウィキッド　ふたりの魔女」が初めての映画出演。しかも、これほどの大役に挑むんだから、普通、こんなことはできない。でも、（隣に座るグランデを見つめて）あなたはオープンマインドに学び、前に進む勇気を持っている。つまり、アリアナ……、あなた自身が「グリンダがなりたいと願う人物」なのよ。

グランデ：（感激しきりで、エリボの肩に顔を寄せながら）シンシア、あなたこそが最も優しい心の持ち主。真に魔法の力を持っている、そう、本物の魔女なのよ。

●映画を彩る名曲の数々はライブ収録「これぞ最善の判断だった」

――映画を彩る名曲の数々は、出演者が撮影現場で生歌唱した“ライブ収録”だそうですね。

チュウ監督：その場で、俳優のみんなに歌ってもらう。これぞ最善の判断でした。説明は不要だと思うけれど、シンシアもアリアナも最高のパフォーマーだから、「あえてそうした」というよりは、自然な流れでそうしたんです。それが実現可能なふたりだし、いとも簡単にやってのけてしまう。少なくとも、僕の目にはそう映りました。実際、セリフと歌唱がシームレスになることで、観客は違和感を覚えることなく、物語に集中できるし、音楽の力もより力強く感じてもらえるはずなんです。

――空高く飛び立つエルファバが、名曲「ディファイング・グラヴィティ」をエモーショナルに歌いあげる姿には、本当に心が動かされました！

エリボ：もちろん、簡単なことではなかったです（笑）。空中をくるくる飛びながら、歌を歌うなんて……。声を張り上げる楽曲だし、実際に挑んでみると、文字通り“グラヴィティ”（重力）に抗いながらの歌唱で、肺活量がいつも以上に必要だった。結果的には新たなスキルが身についたわけで、いつか別の機会に生かせたら良いですね。

グランデ：現場でシンシアの生歌を聞けるのは、私と監督、それに数少ないスタッフだけ。この世のものと思えないアカペラで、聞くたびに感動していました。

●トップスターが明かす、夢を叶える方法とは？

――アリアナ、あなたにとって「ウィキッド　ふたりの魔女」出演は、念願だったそうですね。

グランデ：そう、何年もの間、オーディションを受ける機会をうかがっていました。いざ、オーディションを受けられると決まったら、トレーニングの毎日。演技はほとんど経験がないし、声に関してもクラシックやオペラの歌い方を一から学びました。真摯に取り組んだから、どんな結果であろうと、自分自身は誇りに思えるだろうと感じていました。何度か監督から「もう1度、オーディションに来て」とコールバックがあって（笑）。

チュウ監督：ごめんね（笑）。

グランデ：もちろん、結果がわかるまではソワソワして、落ち着かなかったけど、合格の連絡をもらったときは人生最高の瞬間で、涙が止まらなかったです。

――シンシアからも、ぜひ“夢を叶える方法”を教えてほしいです。

エリボ：まず「ノー」と言われることを許容してはいけないということです。絶対に、認めてはダメ。もちろん、夢は突然叶うものではないし、努力を積み重ねることが必要。そうでなければ、絶好のチャンスが舞い込んでもつかみ取ることはできない。それに夢という言葉を聞くと、まるで雲の上にぷかぷか浮かんでいるものだと想像しがちだけど、実際には大地に根差した、リアルに触れられるもの。それに手を伸ばす渇望と努力を忘れないでほしいです。自分の夢がわからないのであれば、まずは自分らしくいることを心がければ、おのずと夢が見えてくるはずですから。

「ウィキッド　ふたりの魔女」は、3月7日から全国公開。