【「カード・カウンター」評論】現代社会に満ちている見えない怒りに“魂の銃弾”を撃つスリラー
2023年6月18日 08:00
「タクシードライバー」(1976)、「レイジング・ブル」(1980)の脚本ポール・シュレイダーと監督マーティン・スコセッシという名コンビが再び手掛ける“復讐と贖罪”の傑作スリラーというキャッチコピーを目にしただけで、映画ファンは背中がゾクッとするのではないだろうか。「カード・カウンター」ではシュレイダーが監督・脚本、スコセッシが製作総指揮を手掛け、怒りに満ちた現代社会に再び“魂の銃弾”を撃つ。
ニューヨークの片隅で鬱屈した日々を送るベトナム帰還兵の孤独な青年トラビス・ビックルの姿を通して、大都会の闇をあぶり出した「タクシードライバー」は、第29回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞。麻薬や売春が横行する社会に嫌悪感を募らせ、大統領候補を暗殺しようとしたトラビスが、売春婦の少女を救い出して英雄となる物語は衝撃的であった。また、アカデミー賞ノミネートなど国内外から高い評価を得た、シュレイダー監督・脚本の前作「魂のゆくえ」(2017)と同様に、本作でも怒りと罪の意識にさいなまれる孤独な男の姿が描かれる。
主人公の元上等兵ウィリアム・テルは、アブグレイブ捕虜収容所での特殊作戦の罪で投獄され、出所後はギャンブラーとして生計を立てているが、罪の意識にさいなまれ続けている。静謐で暗く重たい作品をイメージするかもしれないが、ホテルのカジノが舞台であり、カードゲームのシーンなどは、スコセッシ監督の「ハスラー2」(1986)や「カジノ」(1995)のカメラワークや編集、プロダクションデザインを想起させ、エンタテインメント性もあるのが本作の見どころのひとつだ。
そして、主人公ウィリアムを「エクス・マキナ」(2015)、「DUNE デューン 砂の惑星」(2021)などのオスカー・アイザックがミステリアスに演じる。徐々に追い詰められ復讐へと駆り立てられていく姿は、ロバート・デ・ニーロが演じた「タクシードライバー」のトラビスや、イーサン・ホークが演じた「魂のゆくえ」の主人公エルンスト・トラー神父とも重なる。また、ウィリアムの背中に彫られた刺青はまるで「ケープ・フィアー」(1991)の主人公マックス・ケイディのようでもある。共演には、人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」のティファニー・ハディッシュ、「レディ・プレイヤー1」(2018)のタイ・シェリダン、さらに物語のカギとなるウィリアムの元上司をウィレム・デフォーが演じ脇を固めている。
これまでのシュレイダー×スコセッシ作品の系譜につながる作品であり、ファンの心をくすぐるが、彼らの作品を見ていなくても充分に見応えのある映画だ。過去に犯した罪やトラウマを人は乗り越えることができるのか。他人を、自らを許すことはできるのか。現代社会に満ちている見えない怒りは、幅広い世代に響き、確実に刺さるはずだ。
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