【「最後まで行く」評論】日本の実写映画の限界を超えていこうとする情熱と覚悟がリンクするハードボイルド作品
2023年5月21日 10:00
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「新聞記者」「余命10年」などの作品で日本映画界をけん引する藤井道人監督が、今回リメイクのメガホンをとった。しかも実力と興行力をあわせもつスター俳優の岡田准一が主演し、藤井監督とのコラボで俳優として進化し続ける綾野剛が競演と、この3人の掛け合わせの実現によって、その勢いと才能の結集を堪能できる意欲作であり、日本映画の新しい可能性を示す野心作でもある。
オリジナル版の韓国映画「最後まで行く(2014)」は、ひき逃げ事故の隠蔽工作を図った刑事が窮地に追い込まれていく姿を描いたクライムサスペンス。「パラサイト 半地下の家族」のイ・ソンギュンが演じる刑事ゴンスが極限まで追い詰められていく様、「警官の血」のチョ・ジヌンが演じる謎の男がゴンスを執拗に追い込んでいく異様な迫力に手に汗握り、ラストまで予測不能な展開に本国はもちろん、世界中の映画ファンが熱狂した。中国やフランスなどでもリメイクされている。
日本版リメイクとなると、オリジナル版や他国のリメイク作と比較して見てしまうかもしれないが、比較ではない視点で見ると、これまでの日本映画ではあまり見たことのないサスペンス・エンタテインメント作品として楽しむことができるだろう。汚職、危機、裏切り、罠と陰謀に巻き込まれていく刑事の年の瀬の4日間の物語が、緊迫感とスピード感、時にコミカルさをもって描かれる。韓国映画「殺人の告白」が原作の「22年目の告白 私が殺人犯です」も手掛けている平田研也が藤井監督と共同で脚本を務めた。
オリジナル版に敬意を払いつつ、プロデューサー、スタッフ、キャストとともに藤井監督が目指したのは、文化的な違いを考慮しながら新解釈し、時代性や社会性を大事にしたハードボイルドな作品だという。そして、印象的なモチーフとなっているのが“埃(ほこり)”だ。岡田演じる刑事の工藤と、綾野演じる監察官の矢崎が、追い込み追い込まれながら次第に互いに“埃”にまみれていく様が作品にリアリティを与えており、光と影を意識した藤井組の画作りのセンスを感じる。
そして、本作はアクションシーンも多く、工藤を演じられるのは自ら危険なアクションもこなせる岡田しかいなかったのではないか。岡田の身体能力と、コミカルさもある躍動感が物語に説得力をもたせ、そんな“動”の岡田を、綾野が“静”の迫力で追い込んでいく様も見どころのひとつ。眼鏡の奥の瞳に秘めた狂気を、顔のヒクつきひとつで倍増させてみせる矢崎が恐ろしい。この2人の対比=激突から最後まで目が離せない。
最低最悪の運命ならば、行き着くところまで、“最後まで”行ってやるという者たちの覚悟。絶体絶命な状況に追い込まれたことで、自らの限界を超えていく振り切った生き様は見ていて痛快である。これまでの日本の実写映画の限界を超えていこうとする、藤井組の情熱と覚悟がリンクしている。
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