「ONE PIECE FILM RED」で東映の決算はどうなる? 「円安」は+、-のどっち?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年10月14日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
先週末2022年10月8日~9日の週末動員ランキングを見てみると、「何が起こった?」というような、極めてまれな事態となっていたことがわかります。
それは、近年では、ベスト10のうち、1、2作品がランクインしていれば「スゴイ」と思える東映配給作品が、なんと以下の4作品もあったのです!
実は、ここから、“ある作品の影響力”が見えてきます。
それは、1位の「ONE PIECE FILM RED」(ワンピース フィルム レッド)のこと。公開から「10週連続1位」を記録しています。
そのため「ONE PIECE FILM RED」を見た人の多くが、映画館の予告編で東映配給作品に触れる機会が圧倒的に増えたわけです。
それもあり、東映配給作品に興味を持つ人が増え、近年では考えられなかった異例の状況が引き起こされたのでは、と思われます。
この事例からわかるのは、「劇場で見る予告編の影響力が、いかに大きいのか」です。
まさに、それを「ONE PIECE FILM RED」のメガヒットが証明している状態でしょう。
さて、先週末10月7日(金)には「意外と早く発表したな」と思ったニュースがありました。
それは、東映が「今年の興行収入が1月1日から9月30日までの時点で220億4645万3943円となり、これまでの年間の最高記録であった2009年の179億8025万4340円を超えて歴代最高になった」というものです。
この話は近いうちに、このコラムで書く予定でした。
というのも、10日時点で「ONE PIECE FILM RED」の興行収入は167億7556万4330円となっていて、歴代興収ランキング10位の「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(173億円)まで、あと5.3億円にまで迫っています。それと同時に、「東映の歴代の年間興収179億8025万4340円」さえも超えてしまう、というオマケ付きだったからです。
このくらい「ONE PIECE FILM RED」の存在は映画業界にとって大きなものといえます。
そこで、次に起こることを想定してみます。
そもそも東映にとって「ワンピース」という存在は、非常に大きな作品といえます。
それは、かつて東映が年間最高興行収入を記録した「2009年に何があったのか」というと、まさに映画「ワンピース」が最初に確変を起こした「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」があった年なのです!
それが、今回さらに確変を起こし、1951年に始まる創業71年間もの歴史の中で、わずか1作品で「年間最高興行収入」を超えるという凄まじい状況を生み出しているのです。
上場企業は、「4半期決算」といって「3か月に1回、決算を発表する」必要があります。
東映は、3月末に区切りをつける「3月期決算」の会社なので、4月から6月までの「第1四半期」の発表を8月10日に行なっています。
次が7月から9月までの「第2四半期」の発表となるのですが、この期間は「ONE PIECE FILM RED」のメガヒットが含まれているため、決算の数字にも反映されるわけです。
「第2四半期」の発表は11月14日(月)に行なわれる予定となっていますが、ひょっとしたら、それよりも前に「業績予想の修正に関するお知らせ」という「上方修正の発表」が起こり得ます。
東映の決算で押さえておきたいのは、例えば、昨年度の2022年3月期の場合では、利益のバランスが以下のようになっている点です。
つまり、決算を大幅に動かしているのは、映画やテレビなどのコンテンツから構成される「映像関連事業部門」であることがわかります。
まさに、その「映像関連事業部門」において、「ONE PIECE FILM RED」では単独配給に加えて、製作委員会にもフジテレビジョン、東映アニメーション、東映の順で3番目に多く出資しているので、出資分の利益を得ることができます。
さらには、2番目に多く出資している東映アニメーションは、東映の子会社なので、その利益の多くも手に入れることができます。
このような状況なので、今年度の2023年3月期における東映の決算は、「過去最高益」になると思われます。
ただ、東映の決算で注目すべきは、「ONE PIECE FILM RED」だけではないのです。
意外かもしれませんが、24年ぶりに1ドル=147円になるくらいまで急激に進んでいる超「円安」の状況も関係しているのです。
冒頭のランキングの際にも触れましたが、「東映の映画は、ベスト10のうち1、2作品がランクインしていれば上々」のように感じています。
それでも決算は好調を続けているのです。
では、その背景に何があるのでしょうか?
実は、その重要な答えに「海外での売上」があるのです!
例えば、昨年度の2022年3月期に「過去最高益」をあげている東映アニメーションは、「売上の62%が海外」となっています。
東映は、傘下の東映アニメーションにおいて「ドラゴンボール」を筆頭に海外向けの商品化権やゲーム化権といった「版権販売」が絶好調なのです。
しかも、この「版権販売」は、2次利用的なものが多いため「利益率」が非常に高いのが特徴です。
今年は、3月に東映アニメーションがサイバー攻撃を受け、当初はGWに向け4月22日に公開予定だった期待作「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」が、閑散期の6月11日公開という残念な状況になりました。
しかし日本では興行収入25億円を稼ぎ、全米公開では初登場1位(8月19日~21日)を記録するなど、世界的な人気の健在ぶりを示しています。
そこに加えて、「ONE PIECE FILM RED」は11月4日(金)から全米での公開を予定していたりと、映画自体の海外展開も期待できるのです。
しかも、「ワンピース」人気は海外でも高く、こちらも「版権販売」に加えて、「映像配信権」も伸びているのですが、「ONE PIECE FILM RED」を機に、さらなる確変が起こるのかもしれません。
また、「スラムダンク」のアプリゲームも人気ですが、原作者の井上雄彦が監督・脚本を務める「THE FIRST SLAM DUNK」が12月3日に公開予定となっています。
この作品はまだ全貌が見えてきませんが、化ける可能性があると思います。
このように、東映は、海外でも稼げる作品を作っていて、海外では「同じお金」を出して購入していても、「円安」のため海外のお金の価値は高く、日本の「円」に換算すると東映にとっては「巨額」となるわけです!
ちなみに、今回の「円安」については、かつてとは異なり、「構造的な要因」があることも重要な要素となっています。
この「円安」が進む構造的な問題の仕組みについては、『細野真宏のつけるだけで「節約力」がアップする家計ノート2023』(小学館)における『超「円安時代」の最新・家計防衛術』で詳しく解説してあるので、そちらをご覧ください。