セルゲイ・ロズニツァ監督「破壊の自然史」「キエフ裁判」公開 連合軍による史上空前の空爆とナチ・ドイツを断罪する軍事裁判描く2作
2023年5月31日 07:00

ウクライナで育ち、ロシアで映画教育を受け、現在の戦争に対して世界的視野を持つセルゲイ・ロズニツァ監督が2022年に発表した「破壊の自然史」と「キエフ裁判」が8月12日から同時公開される。このほど予告編、キービジュアル、場面写真のほか、ロズニツァ監督からのメッセージが披露された。
これまでに4作のフィクションと27作のドキュメンタリーを発表し、世界の映画祭で上映されてきたロズニツァ監督作。ロズニツァは2014年のユーロマイダンとロシアによるクリミア半島の一方的な併合以降、ソ連時代から続くロシアの強権的な政治や近現代の戦争をテーマにした作品を精力的に発表し、独裁主義だけでなく民衆の無関心が戦争に向かわせると警鐘をならしてきた。96年から映画監督として活動を開始し、その間カンヌをはじめ世界の主要の映画祭にも登場しているにもかかわらず、2020年まで日本で一度も公開されることがなかった。
しかし、2020年に「国葬」(19)、「粛清裁判」(18)、「アウステルリッツ」(16)の3作品が、「群集3選」と題した企画で初めて劇場公開されたことで注目を集め、さらに2022 年には現在のロシア=ウクライナ戦争を予見していたと話題を呼んだ「ドンバス」(18)がロシアによるウクライナ侵攻直後に緊急公開され、その後「バビ・ヤール」(21)、「ミスター・ランズベルギス」(21)、「新生ロシア1991」(15)と現在までに7作品が劇場公開された。
このほど公開される2作は、過去の記録映像を全編に用いて歴史を再構成する、ロズニツァが得意とする“アーカイヴァル・ドキュメンタリー”。いずれの作品も第2次世界大戦をテーマに、戦争の終結と戦争責任を問うために実行された2つの“正義”に着眼し、「セルゲイ・ロズニツァ<戦争と正義>2選」と題して公開される。

第75回カンヌ国際映画祭特別上映作品の「破壊の自然史」は、技術革新と生産力の向上によって増強された軍事力で罪のない一般市民を襲った人類史上最大規模の大量破壊を描く。
第2次世界大戦末期、連合軍はイギリス空爆の報復として敵国ナチ・ドイツへ「絨毯爆撃」を行った。連合軍の「戦略爆撃調査報告書」によるとイギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツの131都市に100万トンの爆弾を投下し、350万軒の住居が破壊され、60万人近くの一般市民が犠牲となったとされる。人間の想像を遥かに超えた圧倒的な破壊を前に想起する心をへし折られた当時のドイツ文学者たちと、ナチ・ドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意識によってこの空襲の罪と責任について戦後長い間公の場で議論することが出来なかった社会について考察するドイツ人作家 W.G.ゼーバルトの「空襲と文学」へのアンサー的作品だ。

第79回ベネチア国際映画祭正式出品「キエフ裁判」は、戦禍の蛮行を裁く、戦勝国による軍事裁判がテーマ。
1946年1月、キエフ。ナチ関係者 15名が人道に対する罪で裁判にかけられる。この「キエフ裁判」は、第二次世界大戦の独ソ戦で、ナチ・ドイツとその協力者によるユダヤ人虐殺など戦争犯罪の首謀者を断罪した国際軍事裁判である。身代わりを申し出る母から無理やり幼子を奪いその場で射殺し、生きたまま子供たちの血を抜き焼き殺すという数々の残虐行為が明るみになる。被告人弁論ではありがちな自己弁明に終始する者、仲間に罪を擦りつける者、やらなければ自らも殺されたと同情を得ようとする者と、その姿にハンナ・アーレントの<凡庸な悪>が露わになる。アウシュビッツやバビ・ヤールの生存者による未公開の証言も含み、「ニュルンベルク裁判」と「東京裁判」に並ぶ戦後最も重要な軍事裁判が現代に蘇る。
過去の戦争に眼差しを向け現代に警鐘を鳴らすロズニツァが、戦争を終結させるため多くの民間人を巻き込んだ大量破壊と、戦後処理のため人道に対する罪で個人を極形に処する裁判に見る戦争と正義を、当事者の正当性ではなく、普遍的倫理観から考える。8月12日から、シアター・イメージフォーラムほか、2作品同時公開。
ないこともあります。
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