ドンバス
劇場公開日:2022年5月21日
解説
「アウステルリッツ」「粛清裁判」「国葬」などのドキュメンタリーで知られ、発表する作品の多くが世界3大映画祭に出品されてるウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督が、2018年に手がけた劇映画。2014年からウクライナ東部ドンバス地方で起こっている「分離派」(ロシアの支援を受けているとされる勢力)とウクライナ軍の軍事衝突を背景に、ノボロシア(ロシアと国境を接する、親ロシア派の住民が多いウクライナ東部の地域)の政治や社会を、風刺を交えながら描いた作品。ロシアとウクライナをめぐる歴史的なしがらみや、無法地帯で横行するフェイクニュースや暴力、公権力による汚職などの様子を映し出す。2018年・第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞を受賞。
2018年製作/121分/ドイツ・ウクライナ・フランス・オランダ・ルーマニア・ポーランド合作
原題:Donbass
配給:サニーフィルム
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2022年5月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会
『アウステルリッツ』『粛清裁判』『国葬』というドキュメンタリー映画で秀でた手腕を発揮して来た監督、セルゲイ・ロズニツァが描く、彼にとっての母国、ウクライナ、ドンバス地方の軍事衝突を背景にした作品。と来れば、今まさに戦火の只中にあるロシアによるウクライナ侵攻の現場をリアルに映し出したものと思うかも知れない。しかし、中身はそうではない。
そもそもこれはドキュメンタリー映画ではない。2014年から続くウクライナの内戦を風刺的に描いた全13章からなる劇映画であり、その皮肉に満ちた作風が評価されて2018年のカンヌ国際映画祭の"ある視点"部門でロズニツァが監督賞を受賞しているのだ。
冒頭から、親ロシア派が演出するフェイクニュースで始まり、戦場が茶番劇の発信源と化して行くプロセスは、結果的にドキュメンタリーとドラマ、事実とフェイクの境目をあやふやにしているという意味で、ロズニツァが4年前に試みた異色風刺劇はSNS時代に於ける戦争の真実を言い当てていたとも言えるだろう。
しかし、これはロシアとウクライナの因縁の歴史を描いた映像作品の一部に過ぎない。他にも、1930年代にウクライナで起きた大飢餓"ホルドモール"の真実に肉薄する『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年)、"ホルドモール"に端を発する物語がスターリン政権の闇を浮かび上がらせる『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2015年)、2013年にウクライナで発生した公民権運動、マイダン革命にカメラが密着したドキュメンタリー映画『ウィンター・オン・ファイヤー』(2015年)と、映像で収集すべき情報はたくさんある。
2022年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
■フェイクニュースを作るクライシスアクターと呼ばれる俳優たち、支援物資を横領する医師と怪しげな仕掛人。
新政府への協力という口実で民間人から資産を巻き上げる警察組織…。無法地帯“ノヴァ・ロシア(新しいロシア)”の日常を13のエピソードで紡ぎ出し作品。
◆感想
・ウクライナ紛争が起きてから、私は、”ロシア=悪、ウクライナ=正”と言う観点で見て来た。
・だが、この作品を観ると(ウクライナ紛争前である。)、上記のような簡単な関係性ではないという事が分かる。
<島国に生きる日本人には、理解出来ない事が多数ある事が分かる作品。ヴァルカン半島の、様々な紛争やの意味も理解できる作品。
ほぼ、単一民族で構成される、日本人とは、幸せなんだろうなと思った作品である。>
2022年8月22日
Androidアプリから投稿
いやーすごい映画を見た。神経がイカれてるとしか思えない。映画はエンターテイメントと思っているが 結婚式の場面も笑えない。ひきつる。俳優の顔も背景も落ち着かない。最後のエンドロール長回しにもやられた。
2022年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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2018年ぐらい(映画製作された頃)のウクライナ東部、ドンバス地域。
ロシアによる実効支配が続いており、親ロシア派により「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」が立ち上げられた(国際的には承認されていない)。
そこでは日々暴力が続いており、一例を挙げると・・・
ウクライナ側からの砲撃などあり、親ロシア側では事件現場にエキストラ俳優を起用して、プロパガンダニュースを流している、
大規模産婦人科病院では物資が不足しているが、あるところにはある、それを暴きに来た警察は一芝居打って、横流しに一枚嚙んでいる、
ドイツからやってきたジャーナリストは、戦車上の親ロシア派軍人たちにインタビューを試みるが、誰が上官かわからない、そのうち、反ドイツ意識丸出しの広報担当らしき軍人が登場するが、一方的にやり込められている目の前で砲弾が爆発する・・・
といった笑うに笑えないブラックでシニカルな場面が繰り広げられます。
ドキュメンタリー畑のセルゲイ・ロズニツァ監督による劇映画なのだが、ひとつひとつのエピソードは事実に基づいているので、笑うに笑えない状況となっており、それをドキュメンタリー映画よろしくほぼワンエピソード・ワンショットで撮っている。
似たような傾向の作品としては、エリア・スレイマン監督・主演のフランス・パレスチナ合作映画『D.I.』(2001)がこんな感じだったかしらん。
劇中、何度も登場する言葉は「ノヴォロシア」。
「新しいロシア」という意味で、ドンバス地方を含めての「ノヴォロシア連邦」を意味している。
もっとも背筋が凍るエピソードは、捕縛されたウクライナの給食兵が街頭で晒し者にされるエピソードで、親ロシアの市民たちがやってきて、最終的にはリンチ同然となっていく様子。
ドンバス地方におけるウクライナと親ロシア派との対立は根深いものがある。
もうひとつは、盗まれた自動車が発見されたというのでやって来た男性が、警察に自動車を接収され、無理やりに委託書を書かされるエピソード。
「お前はどっち側だ」と脅され、命と引き換えに強奪されるのだが、いやはや、突如として権力を握った者がどうなるかはこのエピソードをみればよくわかる。
事務所を出ると、男の周囲には同じような境遇の男性が何人もいて、知り合いに助けを頼んでいるので、まぁ、ここはコメディだとわかるわけだが。
で、最後に、巻頭に登場したエキストラの人々が再登場。
そして・・・
と、ここは書かないことにします。
世界情勢によって、もともとは「悲劇的な状況でのシニカルな喜劇」映画だったのだが、「笑うに笑えない喜劇的悲劇」映画と変貌した映画なのだが、もしかすると、世界はもともと「笑うに笑えない喜劇的悲劇の世界」なのかもしれないと改めて感じた次第です。