「名探偵ポアロ」キャラのヘア&メイクには“モデル”がいた 吉原若菜、ポアロの髪型&髭に関する秘話も明かす
2023年9月14日 10:00

アガサ・クリスティの傑作ミステリーを映画化する名探偵エルキュール・ポアロシリーズ第3弾「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」(ケネス・ブラナー監督/9月15日公開)には、ある日本人が参加している。ヘア&メイクアップデザイナーの吉原若菜さんだ。
吉原さんは18歳でイギリスに移住し、すぐにヘアサロンで勤務を始める。映画の衣装デザイナーを務める友人からの誘いで、ケネス・ブラナー監督の「魔笛」に手伝い程度で参加したことをきっかけに、メイクの仕事に興味を持った。ロンドン芸術大学でメイク技術を本格的に学び始め、大学2年の時に参加したジェームズ・アイボリー監督作「最終目的地」での仕事ぶりがプロデューサーから認められ、その後は数々の作品でキャリアを積んできた。
ブラナー監督とは「シンデレラ(2015)」「ベルファスト」だけでなく、「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」でもタッグを組んでいる。 今回のインタビューでは「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」における“仕事”のこだわりを明かしてもらった。

ミステリアスで美しい水上の迷宮都市ベネチア。流浪の日々を送る名探偵エルキュール・ポアロ(演:ケネス・ブラナー)は、死者の声を話すことができるという霊媒師レイノルズ(ミシェル・ヨー)のトリックを見破るために、子どもの亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。しかし、そこで招待客のひとりが人間には不可能な方法で殺害される事件が発生。犯人が実在するかさえ不明な殺人事件に戸惑いながらも、真相究明に挑む……。
基になる物語は「ハロウィーン・パーティ」。クリスティにとって60作目で、ポアロ作品全33作のうち31番目の長編だ。ロンドン近郊の町を舞台に、子供たちが集まったハロウィーンのパーティで「殺人を見た」と告白した13歳の少女が殺される物語。事件そのものはもちろん、人間心理の描写が高く評価される同原作は、映画化されるのは今回が初めて。前2作と異なり、ブラナーは大胆に原作を改変。タイトルが示す「ベネチア」を舞台に、「亡霊」という超常現象も絡めた、衝撃のミステリーとなっている。
まずは、ミシェル・ヨーが演じた“霊能者”レイノルズについてお話させていただきます。彼女のベースとなっているのは、マレーネ・ディートリッヒなんです。少しミステリアスで妖艶な感じを醸し出していて、実際の髪型は異なるのですが、ディートリッヒのような“整ったところ”を引っ張り出しています。そして(霊能者としての)“パワー”が手から放たれるという設定なので、爪を少し長くしています。1930年代のアーモンドシェイプのような尖った感じで、ディートリッヒの爪を真似して作っています。
実は、キャラクターひとりひとりにモデルとなった人たちがいるんです。

オリヴァ(ポアロの旧友の作家/演:ティナ・フェイ)は、フェミニズムのムーブメントにも携わったロザモンド・レマンというイギリスのライターを参考にしています。デズデモーナ(レイノルズの付き人/演:エマ・レアード)は、若かりし頃のオードリー・ヘプバーン。フィフティーズを醸し出すような短めの髪型を作っています。

ロウィーナ・ドレイク(娘をなくした母親/演:ケリー・ライリー)は、ローレン・バコールやキャサリン・ヘプバーンといったハリウッドの大女優の髪型を取り入れているんです。ポアロのボディガード(演:リッカルド・スカマルチョ)は、イタリアの俳優マッシモ・ジロッティがモデル。ポマードをべったりときかせて、こってりとした艶のある感じを心掛けました。ドクター・フェリエ(悩みを抱えた医者/演:ジェイミー・ドーナン)は、ジョージ・モンゴメリーのスマートなイメージを取り入れてみました。
メイク自体はナチュラルなものなので、どちらかといえばこだわったのは髪型です。キャラクターそれぞれの印象が同じになってしまうとつまらないので、可能な限り、異なる色味を取り入れたり、長さを変えてみたり……ビジュアルとしての“見やすさ”“わかりやすさ”を目指していました。
ケネスさんからそうして欲しいと言われているわけではなく、これは私のスタイルなんです。髪型も、メイクも、拠点となるものがないと作っていけないんです。これは俳優さんとお話をしている時の“強い材料”になると思います。演じていただくキャラクタ―と同様に、強いバックグラウンドを持っている実在の人間がいて「その人はこういう髪型やメイクをしていた」とお話をしていくと、俳優さんの方も「あぁ、なるほど」となります。例えば、ネットの画像検索ですんなりと出てくるような、40~50年代のありふれた髪型には、信憑性がないんです。俳優さんは、キャラクターを作るうえで色々リサーチをしています。そのことも踏まえて、私もリサーチを心掛け、一緒に人物を作っていこうと。ですから、私もできる限り、バックグラウンドがあるような作り方をしています。
実は髪型を少し変えているんです。「ナイル殺人事件」では、ポアロは一番の友人を失い、リタイアしようとしていました。最後には、髭も剃っていますよね。それは新しい始まり、新たな1歩だったんだと。映画では半ばリタイアしているような状態です。これまではきっちりと中分けにしているような状態だったのですが、本作では髪型をリラックスさせています。つまり、そこまで気にしていないという状態です。

その一方で、髭は彼にとってのマジックスティックのような存在だと思っています。これががなければ、力は発揮できない。ですから、髭だけはパーフェクトに仕上げなければいけません。そのため髪型の方はパーフェクトにはせず、少しぼさぼさなイメージになっています。ケネスさんに「(こうすると)若く見えるんじゃないかな?」と伝えたら、「若ければ若いほどいい」と仰ってましたね(笑)。「ナイル殺人事件」の時とは異なり“進化”しているんです。
えぇ、彼のチャームポイントですから。ポアロは、どちらかといえば、潔癖症で完璧主義者。もちろん左右対称を心掛けないといけません。実は、ケネスさんの肩から上部分を模したモデルを作っていただいたんです。髭をセットした後は、まずはそこにつけてみる。左右対称になっているかどうかを確認するという作業を経て、ようやくケネスさんにつけているんです。
あの工程のおかげで、私、寝不足ですから(笑)。


いえ、今回に関しては、あまりやり取りする時間をとれなかったんです。私自身「ロキ」の撮影にも参加しなければならず、そのスケジュールと被るか、被らないかというギリギりのところでやっていました。昔であれば、ひとつのスタジオにいて、そこで好きなタイミングで相談できていましたが、今回はリモートでの仕事が中心でした。ファイルを作成しては、彼に送るというスタイル。コメントもひとつひとつ貰っていると、彼の時間がなくなってしまうので「気になるところがあれば連絡するね」という形でした。「ロキ」の撮影が終わってから、ケネスさんの家に行くということも……お互いに忙しかったので、可能な限り、効率の良い仕事をすることにしていました。

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