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【北野武監督作「首」“唯一無二”の6人が語り尽くすリレーインタビュー】第3回:黒田官兵衛役の浅野忠信

2023年11月9日 12:00

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取材に応じた浅野忠信
取材に応じた浅野忠信

北野武監督の6年ぶりとなる最新作「」が、いよいよ11月23日から封切られる。構想に30年間を費やし、「本能寺の変」を題材にした壮大なエンタテインメントを完成させた。映画.comでは、カンヌ国際映画祭でも熱狂的に受け入れられた今作のリレーインタビューを、6週連続で展開。第3回は、黒田官兵衛に扮した浅野忠信に話を聞いた。(取材・文/鈴木元、写真/間庭裕基、編集/映画.com副編集長・大塚史貴)


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――「座頭市」以来となるオファーを受けての率直な思いは。

北野監督に呼んでもらえるのは素直にうれしいです。自分は余計な売り込みをするのがあまり得意ではないですし、そういうことが俳優として正しいのかどうか、呼ばれないのはそういうことだとずっと思っていたので、呼んでいただけたのはめちゃくちゃうれしかったです。

――脚本を読んでの感想は。

どなたがどの役をやられるかは大体分かって読みましたが、めちゃくちゃ面白かったです。その中で、信長や光秀はけっこう動きもありますし物語の中でも重要な役割ですが、逆に官兵衛のポジションが絶妙だと思いました。ある種この物語を作っている人ではないかと思えたので、最初は少し緊張しました。

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――「座頭市」では北野監督と対決する役でしたが、今回は側で仕える位置になりましたね。

正直、いろいろ複雑な思いがありました。動きでいろいろなことを表現する役もやってみたいという思いもある中で、たけしさんの側にいてなおかつアドバイスを出す役じゃないですか。これは動きのない中で何かを表現しなければいけないと思ったので、潔く何かをあきらめました。同時に自分の持つ存在感が必要とされているのであればどうやったら表現できるのかと考え、ほかの役なら過激なアプローチもできるんですけれど、それは絶対にやってはいけない。あの過激な連中をコントロールしていたのが官兵衛だったと思えば面白いと思ったので、自然とそこにいることを心掛けました。

――官兵衛のキャラクターをどのようにとらえたのですか。

官兵衛がきわぎわの時期かなと思ったんですね。きわぎわというのは、官兵衛はきっと頭のいい人で、周りが天下獲りを目指す世の中のその先に何があって自分がどう振る舞うべきかということまで考えたと思うんです。そういう虚しさを抱きながら、今は秀吉の側にいるのが一番いいと考えて立ち止まる直前の官兵衛だと思いました。

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――実在した人物を演じることに対する意識はありましたか。

そこは難しさと面白さがあります。例えば「地雷を踏んだらサヨウナラ」(1999)も実在の人物(報道写真家・一ノ瀬泰造氏)ですけれど、時代が近いから分かるような気もするし、ツッコミを入れてくる人も少ない。でも、写真もビデオもない時代になると誰も知りもしないのに、なんでこんなにツッコんでくる人が多いんだろうという矛盾がありました。自分で徹底的につくっていいはずで、大体の人がこうであっただろうと思い描いているものをぶっ壊すことが一番面白いはずだと思うんです。何のリアリティもない資料だけで存在している人たちをできるのが時代劇ですから、やるからには納得させられるだけの説得力を自分で生み出さないといけないと思いました。

――北野監督からは特にリクエストはありませんでしたよね。

そこは「座頭市」をやっておいて良かったと思いました。あの時に、たけしさんに「それもやらなくていいや」と声をかけてもらった部分がいくつかあって、余計なことをしないでほしいというのが凄く分かりました。その後、「アウトレイジ」(2010)などを見ていていろいろ変化されている部分もあったとは思うんですけれど、それは僕の役割ではなく「座頭市」から引き継いだものが生かせる役だと思いました。

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――20年間のご自身の成長、変化を見せたい気持ちはありましたか。

それはめちゃくちゃありましたが、これも官兵衛以外の役だったらですね。今回はやらない表現というか、暴れ回る人たちがいる中で「官兵衛、おまえならどうする?」という真逆のことを求められていると思ったんですね。米国での経験も物凄く大きくて、それがなかったらそう理解できず慌ただしい官兵衛をやってしまったかもしれない。米国での経験が、自分を抑えさせてくれました。

――久しぶりに北野監督の演出を受けていかがでしたか。

たけしさんと一緒のシーンで「いっちゃおうか」といきなり始まることも多く、その中でアドリブが出たことも多々ありました。たけしさんの頭の中でカットが決まっていて、(シーンの)頭からじゃない場合もあったので、臨機応変さが求められました。でも、でき上がった時もそこが一番面白いんですよ。

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――撮影中、北野監督との会話で印象に残っている言葉は。

「浅野くんでバカらしいの撮りたいんだよね」ということを話してくださって物凄くうれしかったですし、その後お会いした時もその話を覚えていてくださって、冗談でもうれしいですし本当になってくれるならなおさらです。

――完成した作品を見ての感想は。

やられた、と思いました。あれだけたくさんの人が出てくるのに、一人も無駄な人がいない。凄く面白くて、たけしさんにずうずうしく「シリーズで見たい」と言っちゃいました。

――カンヌ映画祭でのワールドプレミアはいかがでしたか?

素敵な時間を過ごせました。劇場であれだけのお客さんが喜んでくれて、たけしさんが本当にうれしそうにしている姿を見られたのはとてもラッキーでした。

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――「」を通して改めて感じた、北野監督の凄さはなんでしょう。

BROTHER」(2001)や「アウトレイジ」を見ていて、昔だったら何もしなくていいはずなのに俳優さんたちが俳優として何かをやっているなという一瞬が見えたんです。その時に、一辺倒に自分の何かを押し付けていくのではなく、自分の確たるものがありつつ時代から受け取っている何かを確実に吸収し続けていると感じました。映画だけでなく絵画なども、常にたけしさんでありながら新しさが表現されているのが凄いと思います。

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――最後に北野監督へのメッセージをお願いします。

まずはありがとうございますというのが大きいです。俳優として、自分に居場所を与えていただいたことにも感謝しています。その後もずっと優しく接していただいて、ましてや20年前にああいうチャンスをいただき、その後も僕のことを覚えていてくださったことがうれしかったです。お体を大切にして、いつまでも僕らのあこがれでいてください。僕らに何かできることがあればいつでも呼んでください。荷物持ちでも運転手でもなんでもいいです。必要な時は言ってください。


」リレーインタビュー第4回は、11月16日に配信予定。

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