堂本剛27年ぶり映画単独主演作「まる」の興行収入はどのくらい期待できる?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2024年10月18日 08:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末2024年10月18日(金)から映画「まる」が公開されます。
この作品で特に注目すべきは、「荻上直子監督作品」と「堂本剛27年ぶりの映画単独主演作品」という点でしょう。
荻上直子監督といえば、何と言っても2006年に公開された「かもめ食堂」が有名です。
フィンランドのヘルシンキを舞台に“何かが起きそうで何も起きない”というような不思議で独特な世界観を表現し、「荻上直子監督作品」という個性を発揮し注目を集めました。
今はシネコンの台頭で、公開規模が非常に小さな、いわゆる「ミニシアター系の作品」というのは存在感が弱まりつつありますが、「かもめ食堂」はミニシアター系で大ヒットしました。
メイン館のシネスイッチ銀座などで「初日動員記録」過去最高を更新。報道によってブームが広がっていき、上映館数も増え、最終的に興行収入5.8億円を記録しました。
ここで、「通常の映画のヒットのラインは興収10億円ではないの?」と思う人も多いと思いますが、これは「制作費」によって採算ラインは大きく異なります。
「かもめ食堂」は、フィンランドで撮影をしていますが、制作費はだいぶ抑えられていると予想しています。
そして、「かもめ食堂」の主要キャストがそろった次回作「めがね」 (2007年)も興収5.2億円の大ヒットを記録しました。
この2作品で、「荻上直子監督作品」の不思議な魅力の原型は出来上がっているように思います。
個人的には近年の「川っぺりムコリッタ」(2022年)も好きでしたが、リアルなのですが不思議な作品で紹介しにくいイメージがあり、興収1.16億円で終わりました。
このように、「荻上直子監督作品」は、基本的にはクオリティーの高い作品が多いのですが、現時点ではそれほど大衆受けが見込める作品でもないようです。
次に、注目したいのは、主演の堂本剛です。
「27年ぶりの映画単独主演作品」ということですが、具体的にはヒット作「金田一少年の事件簿 上海魚人伝説」(1997年)以来なので、未知数な面もあります。
ただ、「銀魂」(2017年)や「銀魂2 掟は破るためにこそある」(2018年)での存在感や演技力を見るに、役者としての注目度や力量は高いと思います。
実際に本作は、まさに「堂本剛のための映画」と言えるくらいに「堂本剛の自然体の演技が最大級にフィットしている作品」となっています。
それは、荻上直子監督が「主演:堂本剛」を目標に、過去のインタビューなどを徹底的にリサーチし、脚本をアテ書きして作られたからです。
これまでの荻上直子監督作品は“何かが起きそうで何も起きない”ようなイメージがありましたが、本作では一転して、様々なことが起こっていきます。
本作で注目したいのは、主演の堂本剛だけでなく脇を固める役者の演技の上手さもあるのです。
これは荻上直子監督作品の特徴なのですが、キャスティングが本当に上手く、みんなが良い演技をしているのです。
例えば、主人公の隣の部屋に住んでいる綾野剛。
割と精神を病んでいるような特殊なキャラクターなのですが、その演技を見ると「綾野剛ってこういう人なんだな」と思い込んでしまいそうになるほどの説得力があります。
また、「ミャンマー出身のコンビニ店員」を演じているのは森崎ウィンですが、「森崎ウィンはこうやってキャスティングすべきだよな」と思うような見事なキャスティングでした。(というのも、森崎ウィンは、実際にミャンマー出身だからです)
他には、どんな役でも自然に上手くこなし、存在感のある柄本明が「物事の道理を把握している先生」という不思議な人物を演じていて、これも良いです。
さらには、「かもめ食堂」から荻上直子監督作品には欠かせないような存在である小林聡美は、「あ~こんな役で」と思うような大事な役で登場しています。
このように、「荻上直子監督×堂本剛」の化学反応によって、かつてないくらいに「荻上直子監督作品」が魅力的になっているのです。
ちなみに、特に終盤に大きく色を添えている劇中の音楽を「.ENDRECHERI. 堂本剛」名義で堂本剛が担当していて、これも見事にハマっていました。
さて、このように本作はポテンシャルが高い作品なのですが、興行収入はどのくらい期待できるのでしょうか?
まずは、最近の状況を考えると、2次利用の配信を先に契約することで1億円くらいを回収できていると予想します。
そこで、製作費をP&A費も含めて3億円弱とすると、興行収入4億円あたりがリクープラインになると想定されます。
そのため、本作の目標は、まさに「荻上直子監督作品」の最高興行収入5.8億円を更新できるかどうかでしょうか。
果たして「荻上直子監督×堂本剛」の化学反応がどこまで効果を発揮できるのか大いに注目したいと思います!
執筆者紹介
細野真宏 (ほその・まさひろ)
経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono
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