釈由美子、特撮がつないだ世界の映画人との縁を語る 目指す境地は「守りに入らない芝居」【「Ike Boys イケボーイズ」インタビュー】

2024年6月12日 18:00


釈由美子
釈由美子

日本の特撮、アニメに対する愛情とオマージュが満載のアメリカ映画「Ike Boys イケボーイズ」が6月14日より全国公開を迎える。

メガホンをとったのは、日本の特撮を見て育ち、日本への留学経験もあるというアメリカ人映画監督のエリック・マキーバー。「日本カルチャー好きのオタクが、世界を守るために立ち上がる」という物語の主人公は、監督自身の学生時代を投影。撮影も自身の故郷であるオクラホマ州を中心に行われ、日本特撮への愛情を爆発させている。

日本からは、釈由美子岩松了金子修介監督らがキャストとして参加。さらには「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督が、劇中アニメーションのナレーションを担当している。

釈は、キーパーソンとなる女性レイコ役として参加。釈が主演を務めた映画「ゴジラ×メカゴジラ」を観て「いつか一緒に仕事をするのが夢だった」と語るマキーバー監督たってのラブコールにより、海外作品への出演が実現した。

今回は釈にインタビューを敢行し、“特撮”がつないだ世界の映画人たちとの縁、そして海外での撮影について話を聞いた。(取材・文/壬生智裕)


●監督と初対面→リュックから出したのは「ゴジラ×メカゴジラ」のDVD

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――映画を観て、とにかく日本が大好きだ、という監督の愛情や思いをギュッと詰め込んだような映画だと思ったのですが。

そう言ってもらえると、監督のエリックもすごく喜ぶと思います(笑)。

――どのような経緯でこの作品のオファーがあったのでしょうか?

この映画はアメリカ映画なんですけど、オーディションではなく、エリックが直接、日本の事務所に来てくださったんです。その時に、彼が「僕が買ったDVDなんです」と言いながらリュックから出したのが「ゴジラ×メカゴジラ」(笑)。その映画でわたしは家城茜という役を演じていたんですが、「いつか一緒にお仕事をするのが夢だったんです」と言ってもらえて。当時、高校生だったエリックの心に響いたんだなと思って本当に感動したんです。今回のレイコという役が「茜という役にシンパシーを感じさせるものだ」というお話をいただいたので。ぜひ一緒にお仕事をしたいと思いました。

――監督は相当、日本のカルチャーがお好きなんでしょうね。

そうなんです。彼は日本のアニメや特撮が大好きなオタク少年で、大学生の頃に早稲田大学に留学で来ていたこともあるんです。そこで日本語を学んだので、日本語がペラペラなんですよね。だから日本人っぽい感じもありましたね。

●撮影はコロナ禍直前 オクラホマの撮影では監督の母校へ

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――先ほどリュックからDVDを出して、というお話がありましたが、オファーを受けた時はどんな感じだったのでしょうか?

とにかくウキウキしながらしゃべってましたね。ただわたしはその時、まったく映像が浮かばなくて。アニメとか、特撮とか、アメリカのエリックの母校で撮るんだとか、いろいろと言われたんですけど、正直ピンとこなかったんです。でもその企画自体が面白いと思って。その後、台本が届いてからは、Zoomでやり取りしたり、打ち合わせをしたりして。それがちょうど2020年の1月ごろの話でした。

――となると、ちょうどコロナ禍の直前くらいでしょうか。

パンデミックになる直前でした。1月にアメリカのオクラホマで撮影して。3月にも東京で撮影したんですけど。オクラホマの撮影から帰ってくる頃には空港中がみんなマスク姿でしたし、3月の東京での撮影は向こうのスタッフが来られなくなってしまって。急きょ日本のスタッフを集めて撮影を行った、というくらい緊迫感がありました。オクラホマの撮影も、1カ月か2カ月くらい撮影が押したらお蔵入りになってたかもしれない、というくらいギリギリのタイミングでした。

――オクラホマの撮影はいかがでした?

前半は(主人公たちが通う)高校のシーンをエリックの母校で撮影をして。わたしが演じるレイコのシーンは後半の方で撮ったんですけど、これは実はもともとビザがなかなか下りない時期だったからなんです。アメリカ大使館からビザが下りないんですよ。ちょうどトランプ政権で(外国人の入国が)厳しかった頃で。それでようやくビザが下りたという時に、その足で空港に行くような感じだったんです。だから着いたら休みなく、時差ぼけの状態でインして、という感じでした。

●監督は日本語ペラペラ「すごく助かりました」

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――現場でのコミュニケーションはどうでしたか?

一応ビリー(・ゼイン)や、スタッフさんとは英語でしゃべったりしていましたが、でもなんといってもエリックが日本語ペラペラなので。監督とのやり取りが全部、日本語でできたのはすごく助かりました。やはり海外の現場だと、通訳さんがついたりして。コミュニケーションが大変だって聞きますからね。

――撮影場所はオクラホマということで、いかがでしたか?

やはりバジェットが限られてる中で、何とか頑張ってつくった作品なんですけど、アットホームというか。もともとエリックと一緒に仕事してるようなスタッフさんたちが集まっていたので。皆さん、すごく優しかったです。あとは控室がトレーラーで、ハリウッドっぽくてかっこいいなと思ったり。ケータリング(食事)も豪華でしたね。

ビリー・ゼインの強すぎるこだわり 芝居は30パターンを用意!?

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――現場で印象的なことはありましたか?

それがハリウッド流なのかどうかは分からないのですが、ビリー・ゼインさんのこだわりは強かったですね。やはりハリウッドは予算があってスケジュールに余裕があるからどれだけ押しても平気なのかなと思ったんですけど。

わたしの場合は、頭でこういうキャラクターなのかなと考えていって、それをテストで見せてから、監督に微調整してもらうという感じなんですけど、ビリーの場合はAパターンからBパターン、Cパターン……と30パターンぐらい用意してて。全部やるんですよ。それぞれ微妙に違うもの、すごく違うもの、セリフもあえてアレンジしたものとか。とにかくいろんなパターンをやってみせて。監督がBパターンを気に入ったからOKですよと言っても、もっとやるから見てくれといって。それを延々と撮ってるという感じでした。

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――低予算映画とはいえ、それができるのは、スケジュールに余裕があったということなのでしょうか?

いや、ちょっと押していたと思います(笑)。わたしは次の仕事があったので、もともと組まれていた期間内に撮らなきゃいけない。これ以上スケジュールは延ばせないという中で、撮休もなく、カツカツで撮っていましたけど、その中でもビリーは自分のスタイルを貫いていました。

――ビリー・ゼインさんとは夫婦役ですが、現場ではどんな感じだったんですか?

ビリーさんはすごく優しかったですね。われわれからしたらビリーさんって大俳優なんですけど、お芝居の中にも、かわいらしい部分があって……といったらおそれ多いんですけど、そういうセクシーな中にもちょっと愛嬌(あいきょう)を入れたりとか。気難しそうに見えるけど、実はそんなことなくて。それからなんといってもオーラがありました。実は共演したあとに、もう一度「タイタニック」を観たんですけど、この人と一緒に共演したんだな、奥さん役をやってたんだなと思うと、すごい胸熱でした(笑)。

●海外の現場は「ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染」で経験済 撮影時の苦労は?

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――釈さんはこの作品の前に「ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染」というカナダのホラー映画にも出演していて、本作が海外進出2作目となります。

実は「ロックダウン・ホテル」のときも、過去の「ゴジラ」や「スカイハイ」「修羅雪姫」などを観てくださった監督が、日本人のキャストを使いたいということでオファーをしてくださったんです。だからオーディションを勝ち抜いてとか、そういうのではなく、ある意味、監督が求めている日本の俳優像、女優像にたまたまうまくはまっただけだと思っているんですよね。そういう意味では、アメリカ映画だから、カナダ映画だから、日本の映画だからと、全部を分けて考えているわけではなく、それぞれがひとつの作品で。スクリーンを通して皆さんに伝えたいという気持ちなので、ものづくりの現場という意味では同じだと思います。

ただわたしは本当に英語が苦手なので。若いうちからやってればよかったなと……。英語はすごいネックで。だから今後も積極的に海外作品に出たいです、とは言えないところがあるというか。たまたまエリックみたいに日本語ができる監督だったら助かるんですが。カナダのときも、直前に何カ月も練習してコーチをつけて練習をしていました。

●「修羅雪姫」「ゴジラ」国境を越えて――海外への伝播は「役者冥利に尽きる」

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――「修羅雪姫」も世界中で観られていたようですね。

確か「THE PRINCESS BLADE」という英題で公開したんですよね。ドニー・イェンさんがアクションを手掛けていたというのもあって注目をしていただいたんです。

――釈さんが主演を務めた「ゴジラ×メカゴジラ」は当然、海外でも人気ですし。近年では「仮面ライダージオウ」にもゲスト出演をされていました。王道の特撮作品に数多く出演してきたというキャリアがあるからこそ、今につながっているという感覚もあるのでは?

そうですね。やはりひとつひとつの作品に対して真摯(しんし)に向き合っていかないといけないなと思いますし、それが国境を越えて海外の人たちにまで伝わって。エリックのように影響を受けたと言っていただいて。次の作品のオファーをいただけるというのは本当にうれしいですよね。役者冥利(みょうり)に尽きるというか。ちょうど「G-FEST」というゴジラのイベントがシカゴで毎年開催されているんですけど、昨年そこに参加させていただいたんです。アメリカのゴジラブームというか、熱がすごいんですよね。「ウォー!」「アカネ!」みたいに歓声があがったりして、日本よりもイベントの盛り上がり方がすごくて。すごくうれしかったです。

――「ゴジラ」に出演していた頃といえば、「修羅雪姫」でワイヤーアクションに挑戦したり、ドニーさんとアクションをしたり、「ゴジラ」では自衛隊でのトレーニングに参加したりとアクションづいてたと思うのですが。

ちょうど「チャーリーズ・エンジェル」とか、ああいうアクションが人気の時代だったので。それはあったのかもしれませんね。ワイヤーアクションもはやっていましたし。「修羅雪姫」はわたしの初出演映画で、初主演映画だったんですけど、監督は「キングダム」の佐藤信介監督でしたし、アクションはドニー・イェンさんが担当してくださいました。今考えるとすごいことですよね。そこでアクションを教えていただいて、アクションに目覚めて、今につながっているという感じですね。

●「もっと戦わせてよ」アクションシーンにおける撮影秘話

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――今回の映画でも釈さんのアクションシーンを観ることができます。

ただ自分ではそんなにアクションをしたつもりがなくて。だからもっと戦わせてよっていう気持ちはありましたけどね(笑)。

――あれは最初からアクションをやってほしいというリクエストがあったのですか?

いえ、始めはアクションが入るというのは聞いてなくて。多分、そこにいたアクションコーディネーターの方に、ちょっと動けますよと言ってやってみせたら、「いいじゃん!」ということになって。それで(殺陣を)つけてもらったんだと思います。

●特撮&マンホールを投げると言えば“釈由美子”→期待に応えつつも「守りに入らない芝居をしたいという欲がある」

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――釈さんが「ゴジラ」や「修羅雪姫」、「スカイハイ」などに出演していた頃といえば、それまでのバラエティ番組などで見せていたホンワカした雰囲気からガラッと印象が変わって。キリッとした目力で激しいアクションを披露するようなギャップで多くの観客を驚かせた記憶があります。最近では、2019年にゲスト出演をした「仮面ライダージオウ」で、マンホールを持って戦う姿はまるでキャプテン・アメリカのようだと話題を集めました。やはりそういう役柄は釈さんならではだと思うのですが。

割と求められているものが、特撮ものとか、かっこいいアクションとか、目力とか、ヒールな役とかなのかなと。ただ結構、振り幅が大きい役が今まで続いているので、たまには普通の役もやってみたいなと思う気持ちもありますが(笑)。でも逆に言えば、いろんな俳優がいる中で、特撮といえば釈由美子だよね、マンホールを投げるとしたら釈由美子だよねと言ってもらえるのも、ひとつの商品価値だと思うので。そこは期待に応えられるように、これからもカッコよく決めたいなと思ってます。

やはり年を重ねると役の幅も狭まってくると思うんですけど、だからこそあえてカッコいい役とか、美しい役だけではなく、例えばシャーリーズ・セロンの「モンスター」みたいな(※セロンが特殊メイクを駆使して、見た目がまったく別人の連続殺人犯になりきり、高い評価を受けた)。とことん振り切ったというか、そっちまでいききってしまいたいなというか。守りに入らないお芝居をしたいなという欲があります。今までもいろんな意味で、皆さんの予想を裏切りたいというか、驚かせたいなと思ってやってきたので。今後もそういうスタイルでやっていきたいなと思っています。

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