「トップガン」続編が実現した“運命の30分間” トム・クルーズを口説き落とした4つのポイントとは?
2022年11月27日 12:00
オープニングシーン――高揚感あふれるケニー・ロギンスの大ヒット曲「デンジャー・ゾーン」が流れるなか、戦闘機が空母から飛び立つ。その光景に、80年代への郷愁に駆られた人々は多いのではないだろうか? そんな感覚を観客に抱かせながら、製作陣や俳優の想いは音速のスピードで、世界中に浸透していった。
映画館で映画を鑑賞する喜びを再び味わわさせてくれた「トップガン マーヴェリック」。ニューヨーク近代美術館(MOMA)では、その年を代表する名作映画をThe Contenders Seriesとして上映しており、2022年は同作が選出されている。この上映にジョセフ・コジンスキー監督が立ち合い、製作秘話をたっぷりと語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
トム・クルーズを一躍スターダムに押し上げた「トップガン」の続編。アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット・マーヴェリック(クルーズ)が教官として帰ってきた。空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)の姿もあった。
戦闘機一機に対して、6台のカメラが組み込まれた撮影を敢行(IMAX並みに良質な6Kのソニーのカメラ「Venice」を使用)。空中の映像は、813時間も撮影されている。90日間のトレーニングを行った出演者は、身体的に厳しいG(=重力)に耐えながら、過酷な撮影に臨んだ。
コジンスキー監督が「トップガン」を初めて鑑賞したのは、11歳の頃。世界的ヒット作の続編を手掛ける――プレッシャーは並大抵のものではないはずだ。そんな彼に対して、クルーズはこんな言葉を頻繁に投げかけていた。
「プレッシャーは特権だ!」
つまり、重圧とは“選ばれし者だけが感じ取ることができるもの”であるということだ。
「非常にプレッシャーを感じていた。監督のトニー・スコット、製作者のジェリー・ブラッカイマーとドン・シンプソン、そして俳優のトム・クルーズによって、オリジナル作品の“標準”がかなり高いものになっていたからだ。だからこそ、再びトムやブラッカイマーが関わってくれたことが嬉しかった。バル・キルマーの再出演も同様の気持ちだった」
コジンスキー監督は“始まり”を振り返る。それは、クルーズに「トップガン マーヴェリック」のアイデアをピッチした時のこと。当時のクルーズは、パリで「ミッション:インポッシブル」シリーズの撮影中だった。ピッチの前日には、クルーズから電話でこんなことを言われたそう。
「ジョー(ジョセフ)、ここまで来てくれてありがとう。明日はどんなことが起きようとも、君に会えるなら最高だよ!」
その言葉を聞いて、コジンスキー監督はこう思ったそうだ。
「オーマイゴッド! トムは続編を作る気がないんだ」
どうにか続編企画を実現させたかったコジンスキー監督。「トムとは『オブリビオン』でタッグを組んでいる。だからこそ、マーヴェリックのような象徴的な役柄を再び演じるには、トムにある種の感情的な理由が必要なことがわかっていた」。コジンスキー監督に与えられたのは、次のシーンのセットアップをしている30分間。クルーズに対して、根幹を成す4つの要素を提示した。
まず初めに告げたのが「映画の母体となるのは、マーヴェリックと、彼のウィングマンだった男(グース)の息子との和解の物語」である点。「その息子は海軍のパイロットになり、マーヴェリックとともに危険な任務を任されることになる。そして、彼らは敵の領土の奥地に連れて行かれる。そこですれ違いを解決していくことになる」と話すと、クルーズは腕を組んで何かを考え始めたように見えた。
次に「でも、観客が再び出会うマーヴェリックは、将官などには昇格していない。砂漠の近くでテストパイロットをしていて、人とマシーン(機械)の限界を押し広げようとしている。『ライトスタッフ』のチャック・イエガー(サム・シェパード)みたいな感じだ」と告げた。
クルーズは「OK」とだけ答えた。
3つ目の提案は「全てをリアルに撮影する」というもの。「海軍のパイロットがGoProのカメラで撮影した映像は、これまで鑑賞してきたどんな映画よりも良い。そんな映像を表現するために、どうやってカメラを機内に乗せるのか。その方法を考えなければいけない」と伝えると、クルーズは「もちろんだ。その方法でしか、僕は出演するつもりはない」と言い切った。
最後に伝えたのは「続編のタイトルを『トップガン2』とすることはできない。『トップガン マーヴェリック』と呼ばなければいけない」という言葉。
すると、クルーズは携帯を取り出した。電話をかけたのは、スタジオ(=パラマウント)のトップ。その場で「続編を作る」と宣言したそうだ。
マーヴェリックという役柄は「トムのリアルな性格に最も近い気がする」と語ったコジンスキー監督。
「だからこそ、トム本人が演じているという感覚が強い。これをスクリーン上で表現するということは、とても勇敢なことでもある。アイスマンとの友情も、スクリーン外におけるバル・キルマーとの関係性と同じだ。トムとバルのセットでの撮影は、それぞれから真実味を感じとることができた。お互いにとって生々しく、正直な瞬間だったと思う」
話題は、若手俳優のキャスティングについて。「キャスティングは、監督にとって最も重要な仕事だ。キャスティングの度に、毎回レッスンを受けているような気がする」という。
「僕にとって本作は4本目の作品で、以前にタッグを組んだ俳優とも再び関係が持つことができた。2作目『オブリビオン』に出演してもらったトムとの再タッグ。ジェニファー・コネリーとマイルズ・テラーは『オンリー・ザ・ブレイブ』で仕事をしたばかりだが、彼らはとても素晴らしかった。だからこそ、ルースター役やペニー・ベンジャミン役を考えた際、彼らは既に(キャスティング上の)トップリストに入っていた。幸運にも、2人ともオファーに対して『YES』と言ってくれたんだ」
ちなみに、ハングマン役のグレン・パウエルは、当初、マイルズ・テラーが演じたルースター役を希望していたそうだ。
「マイルズとグレンは、同じ日にオーディションを行った。『Great Balls of Fire』を演奏してもらったり、トムとシーンを演じてもらったり、さまざまなテストに臨んでもらった。グレンの演技は、素晴らしかった。隣でオーディションを見ていたブラッカイマーが、僕に寄りかかりながら『彼は素晴らしい』と語ったほどだ」
しかし、結果的にルースター役はテラーの手に渡った。コジンスキー監督は、パウエルのエージェントに「僕らは、彼に別の役を演じてほしいと思っている」と伝えたそう。ところが、エージェントは、製作陣に敬意を表しながらも「グレンは興味を持っていない。彼は主役を演じたがっている。その下の役柄を引き受けるつもりはない」とオファーを断ったそうだ。
その事態を知ったクルーズは、コジンスキー監督に「グレンと会いたい」と頼んだそう。やがて実現した会合では、こんな会話が繰り広げられた。
クルーズ「グレン、君はどんなキャリアを望んでいるんだ?」
パウエル「あなたのようなキャリア望んでいます、トム」
クルーズ「僕がどうやってこの場にいると思う?」
パウエル「素晴らしい役を選択してきたからではないのですか?」
クルーズ「グレン、それは違うんだ。良い映画を選択し、それぞれの役柄を自分のものにしてきたからなんだ」
この対話によって、自身の誤った解釈に気づいたパウエル。そこからハングマン役を引き受け、キャラクターを“自分のもの”にしていった。ちなみに、クルーズがアドバイスをしたのは、パウエルだけではない。その他の若手俳優にも同様の助言を行っていたそうだ。
俳優たちが戦闘機に乗っている間、周りにクルーはいなかった。「彼らが機上している間は、全てそうだった。俳優たちは自分たちで合図を出し、カメラをオンにしたりする。まるでステージのリハーサルをやっているような感覚だったはずだ。基地ではパイロット&俳優とブリーフィングを行い、残りの時間をカメラのスイッチも備えたF18の木製モデルで練習していた。『どこを見ればよいのか』『どう操縦すればよいのか』『地形はどのように見えるべきか』『太陽がどこにあるべきか』という点を、俳優たちが理解するまで確認していた。そして、パイロットと一緒に戦闘機に乗り込んだ彼らは撮影場所に到達すると、6台のカメラ全てをアクティブにする1つのスイッチを押していたんだ」と撮影の裏側を告白。ちなみに、午前中に撮影された空の映像に満足しなければ、午後には再び空中撮影を実行していた。
また、コジンスキー監督はインスピレーションを受けた作品を明かした。
「サム・シェパードとエド・ハリスが出演した『ライトスタッフ』だ。今作にもエド・ハリスが出演してくれて、まるで夢が叶ったような気がしている。『ライトスタッフ』は子どもの頃に見たことを覚えていて、あの映画の主人公のような要素を、マーヴェリックにも持ち合わせて欲しかった。編集面は、トニー・スコットとトム・クルーズがタッグを組んだ『デイズ・オブ・サンダー』に影響を受けている。我々は可能な限り“大きなスクリーンで見なければいけない映画”を作ろうとしていた。それこそが、我々が目指していたことだったんだ」
コロンビア大学に在籍していた頃は、建築を学んでいたというコジンスキー監督。
「当時の建築学科の学部長は前向きな考え方をする人物で、学生たちに建築への探究心を養わせるために、映画制作のツールを与えてくれた。そこで編集、デジタルビデオ、3DCGソフトウェアを学んだんだ。すぐに映画を作り始め、それがきっかけで映画界に入ってきた。映画監督と建築家には、類似している点がある。建物は建築家だけでは建てられない。それと同様に、映画監督も自分だけでは映画を作れない。それぞれがビジョンを持ち、大きなグループの人々を刺激して、共にクリエイティブを追求していく。建築家には設計図があって、監督には脚本がある。計画の過程から類似点は多いんだ」
「トップガン マーヴェリック」はパンデミック以前に製作され、当初は2020年に公開される予定だった。2年遅れとはなったが、劇場公開に結びついたのは「ブラッカイマーとトムのおかげ」だという。
「映画館が閉まっていた頃、彼らのもとにはストリーミング配信に関する高額のオファーを届き、周囲からは『ストリーミングで配信すべきだ』というプレッシャーを受けていた。しかし、トムは『劇場がオープンし、人々が再び映画館に戻ってくる準備ができるまでは、本作を見ることはできないだろう』と断言していた。ご存知の通り、彼がその方針を保持し続けたのは称賛に値することだ。もし、この映画を携帯の画面で鑑賞していたら……観客にとっては、ひどい体験になっていたと思う」
最後にコジンスキー監督は、クルーズに敬意を表し、このように言い表していた。
「彼は、毎朝、活気に満ちている。まるで映画のセットを初めて訪れた若手俳優のようだ。50作以上の作品に出演した今でも、そんな情熱を持っているんだ」
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