ベネチア映画祭終盤、ルカ・グァダニーノ、アリス・ディオップらに高評価 モンローに扮したアナ・デ・アルマスに歓声
2022年9月10日 13:00
ベネチア国際映画祭も大詰めを迎え、すべてのコンペティション作品が出揃った。イタリアのプレスで評価が高いのは、ルカ・グァダニーノの「Bones and All」、アリス・ディオップの「Saint Omar」、マーティン・マクドナーの「イニシェリン島の精霊」、深田晃司の「LOVE LIFE」など。インターナショナルのプレスには、「イニシェリン島の精霊」とともに、トッド・フィールドの「TAR」、「シチズンフォー スノーデンの暴露」でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、写真家で社会活動家のナン・ゴールディンに迫ったドキュメンタリー、「All the Beauty and the Bloodshed」などがある。
好みは分かれるタイプながら強烈な個性を感じさせたのは、ダーレン・アロノフスキーの「The Whale」だ。鯨のように巨漢で肥満したゲイの男の孤独を見つめた物語で、カメラがまったく戸外に出ず、主人公(ブレンダン・フレイザー)がせいぜい椅子から立って移動するだけの密室劇にも拘らず、ほぼ2時間を見せきる。これほど特異な物語を普遍的な感動作に昇華させるとは、さすがアロノフスキー監督と唸らされる。
「ファーザー」のフロリアン・ゼレールの新作「The Son」は、公式上映で熱のこもったスタンディング・オベーションを浴びた。元妻と息子から離れ、いまは再婚した妻と暮らす主人公が、思春期の息子のトラブルをきかっけに彼を引き取ることになる。自傷癖の付いた息子の状態に父親はショックを受け、なんとか彼を立ち直らせようと手を尽くす。前作同様、愛情だけではどうにもならないもどかしさ、複雑な人間関係にメスを入れ緻密に描き出すゼレールの演出、父親役のヒュー・ジャックマンのこれまでのイメージを覆すような名演が心に迫る。
映画祭終盤に披露された注目作は、アナ・デ・アルマスがマリリン・モンローに扮した、アンドリュー・ドミニク監督による伝記映画「ブロンド」だ。レッドカーペットには、ドミニク監督とアルマス、モンローの元夫アーサー・ミラーに扮したエイドリアン・ブロディとともに、プロデューサーのブラッド・ピットも登場し、歓声を浴びた。
公式上映では14分の熱狂的なスタンディング・オベーションに感激したアルマスが目を潤ませるシーンも。批評は大方好評で、とくにアルマスがモンローに乗り移ったような演技は絶賛を浴びているが、モンローを「被害者」として、一面的に描きすぎているという声もある。とくに会ったことのない父親と、精神病院に入れられた母から受けたトラウマ、さらにセックスシンボルとして、今でいう#MeTooの被害者の立場が繰り返し語られるのは、それが本当だったとしても、弱者としてのモンローのみを強調するもので、たとえば当時先駆的に自身のプロダクションで映画制作を目指すなど、モンローの多面的な要素を出し切れていない感はある。ケネディ元大統領との1シーンや、映画プロデューサーとの初めての「密室のオーディション」の描き方は荒々しく、NC-17指定になったのは頷けなくもない。
今年のベネチアではさらに、ラース・フォン・トリアーとニコラス・ウィンディング・レフンというふたりのデンマーク人監督によるTVシリーズが注目を集めた。トリアーは「キングダム」シリーズの完結編となる「The Kingdom Exodus」。5エピソードから成る本作は、怪奇現象が見られる通称キングダムと呼ばれる病院を舞台に、そこに集う人々の奇妙な人間模様と病院の知られざる秘密が語られる。前半はトリアー特有の辛辣さと子供っぽいユーモアが同居したコメディ的な作り。だが後半に進むに連れホラー色が強まり、予想を超える展開に突入。大団円の暴走ぶりは、期待をはるかに上回る。残念ながら飛行機恐怖症のトリアーがベネチアを訪れることはなかったが、ズームで記者会見に参加した。
レフンのシリーズは、「ネオン・デーモン」や「トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング」に通じる怪異で催眠的な映像世界だ。現代のアウトローのようなヒロインが、アンダーグラウンドな世界を徘徊する、スタイリッシュなクライム・サスペンスとして人気を得た。レフン監督の友人である小島秀夫もカメオで登場。公式上映ではほぼ5時間にわたる一挙上映にレフン監督自身も同席し、終映後は歓声と拍手を浴びた。(佐藤久理子)
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