【「ワース 命の値段」評論】災害国の日本だから見て欲しい。9・11で7000人の被害者遺族を救った弁護士たちの苦闘

2023年3月5日 19:00


「ワース 命の値段」は公開中
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9・11アメリカ同時多発テロの遺族に支払われる補償基金設立という、世紀の難事業に挑んだ弁護士たちを描く実話の映画化。ケネス・ファインバーグの回顧録「What Is Life Worth?」を原作に、米版「ゴジラ」シリーズのマックス・ボレンスタインが製作・脚本、「リトル・アクシデント 闇に埋もれた真実」のサラ・コランジェロが監督、「スポットライト」のマイケル・キートンスタンリー・トゥッチ、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のエイミー・ライアンが出演した人間ドラマ。オバマ夫妻が立ち上げた制作会社ハイアー・グラウンドが権利を取得、米では事件から20年後の2021年9月からNetflixでの配信が開始されている。

これまで多くの集団訴訟を手掛けてきた弁護士ファインバーグ(マイケル・キートン)は、米同時多発テロ災害補償プログラムの設立を議会から委託される。これまでの経験を踏まえ事務所パートナーのカミール(エイミー・ライアン)らと、自ら考案した計算式をもとに約7000人にも及ぶ被害者遺族への支払い業務を開始した彼だったが、多種多様な境遇の対象者たちをカバー出来ず、非難の的になってしまう。さらに、遺族でもある弁護士のウルフ(スタンリー・トゥッチ)がプログラム修正を主張するサイト「Fix the Fund(基金を修正せよ)」を立ち上げたことで、事態は思いがけない方向に広がっていく。

災害補償金という知られざる事実を描いた9・11映画である。冒頭、黒煙を上げるWTCビルに気付くファインバーグを捉えた1分ほどのシークエンスで、作品の緊張感は一気に高まる。演じるキートンは脚本に惚れ込みプロデューサーとしても参加、作中ではファインバーグ本人が驚くほど、その表情や身のこなしをコピーしたという。当事者とは向き合わず計算式を追求する前半と、そこから大きく反転していく後半の対比は、ありがちなムーブだが観る者を燃え立たせる。

「多様性」という言葉も浸透していなかった20年前に、様々な事情を抱えた遺族たちの証言シーンが胸に迫る。人を思う気持ちを数字になど出来ないことを、改めて教えられる台詞の数々。コランジェロは「リトル・アクシデント」やドラマ「天空の旅人」では、正直器用な監督とは思えなかったが、本作ではオスカー俳優を起用しつつも、脇役である市井の人々の描き込みに深い感動をおぼえた。女性監督ならでは、と言う枕詞の付かないフラットな画面作りにも好感が持てる。

ちなみに前出の反対派が立ち上げたサイト「Fix the Fund」は実在するが、現在は「The Fund is Fixed(基金は修正された)」と名称変更、これまでの経過が掲載され、今でも閲覧することが出来る。

(本田敬)

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