川っぺりムコリッタ

劇場公開日:2022年9月16日

川っぺりムコリッタ

解説・あらすじ

「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子監督が2019年に発表したオリジナル長編小説を、自身の脚本・監督で映画化。松山ケンイチ主演、ムロツヨシの共演で、孤独な青年がアパートの住人との交流を通して社会との接点を見つけていく姿を描く。

北陸の小さな町にある小さな塩辛工場で働き口を見つけた山田は、社長から紹介された古い安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。できるだけ人と関わることなく、ひっそりと生きたいと思っていた山田の静かな日常が、隣の部屋に住む島田が「風呂を貸してほしい」と山田を訪ねてきたことから一変する。山田と島田は、少しずつ友情のようなものが芽生え始め、楽しい日々を送っていた。しかし、山田がこの町にやってきた秘密が、島田に知られてしまい……。

主人公・山田役を松山、島田役をムロがそれぞれ演じる。タイトルの「ムコリッタ(牟呼栗多)」は仏教の時間の単位のひとつ(1/30日=48分)を表す仏教用語で、ささやかな幸せなどを意味する。

2021年製作/120分/G/日本
配給:KADOKAWA
劇場公開日:2022年9月16日

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(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

映画レビュー

4.0 話さなくても、声だけでも

2022年9月20日
iPhoneアプリから投稿

「ムロさんが出ている映画はおもしろい」と子どもたちは信じている。だから、本作に誘ったときも「観るみる〜」とすぐに乗ってきた。…けれども、本作のムロさん=島田は、いつもとちょっと違った。
 いきなり「風呂を貸してくれ」とやってくる隣人。その頼み方は愛想のかけらもない。いつの間にかお茶碗にお椀、箸持参で登場し、風呂上がりのビールまでセットになっていく。
 もしかすると、島田はASDかもしれない、と途中から思った。空気や相手の感情を読み取るのが下手、決まった手順にこだわりやすい。彼の図々しさは悪気がない。でも押しが強くて、ヘンでおもしろいと思われるか、不気味だと思われるかは相手によるだろう。
 そんな彼をしぶしぶ受け入れる主人公•山田。山田は、埋めようのない大きな穴を抱えている。とにかく働かなければ生活が成り立たない。頼る人も戻る場所もない。周りと距離を置いてきた山田の生活に、強引に入り込んできた島田。2人でご飯と野菜(と塩辛)を食べているうちに、山田の世界は少しずつ広がっていく。
 ハイツ・ムコリッタの住人は、それぞれに穴を抱えている。妊婦のお腹を蹴りたくなる大家の南さんも、結構あぶなっかしい。島田の穴はぼんやりとしているが実は深く、山田の過去を知った彼は突然距離を置くようになり、山田は戸惑う。そんないびつな彼らを取り巻く人々が、とにかくいい。島田の旧友、ガンちゃん(黒田大輔さん!)や山田の同僚の中島さん(江口のりこさん!)はそれらしいセリフもなく、特に親切なことをするわけでもない。でも、確かに彼らに寄り添っている。加えて、山田を背中をそっと押す上司(緒方直人)や福祉課の担当者(柄本佑)に加え、「いのちの電話」の窓口の女性(薬師丸ひろ子、声だけ!)の存在も忘れ難い。隣に誰かがいれば、穴をふさぐことはできなくても、少しだけ小さくしたり、うまく付き合っていくことは出来るのだ。
 気づけば、荻上監督作品との付き合いは長い。監督の作品は「ゆるぎない女主人がいる」というイメージが強かった。ちょっと現実離れした世界の中に登場人物たちを放ち、クスリとする笑いや、ホッとする瞬間など、淡い感情をすくい取る。それが大きく変わった、と思ったのは「彼らが本気で編むときは、」だ。これは、喜怒哀楽がくっきりしていた。淡々と穏やかに/諦めて日々を過ごしているように見える人々の心の奥底に、たぎるもの。熱量ある感情をじわじわと描きながらも、監督らしいおかしみがあった。
 そして、本作。さらに監督は進化した、と思う。もはや、軸となる「ゆるぎない」人物は登場しない。その代わり、彼らはひとときの異世界から現実に戻る必要はなく、普段の生活の中に、確かな手ごたえを手に入れていく。
むらさきの花、金魚、蜘蛛、そして新鮮な野菜たち。映画と自分の日常をつなぐあれこれも、うれしい余韻だった。そう言えば、子らに教えてこなかったな、と、胡瓜の馬と茄子の牛に乗って亡くなった人の魂がお盆に帰ってくる、という話をした。
子どもたちは、やっぱりムロさんをおもしろがった。そして、「映画観てたらお腹がすいた!」ともりもりご飯を食べた。骨つき肉って映画のほね(遺骨)を想像しない?と尋ねてみても「そうかな? でも、おいしいからいいや〜」と全く気にせず。そんな健やかさを、ありがたいと思った。

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cma

4.0 磐石のキャスティングで描かれるファンタジックな法話

2022年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする 1件)
共感した! 18件)
ニコ

4.5 崖っぷちを描きながらも微笑ましく優しい人間賛歌的な作品。独特な時間の流れを感じられ、これぞ荻上直子監督作品!

2022年9月16日
PCから投稿

「かもめ食堂」(2006年)でブレイクし、「めがね」(2007年)もヒットした荻上直子監督作品の根底にある作風は、「時間の流れが違う」ということでした。どこかゆったりと優しい時間が流れている独特な作品となっているのです。
近年はそれほど映画で見ないな、と思っていたら、ようやく「THE荻上直子監督作品」の登場です。
しかも、タイトルに「ムコリッタ」と、仏教における「時間の単位」の一つが使われています。

1日は誰にでも平等に24時間となっています。
1日を24で割ったものが1時間。
ただ、「1時間=60分」という前提を変えることは可能です。

1日を30で割ったもの、それが「ムコリッタ」という単位です。
具体的には「1ムコリッタ=48分」となり、通常の時間よりは細かくなります。
ちなみに、「一瞬」を意味する「刹那(せつな)」は、仏教では「時間の最小単位」を意味します。

この「ムコリッタ」に「川っぺり」という言葉をかけ合わせると、どういう化学反応が生まれるのでしょうか?
川は台風のたびに氾濫し、川沿いで暮らす人たちは「日常でなくなる瞬間」と隣合せで生きています。そうした状況に常に脅かされギリギリを感じながら。
ただ、実は誰しもが、どこかしらでそんなギリギリを感じて生きています。
そんな私たちは、「ささやかな幸せ」を細かく見つけていったりすることで何とか持ち堪えられている面があるのです。
このような人間の本質的な面を本作は描き出すことに成功しています。
崖っぷちの厳しい状況を、どう乗り越えていけばいいのか、時にはユーモラスに語り掛けているのです。
本作は、出演者も何気に豪華で、さらに「荻上直子監督作品」らしくご飯がとても美味しそうにも感じられる、質素に見えながら贅沢な作品でした。

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共感した! 31件)
細野真宏

5.0 刹那が重なり人生になる

2026年4月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

「川」を軸にして、死生観・人生観・倫理・共同体の境界をゆるやかに重ねている作品だった。

川は時々氾濫し、境界を崩してしまう。
同じように、人間の倫理や努力では制御できないこともある。
人間の生・死・倫理・関係性が、
しっかり固定されたものではなく、常に揺れ動く境界として描かれていた。

亡くなった人と話をした人と、話をしたがる人。
理性で衝動を制御できた人と、できなかった人、
近づきたくないのに、近づいてくる人。
それがいいか悪いかよりも、それでも一緒に過ごせる、そんな優しい空間だった。

人と関わることで、自分に向き合うことにもなっていく。

「どんな人もいなかったことにしてはダメだ」
と言われた後に、たくさんの引き取り手のない無縁仏を目にしたり、

「自分の中にそういう気持ちがあるってことだけで人間って怖いなって思う」
と言われた後に、自分の過去を悔やむ。

他人に介入して欲しくないのに、どんどん入り込まれ、
毎日ご飯を一緒に食べ、言葉を交わし、
本音をもらし、笑顔になる。

刹那、怛刹那(たせつな)、臘縛(ろうばく)、牟呼栗多(むこりった)

刹那は時間の最小単位で、怛刹那(たせつな)、臘縛(ろうばく)と順に長くなり、
映画のタイトル『ムコリッタ(牟呼栗多)』は、約48分の時間単位を指す。

短い時間の積み重ねが、人生を築き上げ、
小さな縁の積み重ねが、人生を彩っていく。

葬儀は、『残された側の癒しの儀式』
という人がいた。
新しく出会った、それぞれ影のあるような人たちと、特別なお葬式をした主人公が、
光に溢れた人生を積み重ねられたらいいなと思うような作品だった。

note(YouKhy)でも書いています。

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YouKhy