新海誠「すずめの戸締まり」のポテンシャルを紐解く 興収100億円突破の可能性は?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年11月12日 06:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
11月11日(金)から新海誠監督作「すずめの戸締まり」が公開されました。
本作は、2016年にメガヒットした「君の名は。」の新海誠監督作ということで注目が集まっていますが、特に「君の名は。」以降に配給・製作を手掛ける東宝の期待度が大きいように感じます。
まず、全国公開に先駆け、11月7日(月)の21時から「すずめの戸締まり」の「世界最速IMAX先行上映会」を企画して、9月30日(金)から「新海誠IMAX映画祭」という大きな企画を全国41館で開催していたのです。
「秒速5センチメートル」(2007年)、「君の名は。」(2016年)、「天気の子」(2019年)の3本をIMAXで上映し、入場者特典として、その「世界最速IMAX先行上映会」に応募できるシリアルコード付きポストカード20万部を用意していました。
つまり、公開の4日前にイチ早くIMAXで見られる、ということにプレミアが生じるような仕組みまで作っていたのです。
映画は10月22日(土)に完成し、私は通常のスクリーンで見ました。
今回の「すずめの戸締まり」は、「君の名は。」や「天気の子」とは作りが違っていたので、私の感覚値では「前2作品のような興行収入100億円を超えるところまではいかない?」というものでした。
ただ、その後の展開を見ていると、東宝の意気込みは、それこそ日本歴代興行収入1位の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」級を狙っているようにも感じてきています。
まず、東宝は、スタジオジブリ作品や細田守監督作品では付けてこなかった入場者特典を封切り時点から用意しているのです。
しかも、全20ページの大型の豪華冊子「新海誠本」300万部という規模です!
これは、「新海誠IMAX映画祭」や「新海誠本」というネーミングからも分かるように、監督の名前のブランド化を強化しようとしています。
私も、かつて「君の名は。」を試写で見た際に、週刊誌の映画コラムで「ポスト宮崎駿」といった用語を使って紹介しましたが、やはり監督の名前のブランド化は非常に大切なものだと感じます。
実際に、「ポスト宮崎駿」といった枠組みで語られることの多い、新海誠監督作品と細田守監督作品をごちゃ混ぜに把握している人も少なくない現状があるからです。
次に、公開規模です。今は閑散期ではありますが、それこそ「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」級に、劇場の公開回数や座席が用意される状況になっていて、他の作品の座席が大きく減らされています。
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、閑散期かつコロナ禍で厳しい2020年10月16日(金)公開だったので、劇場の上映回数や座席を多めに確保することができましたが、それを想起させるような規模感です。
つまり、強力な入場者特典と監督のブランドで、一気に集客をしようという試みです。
そのため、観客が良い反応をすればするほど、興行収入が大きく跳ね上がる万全の体制が出来ているわけです。
ここまでの状況を見ると、おそらく入場者特典も第2弾、第3弾と出てくるのでは、と感じます。
そう考えると、「前2作品のような興行収入100億円を超えるところまではいかない?」という感覚値も、前提が大きく変わるので、再考察が必要になります。
そこで、私がなぜ本作の興行収入は、通常であれば100億円には届かないと思ったのかについて書いてみます。
すでに日本テレビの金曜ロードショーで「すずめの戸締まり」の「冒頭12分」をノーカットで放送したり、テレビ朝日で「特別映像」を放送しているので、その部分に絞ってみます。
本作の主人公は、「すずめ」という17歳の女子高生で、高校に自転車で通学する途中で「草太」という長髪の男性を見かけます。
その際に「すずめ」は、「草太」の姿を見て、顔を赤らめ「綺麗」とつぶやきます。
ただ、その直後の映像は、「草太」と「すずめ」の位置は、かなり距離があり、容姿どころか性別も判別できないような状況になっているのです。
つまり、「綺麗」とつぶやいたシーンは、画面上では「草太」のアップになっているのですが、それは「すずめ」の目線ではないので、セリフが強引になっています。
また、「すずめ」と「草太」は1匹の猫を探して旅に出る設定ですが、その「普通の猫」を探すのは、一般のツイッターなどで簡単に見つけられるようになっています。
もしも、その猫が「話せる猫」といった「誰もが注目をするような状況になっていたらSNSで探すことも可能」でしょうが、実際のシーンではそうなっていません。
これらが象徴的ですが、物語の強引すぎる箇所や設定が散見されるなど、「作り込み」の面が気になりました。
ただ、本作の公開に合わせて「君の名は。」が金曜ロードショーで10月28日に放送されました。その際、改めて鑑賞して見ると、そういうシーンが少なくなかったことに驚きました。
しかし、2016年に試写で見た時には、純粋に「面白い」と感じたのは事実です。
そこで、その理由を考えてみると、「歌の相性」が重要で、「勢いで物語を突っ走る疾走感」が心地良いというのが非常に大きいと再確認しました。
本作は「新海誠監督集大成にして最高傑作」というキャッチコピーが付いていますが、ここの評価はかなり分かれるのかもしれません。
「歌の相性」が奇跡的に物語にハマっていた「君の名は。」は、そんなに狙って作れるような作品ではなく、私は「すずめの戸締まり」よりも「君の名は。」の方が面白いと感じます。
ただ、「星を追う子ども」(2011年)などで目指していたジブリ感は本作では、よりよく出ていましたし、「最高傑作」という表現を使いたくなるのも理解はします。
とは言え、興行収入100億円という壁の突破は、かなり難易度の高いものです。
しかし、スタジオジブリ作品をブランド化させた最大手の東宝がここまでの舞台を用意しているのであれば、大きな山が動くのかもしれません。
入場者特典などのサポートで興行収入100億円は超えそうな気がしますが、どこまで伸ばせるものなのかは、今回は未知数です。
いずれにしても、「映画を監督で見る」ということは非常に重要な視点なので、それがどこまで根付いているのかを見る上でも本作の結果には注目したいと思います。
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