アカデミー賞台湾代表「僕と幽霊が家族になった件」 監督が語る“死者との同性婚”をコメディとして描いた理由【アジア映画コラム】
2023年9月21日 16:00
北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!
今回のテーマは、2022年・金馬奨のクロージング作品として上映された台湾映画「僕と幽霊が家族になった件」。
この作品は、2023年上半期、台湾をはじめ、アジア全土を席巻しました。2023年の上半期における“もっとも人気のあった中華圏映画”と称されています。
今年の旧正月にあわせて公開され、現時点では2023年に公開された台湾映画のなかで“興収1位”を記録しています。しかも、台湾映画の歴代興収ランキングトップ10にランクインし、現時点では7位。今年3月に開催されたアジア・フィルム・アワードにも、作品の主要メンバーが参加し、レッドカーペットなどのイベントに出席したことで大きな盛り上がりを作っていました。
その後、香港、韓国、カンボジアなどアジア各地で続々と公開。8月10日からは、Netflixでの全世界配信もスタートしました。
監督のチェン・ウェイハオは、いまや“台湾映画界No.1のヒットメーカー”と呼ばれています。
映画.com ALLTIME BESTにも入っている「目撃者 闇の中の瞳」、ホラー映画の名作「紅い服の少女」シリーズ、チャン・チェン主演作「The Soul 繋がれる魂」など、多くの話題作を手掛けてきましたが、「僕と幽霊が家族になった件」では、更に“進化”しています。
万人向けのエンターテインメントとして、商業的に成功。コメディとしてLGBTQというテーマに真正面から向き合っていく演出は、映画評論家からの評価も高く、第96回アカデミー賞国際長編映画部門の台湾代表にも選ばれています。
8月上旬、本作の日本上映イベントに参加したチェン・ウェイハオ監督にインタビューを実施。映画の話だけでなく、台湾映画界の“いま”についても教えてくれました。
そうですね。実は「野草計画」はアイデアといいますか、アウトラインの募集なんです。ストーリーというより、ある意味概念ですね。そこで数百文字程度の原型を見つけたんです。非常に興味を持ち、映画化に向けてすぐに動き出しました。そこから脚本のウー・ジンロン先生を誘い、一緒に脚本を開発していきました。物語もより“二項対立”の形となっていきました。
脚本執筆前から、台湾の同性婚が合法化に向けて進んでいることを知っていました。そのことにより、新しい結婚と恋愛の価値観が生まれるだろうと予想していました。私たちは、LGBTQのコミュニティについて、多くの調査を行い、同僚や友人たちと、結婚と恋愛の価値観について話し合いました。そこで感じたのは「価値観は変わっていない」ということです。LGBTQであるかどうかは関係なく、根本的な部分はずっと変わりませんでした。
原型の内容自体も、かなりコメディ寄りだったんです。何度も切り口や視点についてディスカッションを行った結果、やはりコメディという形式が一番良いと感じたんです。できるだけ、説教に見えるようなことは避けたいと。観客が共感できる内容にしたいと考えていました。
ただし、コメディを作ることは簡単なことではありません。少しでも“ズレ”が生じれば、大変なことになる恐れがあります。このバランスが非常に重要だと思います。台湾で行ったQ&Aでも話しましたが、作品の前半ではステレオタイプな要素を使い、あえて“対立”を生み出しています。その“対立”によって、さまざまなコメディが生じます。そこから主人公2人の旅を通じて「ラベルをはがし、ステレオタイプを打破する」という我々が一番伝えたかったことを表現しました。ある意味、これまでに製作されてきた数多くの“LGBTQ映画”のイメージも壊したかった。そもそも“LGBTQ映画”というものは存在しないと思っています。
冥婚とは、生前に恋愛や結婚に憧れていた人が、早くに亡くなってしまった場合、その遺志を遂げるために行われる儀式です。亡くなった人の“結婚をしたい”という願望を実現させるために行われます。この作品は、伝統的な風習や民俗を通じて、いくつかの慣習を変えることで展開していきます。台湾だけでなく、中華圏全体がこのような風習を大体知っていると言えるでしょう。
15年前に台湾映画のイメージを聞かれたら、大半の方々が“台湾ニューシネマ”のことを口にしたでしょう。しかし、その頃活躍した方々は、既に巨匠の領域に到達していますから、我々新世代の映画人が新しい道を開拓しなければいけません。我々には、どんな可能性があるのか。私自身も多くの探求を行いました。幸いなことに、この十数年間、台湾映画は良い方向に向けて進んでいます。業界全体もさらに成熟し、作品自体にも多様性を感じています。しかし、これだけで満足することはできません。市場の変化は早くて激しい。どんどん新しい事に挑戦していかないと追いつけないんです。
そして我々の作品は、台湾だけでなく海外にも発信したいと常に考えています。
「僕と幽霊が家族になった件」は、アジア各国で上映されてから、Netflixで全世界配信という流れになりました。最近の台湾映画では、よくあるバターンですね。海外展開の難しさはもちろん知っていますが、色々な作品を作ってきて、大きな方向性は同じではないだろうかと思うようになりました。特に、私が良く作っているジャンル映画に関して、正直に言えば、作り方は昔からそんなに変わっていません。それは別に悪いことではないですが、クリエイターとしては、その古典的な構成の中に、自分の個性――いうなれば自分が住んでいる土地の“個性”を入れることが、一番大事だと考えています。ローカルな要素を入れれば入れるほど、海外で成功しやすいのではないかと。私が作った「紅い服の少女」のモデルは、台湾では誰でも知っています。しかし、海外ではそれほど知られていない。同じく、日本の“貞子”もそのような形で世界進出に成功していますよね。
私は日本が大好きで、仕事以外でも、観光のためにたびたび訪れていました。
好きな日本の映画監督をあげだしたら、きりがないですが、特に名前を挙げておきたいのは山下敦弘監督です。是枝裕和監督と比べると、世界的には知られていないかもしれませんが、私にとっては非常にユニークな監督です。ある意味ジャンル映画に近い作り方を行っていると思いますが、手法、形式、内容も非常に独特で強い作家性を感じています。「リンダ リンダ リンダ」はもちろん、「オーバー・フェンス」が本当に大好きなんです。