【世界の映画館めぐり】佐渡島・ガシマシネマ 元鉱山住宅の古民家をリノベーション、選りすぐりのラインナップが光るシネマ&ブックカフェ
2023年5月4日 08:00
感染防止対策の規制もなくなり、今年は旅がしやすくなりました。映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」、前回お伝えした上越市の高田世界館に続き、新潟編第2弾です。今回は佐渡島にあるシネマ&ブックカフェ「ガシマシネマ」を訪問しました。
美しい自然豊かな佐渡はこれまで数々の映画の舞台になっています。筆者が映画で初めて見た佐渡は、「トラック野郎・度胸一番星」(1975)。謎の美女を追いかけ佐渡に渡る前の桃次郎に、三島由紀夫「サド侯爵夫人」を読ませる鈴木則文監督のセンスに脱帽でした。最近では2022年公開の田中裕子さん主演作「千夜、一夜」の舞台、また2021年に公開されたアニメ映画「アイの歌声を聴かせて」の聖地としても知られているそうです。
目的地であるガシマシネマは、元鉱山住宅だった古民家をリノベーションした施設で、カフェ営業のほか、月替わりで古今東西を問わず“新鮮”な映画を上映されているとのこと。公式HPで営業日や上映作品を確認できます。
佐渡は新潟港からカーフェリーでおよそ2時間半。荷物をまとめ、昼前に港へ向かいました。前日から降り続いていた雨が小雨となり、曇天の新潟港付近はヨーロッパの北の都市のような趣が。一人旅には慣れているものの、天候のせいか、「シェルブールの雨傘」を思い出したからか、なぜかちょっとセンチメンタルな気持ちになって乗船。船は鈍色の海を進みます。
波に揺られながらしばらくうたた寝をしていたら、天気が回復してきたので甲板に出ると、スピーカーから民謡「佐渡おけさ」が流れてきました。関東出身の筆者にはこれまであまりなじみがなかったのですが、2021年に公開された「ONODA 一万夜を越えて」で、イッセー尾形さんと遠藤雄弥さんによる、この歌をめぐっての鬼気迫る演技を思い出しました。
そして船は無事に到着。佐渡島の面積は東京23区の1.4倍ととても広いんです。一泊して、翌日にガシマシネマのある相川地区へバスで向かい、上映前に金銀山遺跡などを見学しました。歴史的な建物が立ち並ぶ町並みは風情があり美しく、旅気分が高まります。また、かつて生活のために遠方から佐渡にやってきたものの、事故などで命を落とされた方々の慰霊碑もあり、鉱山と共に発展した島の歴史に思いを巡らせながら手を合わせました。
ガシマシネマは、昭和10年代に建てられた木造の平屋です。田舎の親戚の家におじゃまするような感覚で、入り口を開けると、オーナーの堀田弥生さんが対応してくださいます。レトロな木造住宅の温かみを生かした内装と、ビンテージの家具が並ぶカフェコーナーはとても居心地がよく、また、この日ランチでいただいた鶏香味野菜カレーと佐渡番茶チャイも絶品でした!
特筆すべきは、かつて佐渡にあった映画館で活躍していたという35ミリカーボン式映写機の展示とカフェの蔵書です。映画最盛期には、島内に10以上の映画館があったのだとか。本棚には邦画洋画のクラシック作から特撮、アニメまで、さまざまなジャンルの映画ファンの好奇心を刺激する本がずらり。文学や紀行書、アートなど映画以外のラインナップも充実しており、近所にあったら毎日通いたくなってしまいそうです。「アイの歌声を聴かせて」グッズや関連記事もディスプレイされています。
福島県出身の堀田さんは新潟大学に進学し、新潟市のシネ・ウインドでのアルバイトがきっかけで、卒業後は東京へ。映画宣伝や雑誌編集、飲食店、ホテルフロント業等、いくつかの職種を経験した後、東中野の映画館に勤務。その後家族で佐渡に移住し、2017年に現在佐渡島では唯一となる映画上映施設、ガシマシネマをオープンしました。週末のこの日は、何組ものお客さんが訪れ、堀田さんの明るくあたたかいお人柄と心地よい空間が、地元の方々や観光客に愛されているのだなあとしみじみ感じました。
筆者が鑑賞したのは「ケイコ 目を澄ませて」のバリアフリー上映です。元プロボクサー・小笠原恵子氏の自伝を元にした作品で、両耳の聞こえないケイコを演じた岸井ゆきのさんの熱演に心を打たれます。東京の下町が舞台で、筆者のなじみ深い土地が映し出されると、佐渡という旅先からスクリーンで見る東京に妙な懐かしさを感じ、知らない土地での映画の新しい楽しみ方を発見できました。
また、この回には聴導犬とともにいらっしゃったグループのお客さんもおり、上映会場はほぼ満席に。離島で映画を上映することの意義を深く感じ、堀田さんの企画力と努力にも頭が下がります。別の時間帯にはインド映画「バン・バン!」の上映があり、東京から来たというインド映画ファンの方ともお話できました。映画という共通言語があると、初対面でも様々な話題が膨らみますね。
そして6月には、「アイの歌声を聴かせて」が上映されます。レンタカーなどで上映前後に、映画に描かれたスポットをめぐるのも楽しそうです。歴史や豊かな自然と見どころいっぱいの佐渡で映画を見るために旅をする……そんなスタイルもオススメしたい、充実の佐渡訪問でした。
映画は予約なしでも鑑賞可能ですが、定員20名なので、上映前日までにメールや電話で予約をするのが確実です。料金や上映作品は公式HP、SNSで告知しています。
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