兄の死後初の単独監督作「遺灰は語る」パオロ・タビアーニインタビュー 若い映画ファンに見てほしい傑作イタリア映画3作を推薦
2023年6月24日 09:00
イタリアの名匠タビアーニ兄弟の弟パオロ・タビアーニが兄ビットリオの死後初めて単独でメガホンをとり、2022年・第72回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した「遺灰は語る」(公開中)。ノーベル賞作家の遺灰を運ぶ波乱万丈な旅の行方を、美しいモノクロ映像と鮮烈なカラー映像を織り交ぜながら描いたドラマで、エピローグには、ピランデッロの遺作「釘」を映像化した短編が収録されている。このほど、パオロ・タビアーニ監督のインタビューが公開された。
1934年にノーベル文学賞を受賞した文豪ルイジ・ピランデッロは自分の遺灰を故郷シチリアへ移すよう遺言を残すが、独裁者ムッソリーニは彼の名声を利用するため遺灰をローマに留め置いてしまう。戦後、ピランデッロの遺灰はようやくシチリアへ帰還することになり、シチリア島特使がその重要な役目を命じられる。しかし、アメリカ軍の飛行機に搭乗拒否されたり、遺灰の入った壺がどこかへ消えてしまったりと、次々とトラブルが起こる。
40年ほど前に「カオス・シチリア物語」を撮りました。その時、実は「ピランデッロの灰」という物語を「カオス・シチリア物語」の最後に加えるつもりでした。ところが、資金がなくなって、結局そのエピソードは撮れなかったんです。そのことがずっと心の中に残っていました。でも、なぜ今になってなのかは、よくわからないのです。
ピランデッロは、私たちが抱える多くの問いに答えてくれる偉大な作家です。亡くなってから10年間遺灰がローマにあったことも、それから10年、15年くらい経ってようやく故郷のシチリアに墓(モニュメント)ができたのも事実で、何人もの作家がその遺灰についての物語を書いています。ただ、この映画はピランデッロという人物、その遺灰の旅からインスピレーションを得て作られた、完全なる創作なんです。良い映画監督というのは嘘つきなんですよ(笑)。遺灰の壺が列車で旅するというのも私の創作です。
“愛のシーン”がありましたね。今、「素敵だった」と言ってくれましたが、実は「映画」だからこそ、さらに美しいんですよ。映画の撮影現場でおきたことによって、映画がもっと美しくなった。若い二人が愛を交わすシーン、あれは偶然の産物で、脚本に書かれていたわけじゃない。列車の中にレールを敷いて移動式のカメラを回して撮っていたら、あの二人が、本当に、愛を歌うような声やジェスチャーをしていたんです。それがすごく素晴らしいと思って、あのシーンを付け加えたんですよ。映画の現場から偶然生まれたシーンです。
白黒のシーンは撮影監督によるところが多いんです。自分が監督だから言うのではなく、白黒の中でも素晴らしい効果、色彩を作り出してくれたと思っています。“過去”にまつわるから白黒、ということだけではなく、映像自体が艶やかで力がありましたね。今後もまた白黒作品を撮りたいと思えるくらいでしたね。
映画は白黒で始まって、遺灰がシチリアに戻って来た瞬間に色がつく。あの海は、ピランデッロが「アフリカの海」と呼んだ海なんですよ。海に光が差す、あの濃い青がスクリーンに現れる。あのシーンは、ピランデッロがくれた贈り物かもしれませんね。
色彩が爆発的にカラフルになりますよね。まるで色の本流のような。その“色”というのが私たちが目にしている、“現実”なんです。私自身は、この映画は2つの全く違う作品が並べられているものだとは思ってはいなくて、同じフレームの中の第一章、第二章、と考えています。この短編「釘」はピランデッロが死の20日前に書いた小説で、だからこそ遺灰の旅と、この物語との間に強い結びつきが生まれるわけです。
兄のビットリオは、やはり常に私の映画の中にいるんですよ。初めて一人で映画を撮影しましたが、私はシーンを撮り終えるたびに、「カット!いいね」と言って、ビットリオの確認を得るために振り返っていたそうです。兄はもうそこにはいないのにね。
彼との仕事は、ビットリオと仕事をするのと同じような感覚なんですよ。私たちの映画にずっと寄り添ってくれた音楽家ですからね。「サン★ロレンツォの夜」から、途切れることなく関係が続いています。彼は偉大な音楽家だが、それはアカデミー賞を獲ったからではなく、それ以上の存在なんです。
ロベルト・ロッセリーニ「無防備都市」、ビットリオ・デ・シーカ「自転車泥棒」、ルキノ・ビスコンティ「山猫」です。私たちが映画監督になりたいと思ったきっかけは、ロッセリーニ監督の「戦火のかなた」を見たことでした。ただ、残念ながら、ロッセリーニ監督とは生前そんなにお会いする機会はありませんでした。けれど、私たちが「父/パードレ・パドレーネ」でカンヌのパルムドールを受賞した時、授与をしてくれのはロッセリーニ監督だったんです。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。