現役日藝生による映画祭「領土と戦争」12月2~8日開催 「ウンタマギルー」「半島の春」「カティンの森」など14作上映
2022年10月7日 11:00
日本大学芸術学部映画学科の学生たちが企画した映画祭「領土と戦争」が、12月2日~8日に、渋谷ユーロスペースで開催されることが決定。全14作品が上映される。
テーマ設定、企画から作品選定、上映交渉、ゲスト交渉、チラシやパンフレットのデザイナー探しから制作、そして会場運営に至るまで現役日藝生が主体となって行ってきた映画祭は、今年で12回目を迎える。今回の映画祭では、領土問題を戦争という観点から捉えた映画をセレクト。日本に関係する作品を中心に、過去の戦争や東西冷戦、植民地、現在の紛争まで幅広い視野で上映を行う。
沖縄返還50周年を記念し、沖縄関係では3作品をチョイス。日本復帰直前の沖縄を舞台に、沖縄語で展開されるファンタジー映画「ウンタマギルー」は、全編日本語字幕付きで35ミリ上映。沖縄戦におけるスパイ戦やゲリラ戦の真相を探る衝撃のドキュメンタリー「沖縄スパイ戦史」、特志看護婦として動員された女学生「ひめゆり学徒隊」を描いた今井正監督の代表作「ひめゆりの塔(1953)」が披露される。
第二次世界大戦の日本とアジアの関係を振り返り、日本人及び現地人に対して、日本のフィリピン占領を正当化した「あの旗を撃て コレヒドールの最後」のほかに、イ・ビョンイル監督のデビュー作「半島の春」も。同作は、日本による朝鮮映画令施行以降、初めて検閲に合格した朝鮮映画であり、映画を愛する朝鮮の映画人たちの撮影現場を描いている。日本への愛憎半ばする状況で日本語と韓国語が入り混じり、半島映画社の設立式で内鮮一体が提唱されるなど、日本統治下の朝鮮を表している。韓国映像資料院と交渉し、上映が決定した。
日本だけではなく、世界中の戦争、南北分断、現代の紛争についての作品も。ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が手がけた傑作「カティンの森」は、1943年に多数のポーランド将校の遺体が発見された「カティンの森事件」を基に、ソ連軍の捕虜となってしまったアンジェイ大尉の運命を描いている。日本での権利が切れていたが、ポーランドの権利元と交渉し上映が実現。フォルカー・シュレンドルフ監督作「ブリキの太鼓」(1979)、アルジェリア戦争末期のアルジェリア人の闘争を描く「アルジェの戦い」、 朝鮮戦争における南北の極限の戦いを描いたチャン・フン監督の代表作「高地戦」、アレクサンドル・ソクーロフ監督作「チェチェンへ アレクサンドラの旅」、ヤスミラ・ジュバニッチ監督作「アイダよ、何処へ?」などもラインナップされた。
上映作品、映画祭へのコメント、トークゲスト一覧は、以下の通り。
「狼火は上海に揚る」
「あの旗を撃て コレヒドールの最後」
「ひめゆりの塔(1953)」
「アルジェの戦い」
「地獄の黙示録 ファイナルカット」
「ブリキの太鼓」
「ウンタマギルー」
「チェチェンへ アレクサンドラの旅」
「カティンの森」
「高地戦」
「沖縄スパイ戦史」
「運命は踊る」
「アイダよ、何処へ?」
「領土と戦争」をテーマとし、1940年代から2020年代製作の映画を全地球規模の地域から選んでしまった企画魂に脱帽する。支配される側の身体と精神をどう捉え、いかに表現しているかが映画の見所の1つだろうが、たとえば戦前期の日本の大日本帝国憲法は、海外への領土の拡張を前提にして書かれてはいなかった。法の埒外の異境と戦争が斬り結ぶ時、映画が切り取れるものは何だったのか。全部を観てみたい。
ロシアのウクライナ侵攻、台湾問題など、遠い歴史のかなたにあったはずの戦争が、これほど近くに来ていることに驚いている。そうした目で、過去の戦争映画の名作を観ることはとても重要なことだ。あの時、私はどのように戦争をとらえていたのか、自問する機会を与えてもらうことになるだろう。
なんだい、リュミエール先生。話が違うじゃないか。映画は国境を越えて、世界中の不思議をたちどころに見せてくれるはずじゃなかったのかい。どうして国境ごとに別々の映画が作られ、国境のおかげでひどい目に遭った人たちのことを描いてきたのだろう。人間を幸福にするはずの映画はどうして人間の悲惨にばかり囚われてきたのだろう。
「半島の春」ゲスト:下川正晴(「日本統治下の朝鮮シネマ群像」著者)
「アイダよ、何処へ?」ゲスト:安田菜津紀(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)
「あの旗を撃て コレヒドールの最後」ゲスト:志村三代子(日本大学芸術学部映画学科教授)
「ブリキの太鼓」ゲスト:渋谷哲也(日本大学文理学部教授/ドイツ映画研究)