【「ライド・オン」評論】生身のアクションが映画表現の可能性と自分を超えていく大切さを教えてくれた
2024年6月2日 07:00
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香港生まれの意味を持つ「陳港生」(出生名)ことジャッキー・チェン(成龍)が生まれたのが1954年4月7日。7歳から約10年間、中国戯劇学院で京劇や中国武術を学び、その恵まれた身体能力を生かして香港映画界へ。ブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」(1972年)や「燃えよドラゴン」(1973年)などでエキストラやスタントマンを務め、「タイガー・プロジェクト ドラゴンへの道 序章」(1974年)で初主演を果たしてから50年。人気作「ドランクモンキー酔拳」の日本公開から45年、そして70歳を迎えるメモリアルイヤーの記念作品が「ライド・オン」だ。
時代を超えて世界中の映画人に多大な影響を与え、ファンを虜にしてきたジャッキーの新たな相棒はなんと馬。そして演じるのはベテランのスタントマン、ルオ。これまでカンフー活劇から現代劇でカンフーの達人や凄腕の刑事など数多くの役柄を演じ、師匠や弟子との師弟愛、家族愛や友人との友情、ライバルや悪人との死闘、そして車やバイクといったマシンを駆使して、悲喜劇と命がけのアクションを披露してきたが、スタントマン役と馬が相棒は初となる。
しかも借金を抱え、一人娘とも疎遠になっていた父親失格の男であり、そんな孤独な男に寄り添ってきた愛馬との暮らしと、娘と再会して心を通わせていくドラマが交錯する。“世界のアクションレジェンド”でありながら、全盛期を過ぎたベテランスタントマンの悲哀を円熟味が加わった確かな演技力で表現。愛馬×娘×老スタントマンという設定に、ジャッキーの過去の作品を見ていなくても感情を揺さぶられるドラマとなっている。
近年はハリウッドや中国大陸で製作した作品でシリアスなものも多かったが、本作は久々に生身のアクションと笑いと涙のドラマが融合し、1980年代に香港で製作していた作品の要素が散りばめられている。また、当時の作品でもヒロイン役で多くの女優を輝かせてきたが、本作で娘役を演じたリウ・ハオツンも愛らしい魅力と卓越した演技力を見せている。さらに監督・脚本を手掛けたラリー・ヤンは、ジャッキーの映画を見て育ち影響を受けて映画監督になったというだけに、ジャッキーが監督作品でみせていたアクションとコメディ、ドラマのリズムやバランスを意識した作りとなっている。
時代は変わり、デジタル化とともに映画撮影は進化を遂げ、今のアクション撮影は万全の安全対策がとられている。主に1980年代のジャッキー映画は、自ら命がけのアクションをやってのけていることが大きな見どころであったが、本作の劇中劇のアクション撮影で、ルオが昔の危険なやり方を踏みとどまるシーンが印象的だ。だが、当時のジャッキーやそのアクションチームが危険を覚悟の上で生身のアクション、スタントを成し遂げていることが映画としての醍醐味であったのも確か。映画の原始を遡れば、サイレント(無声)の1920年代にチャールズ・チャップリンやバスター・キートン、ハロルド・ロイドらがフィルムに焼き付けていた生身のアクションとコメディをジャッキーが意識して受け継いでいる情熱、そして人間の身体能力と映画の可能性をスクリーンから感じとっていた。
本作の劇中には、ジャッキーの過去作品の中から命がけのアクションシーンがルオのスタントシーンとして使用されるのも大きな見どころ。それらの作品を見てきた世代にとってはそれだけで当時の感動と興奮がフラッシュバックしてしまう。改めて物凄い生身のアクションを成し遂げてきたのだと。追い詰められた時こそ自分を超えていくことの大切さを教えてくれた。
さらに、ジャッキー作品の定番であったエンドロールに映し出されるNGシーンやメイキングの様子が本作でも踏襲されている。その中でジャッキーが高所から足を踏み外して落ちそうになるシーンで自らアクションをやっていることが確認でき、ワイヤーも使わずにジャッキーが高いところに華麗に飛び乗っただけでスタッフから歓声が上がる様子が微笑ましい。ジャッキーの日本語吹替を長年担当していた石丸博也氏が本作で限定復活しているので、字幕版と見比べてみよう。
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