【インタビュー】中島健人の夢を叶える力の源泉 俳優としての新たなフェーズで醸し出した“冷徹な色気”と“若者の鬱屈”
2023年10月17日 10:00
中島健人(「Sexy Zone」)は、夢を叶える力がある人だ。ここ数年、口に出した夢や願いを、着実に叶えてきた。例えば、長年声優への意欲を示していたが、「トランスフォーマー ビースト覚醒」の日本語吹き替え版で主演を務め、その夢を実現させた。
2020年からは、WOWOWのアカデミー賞授賞式の関連番組に参加し、レッドカーペットからの中継を担当。流ちょうな英語、豪華ハリウッドスターへのインタビューに果敢に挑む姿、映画愛あふれる熱のこもった現地レポート、生放送での対応力などは、映画ファンからも絶賛を浴びた。華やかなハリウッドを目の当たりにして、海外への思いを強めたのか、24年の大型国際ドラマ「Concordia(コンコルディア)」への参加も決定している。
そして以前、「桜のような僕の恋人」のインタビューでは、重厚なミステリー作品への意欲を語っていた。そんな願いが実を結び、主演を務めた社会派サスペンス「おまえの罪を自白しろ」が、10月20日に公開される。新境地を開き、俳優としての新たなフェーズに突入した中島に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)
本作は、水田伸生監督(「アイ・アム まきもと」)が、真保裕一氏の同名小説(文春文庫刊)を映画化するもの。政治家一族である宇田家の次男・晄司(中島)は、建築会社を設立するも倒産し、やむなく政治スキャンダルの渦中にいる内閣府副大臣の父・清治郎(堤真一)の秘書として働いている。煮え切らない日々を送っていたある日、一家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐された。犯人からの要求は身代金ではなく、清治郎への「明日の午後5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」という脅迫。その背景には、決して明かすことが許されない、国家を揺るがす罪の存在があった。
地位と権力に固執し、口を閉ざす清治郎へのもどかしさから、怒りをあらわにし、真っ向から対立する晄司。やがて彼は、警察、マスコミ、国民までをも巻き込む壮大な事件の真相を暴こうと奔走する。
中島は、父のやり方に疑問を持ちながらも、議員秘書を務める晄司を演じた。議員秘書という役や政治サスペンスというジャンルに、どのように挑んだのだろうか。
「実際に衆議院予算委員会を傍聴しました。岸田首相をはじめ議員の方々を目の当たりにして、そのあと議員会館に行って、議員秘書の方とお会いしました。議員の方がいらっしゃる部屋も見せていただいて、デスクの上にものすごい量の書類があって、『日々、これほどの量の問題に追われているんだな』と。それらのスケジュールをひとつずつ、さばいているのが、議員秘書の方。膨大な量ももちろんですが、膨大な責任を抱えていらっしゃるんだなと体感できました。国会議事堂に足を運ぶと、運ばないとでは、気持ちも変わってくるので、役づくりにも生かすことができました」
晄司は、家族を守るために憤り、叫び、奔走する。正義感の強い熱血漢という役かと思いきや、中盤では政治家としての可能性を感じさせる、一筋縄ではいかない一面も見せる。さまざまな顔を持つ晄司という役で、俳優・中島健人は新たなフェーズに突入している。
「最初に脚本を読んだとき、晄司以外のキャラクターがあまりにも強くて、晄司が平たく見えてしまったんです。その点は、役を構築していく、魅せていくうえで、水田監督としっかりディスカッションしました。僕も、劇場映画に主演するのが久々だったので、かなり緊張していたんです」
「やっぱり晄司はまだ若いので、憤怒したときの切れ味はしっかり見せていきたい。なので、人に詰め寄るシーンは、ある種ちょっとタガが外れた若者の感覚で挑みました。恐らく、堤さん演じる清治郎は、威厳があるので、そういう行動はとらないと思うんです。でも、晄司は自由に動ける若き戦士なので、豹変してもいいなと。そのシーンは、自分が晄司に対して持っていた灰色っぽい色彩が、赤くなった瞬間でした。切れ味のある火傷しそうな描写ができたらいいなと考え、演じました。スクリーンのなかで人に詰め寄る自分の姿は、恐怖を感じさせるものがあるかもしれませんが、ヒリッと、スカッとする感覚を持っていただけると思います」
中島と映画といえば、キャリアの初期から、「黒崎くんの言いなりになんてならない」「未成年だけどコドモじゃない」「ニセコイ」など、ラブストーリーやコメディを中心に、主演を重ねてきた。しかし、22年には二宮和也と共演し、シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留された実在の日本人捕虜たちを描いた「ラーゲリより愛を込めて」など、社会派作品にも挑戦。中島自身が待ち望んでいたジャンルであり、俳優としての幅を広げることにもなる本作「おまえの罪を自白しろ」のオファーが来たときには、どのような思いだったのだろうか。
「嬉しかったですね。最初にオファーを聞いたのはかなり前で、『カノキレ』(※ドラマ「彼女はキレイだった」)が終わった頃だったと思います。ラブストーリーの『カノキレ』が終わって、こういうお話が来るかと、僕としても一種のネクストフェーズに入ったような感覚でした。その間に『ラーゲリより愛を込めて』にも参加しました。自分自身、表現する場所や環境を変えてみるのは良いことだと思いますし、この環境を与えてくださった製作陣の方に、すごく感謝しています。新たな自分が見えたように思います」
「総合的に見ると、ラブストーリーにめちゃくちゃ出ているイメージですか、そうですよね(笑)。ただラブストーリーどれもが、かっこいい役やセクシーな役だったのかというと、そうじゃない。すごくできないヤツだったり、逆にすごくかっこいいヤツだったり、多岐に渡っていました。僕が最近思うのは、『かっこいい役、セクシーな役を今回は封印しました』と言われたりするんですが、そんなにセクシーに振り切った役ばかりやっていたわけじゃないなと」
「本作の晄司という役は一種、“冷徹な色気”があると思います。例えば、家族を守るために嘘を貫き通すなど、嘘の使い方が上手い。脚本を読んでいて、晄司は最初、全然そんな印象ではなかったんですが、自分で演じていくなかで、冷徹な魅力を持った人間だなと。映画人生のなかで、こういう社会派映画に自分を呼んで頂けたということに、大感謝ですし、水田監督に恩返ししたいと思いました。また、本作はたくさんの方にフィットするんじゃないかと。社会派で無骨な映画を、こういうアイデンティティを持つ僕がやるからこそ、広がりがすごくあるんじゃないかと思います」
「ラーゲリより愛を込めて」で中島は、心優しい青年・新谷健雄を演じるにあたり、劇中で描かれない背景などを掴むため、自分でエピソードを作っていたという。本作の晄司の背景も、語られることはあるが、シーンとして明確に描かれることはない。例えば、晄司と清治郎は、冒頭から緊張感が漂う関係にあるが、観客はふたりが積み上げてきた時間を、役者たちの演技から推しはかるしかない。そうした役の背景を掴むためのアプローチについても、教えてくれた。
「フィルムに携わってきたなかですごく思っていることなんですが、自分のなかだけで役の解釈を深くし過ぎてしまうと、ほかの共演者の方たちと、キャラのバランスが合わなくなってしまうことがあります。晄司に関しては、バックボーンなども少し想像しましたが、そんなに作り込まずに、ナチュラルに演じることができました。なぜかというと、すごく彼の気持ちが分かるからです。彼はいつも鬱屈した思いを抱えていて、若者は皆そうだと思いますし、ぶっちゃけ、僕もそういう部分を持っています。いろんなことに対して、鬱屈とした気持ちがある人は、その思いが爆発した瞬間、ものすごくエネルギーを持っていることも知っている。自分もそうだから。彼の1番の理解者として、僕は彼を演じられたかなと思います」
「常に何かに満足がいっていない。考えが行き渡っていない、周囲に思いが伝わっていないというか。自分のなかの『こうしたかった』という欲が強い。そういう欲を解放できる場所さえあれば、道が開けるんです。僕、デビューする前に、本当に怖い振付師さんがいて、正直苦手だったんです。めちゃくちゃ注意されたし、『お前の踊りなんか、目立たねぇよ』とか普通に言ってくる方だった」
「ある年を境にその方から巣立って、あまり一緒に仕事をしなくなってくるんです。でも結局、何年か経つと、その振付師さんの振付を欲する自分がいるんですよ。またあの振付イズムを感じたい、刺激がほしい、厳しい環境にいたいと。だから、清治郎がそのままその振付師さんのように感じました(笑)。親子関係が、僕とその方の関係に重なるなと。いまは全然電話も出てくれないし、僕のお礼の電話もメールも返してこないけど、会ったら普通に話しかけてきます(笑)。昔は対立していたけど、一度離れて思うのは、自分自身に合う道を開いてくれた方だったんですよ。清治郎も晄司に対して、きっとそういう考えがあるんだと思います」
自分のなかにも、鬱屈とした思いがあると語った中島。そんな思いを発散し、晴らす方法についても、聞いてみた。
「いまは、演技とライブで、ふたつが相互作用の関係にある気がします。歌って踊って表現しているときは、生きている感じがしますし、ライフワークですね。本当は観客の皆さんにエネルギー、元気を与えないといけないんですが、むしろ元気をもらいに行っています。映画が公開されて、劇場に来てくださっている皆様からの気持ちで、作品が育っていくことに似ています。生のライブとは違って、映画には時期がありますが、芳醇の時期に公開されるので、そのときにいかに酔いしれていただくか、ということだと思います。今回は、良いワインができました(笑)」
インタビュー日の約1年前、本作はクランクインを迎えた。中島はコンサートツアー中で多忙を極めるなか、撮影に参加していた。
「櫻井翔くんがツアーを見にきてくれたときに、『ケンティー、一皮剥けたね』と言ってくれたんです。たぶん、この役の影響もあったと思います。本作では、晄司としての存在感をすごく出さないといけなかったので、内から出るものがライブでも溢れていたんじゃないかなと。演技とライブで、相互還元ができました」
父役を演じた堤とは、本作で初共演を果たした。「親子という間柄を演じるうえで、父・清治郎が醸し出す迫力に負けないように努めました」と語っているが、俳優として、どのような刺激を受けたのだろうか。
「ポスターの堤さん、めちゃくちゃ怖いじゃないですか。でも実際は、面白おじさんなんですよ(笑)。本当に面白い方で、ギャップがすごすぎる。堤さんのキャリアの話も伺いました。もともとテレビにあまり興味がなかったけれど、ドラマに出始めて、劇場に人が集まって、映画のオファーも来て……(モノマネで)「全然俺は順風満帆じゃねぇよ」とおっしゃっていました。ちょっとモノマネに自信があって、本気出したら、けっこう似てると思うんですよね(笑)。『やまとなでしこ』の頃の話や、プライベートの話をざっくばらんにしてくださるから、怖いという印象はなかったです」
「でも、芝居となると、やっぱり圧がすごい。大阪の方なので、ボケるから、僕が突っ込まざるをえない(笑)。『違うでしょ』と突っ込むと、嬉しそうにしていて(笑)、カジュアルなコミュニケーションがとれました。堤さんは、『ここをこうしろ』というタイプじゃないので、あまりアドバイスをいただくこともなかったです。ご本人は『俺を見て学べ』とも思っていないかもしれませんが、堤さんの醸し出す空気感を見ているだけで、学ぶことができました」
洋画吹き替え声優や海外ドラマへの出演など、新しいことにどんどんチャレンジしている中島。最後に、俳優としてのステップを着実にのぼっていくなかで感じる成長や、次の夢について、聞いてみた。
「全然まだまだですね。もっといろんな日本映画に出て、レジェンドの方たちと共演することで、成長を感じられると思います。僕はやっぱり、吉永小百合さんと共演したいです。もっといろんなレジェンドを知って、レジェンドから見える自分を知ることで、いまの自分の現在地が分かるんじゃないのかなと。でも少なくとも、20代最後の年に出せる深みみたいなものは、本作で表現できているんじゃないかなと」
「今後の目標としては、表現者、アーティスト、アイドルとして、楽曲をいろいろと制作して、世に放ちたいです。自分でトラックメイクして、それがいろんなタイアップになったらいいですし、自分が作った音楽をたくさん出していくフェーズになっていくんじゃないかなと。Instagramではもう何曲か、発表しています。自分がいましか作れない音楽を、日本のみならず世界にたくさん出していって、海外の方がより日本に関心を向けてくれるような活動をしていきたいです。映画も同じですね。日本映画に出て、海外からの注目を受ける作品づくりをしていきたいなと思います。自分のなかでは、全てつながっています」
今後の夢を語る中島を見ていると、生半可な気持ちで、夢を語る人ではないのだと分かる。彼にとって、夢とは「実現したらいいなと夢想するイメージ」ではなく、「必ず実現させる近い将来」なのだと。「Sexy Zone」としてのグループ活動、映画、ドラマ、バラエティ、あらゆるフィールドで輝く天性の才能があることはもちろんだが、何事も「才能」にしてしまえる努力をいとわない覚悟がある。中島の迷いのない姿から、映画の世界でレジェンドたちと共演する未来が、はっきりと見えた気がした。
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