【「ハント」評論】「イカゲーム」のイ・ジョンジェが監督としての熱い思いを込めたスパイ・アクション
2023年10月1日 18:00

重厚なテーマと登場人物たちの心理戦、そしてリアルで迫力あるアクションシーンと、俳優が初監督したとは思えない作品である。2021年に配信され大ヒットしたNetflixのオリジナルドラマ「イカゲーム」に主演し、一躍世界的スターとなった韓国のイ・ジョンジェ。シーズン2の新キャストも発表され、再び注目を集めている中、自ら脚本も手掛けて初メガホンをとったのは壮絶な諜報戦を描くスパイ・アクションだ。
舞台は1980年代の韓国。安全企画部(旧中央情報部=KCIA)の海外班長パクと国内班長キムが、組織内に入り込んだ“北”のスパイを探し出す任務を任される。二重スパイを見つけなければ自分たちが疑われるかもしれない状況で、大統領暗殺計画を知り、巨大な陰謀に巻き込まれていく。4年を費やしたという緻密に練られたシナリオで、高まっていく緊張感とスピーディーな展開に、冒頭から最後まで目が離せない。
盟友チョン・ウソン(「私の頭の中の消しゴム」)がジョンジェとともに主演し、パクとキムの緊迫した関係を演じているのに胸アツになる上、チョン・ヘジン(「詩人の恋」)、ホ・ソンテ(「イカゲーム」)に加え、ディズニープラスの大ヒットドラマ「ムービング」で大注目のコ・ユンジョンなど韓国を代表する俳優が共演。さらに「新しき世界」「ただ悪より救いたまえ」でも共演しているファン・ジョンミンら豪華俳優陣がカメオ出演しているのも見どころで、監督デビュー作を盛り上げる。
また、そのジョンジェ監督のもとに韓国映画界トップクラスのスタッフも集結。マイケル・マン監督「ヒート」を彷彿とさせるような街中でのカーチェイスや銃撃戦など、リアルなアクションシーンひとつとっても改めて韓国映画の質の高さを実感する。80年代の再現も細部まで作り上げられ、ワシントン、東京、タイのシーンはすべて韓国で撮影されたとは思えない仕上がりとなっている。そして、派手なアクションとともに、ジョンジェ監督は登場人物の心理戦に焦点を当てており、誰も信じられないという状況の中で対峙するパクとキム、高まっていく緊張感の末にたどり着く衝撃の真実に釘付けにさせられるだろう。
昨年の第75回カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニング部門で上映されると約7分間のスタンディングオベーションを受けた。さらに第47回トロント国際映画祭など多くの映画祭を席巻し、第43回青龍映画賞、第31回釜日映画賞ほか数々の映画賞で新人監督賞を受賞。ジョンジェが監督としての才能も証明してみせた。それまでのクールなイメージを覆し、「イカゲーム」では無職で借金まみれのギャンブル狂でありながら人情味のある主人公を好演。そんな彼が「ハント」では個人の信念とは何かという熱い思いを込め、再び硬派な役を体当たりで演じている。シーズン2の前に見ておくべき作品だ。
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