大ヒット作「ONE PIECE FILM RED」は歴代興行収入ベスト10に入れるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年8月19日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
やはり「ONE PIECE FILM RED (ワンピース フィルム レッド)」は「規格外の作品」だった、というのが公開から10日目で実感した率直な感想です。
まず、前回の試写室日記「第182回」で書いたように、公開前に考察を始めると、本作の興行収入は100億円はいけそうだ、という結論に達しました。
ただ、これまでのデータから考えると、興行収入100億円は無茶と言えるのも事実。
そこで念のため業界内での認識を確認すべく他の配給会社の方との雑談でリサーチしてみても「50億円台では?」といった様子。
確かに、劇場版「ONE PIECE」シリーズは歴代最高でも興行収入68.7億円(「ONE PIECE FILM Z」)。原作者の尾田栄一郎が関わる際には大きく伸びますが、通常は50億円台という結果です。
しかも、今は新型コロナの第7波で映画業界もダメージを受けています。
とは言え、「ONE PIECE FILM RED」からは過去のデータでは測れないポテンシャルを感じ、前回は論理を整理していった結果をそのまま試写室日記でまとめることにしました。
その後の私の感覚値をそのまま書くと、公開2日間の興行収入が22億5423万7030円と発表された段階で、「最終の興行収入は150億円規模を狙える」と感じました。
そして、公開9日間の興行収入が64億7430万2810円と発表された段階で、「最終の興行収入は180~200億円規模を狙える」と感じています。
もし、この感覚が正しいとするならば、日本の歴代興行収入ランキングの第10位が「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の興行収入173億円なので、本作が一気に歴代興行収入ベスト10入りすることになります。
正直なところ、新型コロナの話が象徴的ですが、世の中には「一寸先は闇」の部分はあり、先のことは読み切れないのが「正解」ですが、このようなお祭りは滅多にないのも事実です。
そこで、不確定要素が多すぎる状態ですが、今回は現状の少ないデータから予測をしてみます。
まず、大前提として、本作の完成度が非常に高い、ということがベースにあります。
キャラクターの関係性の発見や化学反応の面白さ、音楽シーンの面白さ、アクションシーンの面白さ、といったようなものが妥協無く描き込まれていて、見る度に発見や面白さが増してくる部類の作品になっています。
そのため、リピート需要の高い作品となっているのです。
また、「製作委員会」を見ると、本作の「本気度」が色濃く出ているのです。
それが分かるように、これまでの劇場版の流れを簡単に見ていきましょう。
2000年から始まった劇場版「ONE PIECE」は、原作者の尾田栄一郎が初めて大きく関わった2009年公開の劇場版10作目「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」までは配給元の東映が製作委員会のトップとなっていたのです。
そんな中、原作者の尾田栄一郎が初めて大きく関わった「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」が興行収入48億円という大ヒットを記録したのですが、公開劇場数が全国188館という具合になっていて、満席が続出するなど従来の劇場版「ONE PIECE」と異なる動きをするようになりました。
そのため、この作品を契機に、製作委員会のパワーバランスを見直すようになっていったのです。
具体的には、それまでは出資金額順に「東映、東映アニメーション、集英社、フジテレビジョン、バンダイ」となっていました。それが2012年の「ONE PIECE FILM Z」からは「フジテレビジョン、東映アニメーション、東映、集英社、バンダイ」のように、フジテレビが幹事会社となり、テレビアニメの制作をしているフジテレビと東映アニメーションが中心となっていったのです。
そして、今回の「ONE PIECE FILM RED」における本気度を感じる背景に、コラボ企業が非常に増えている、ということがあります。
食品メーカーから外食チェーン店、ドラッグストアなど、日常目にする機会の多い企業において、日本映画史上唯一興行収入400億円を突破した「鬼滅の刃」級か、それ以上のコラボなのかもしれません。
なぜ、そのようなビッグディールが成立したのかと言うと、ここに本作での製作委員会の変化が見え隠れします。
それは、本作における製作委員会は「フジテレビジョン、東映アニメーション、東映、集英社、バンダイ、バンダイナムコエンターテイメント、ADKエモーションズ、電通」のようになっていて、初めてADKエモーションズ、電通のような広告代理店が入ったのです。
例えば、アニメ「鬼滅の刃」における広告代理店は、基本フジ・メディアHDの「クオラス」が担当していますが、「鬼滅の刃」の製作委員会は「アニプレックス、集英社、ufotable」の3社になっていて、広告代理店は入っていません。
つまり、これまでのアニメ「ONE PIECE」においても広告代理店は関係しているのですが、あくまで外注という形で、仕事を請け負っているわけです。
それが、製作委員会に入り「出資」をする、ということは、「成果報酬」が得られ、映画が上手くヒットすると広告代理店もリターンを受け取れることになります。
その仕組みも好循環を生んで、凄い数のコラボが成立している面があると考えられます。
これらのコラボは、タイアップなので製作委員会から出ていくお金は基本的にはなく、むしろコラボ企業側が、原作印税という形で集英社に支払うことになります。
では、なぜコラボ企業が増えるのかというと、映画が大ヒットすれば、コラボ企業にも注目が集まり自社の儲けが増えることが期待できるからです。
今回の作品では、見事なまでに製作委員会が機能していると実感しています。
例えば、重要な集客ツールとなる入場者特典ですが、第1弾の「『ONE PIECE』コミック 巻四十億“RED”」が300万部も用意されましたが、これは単行本「ONE PIECE」だけでも4億部以上を製本している集英社の力が大きいのです。
第2弾の「ONE PIECE カードゲーム チュートリアルデッキ」は50万パック用意されましたが、これはバンダイが大きく展開しようとしているカードゲームで、まさにバンダイの力が大きいと言えるでしょう。
そして、8月27日(土)から配布となる第3弾の「『ONE PIECE』コミック 巻4/4“UTA”」が300万部も用意されることが発表されましたが、これも第1弾の時と同様に集英社がパワーを発揮しています。
この第3弾から伺えるのは、「本気度」に加え、「プライド」です。
集英社の少年ジャンプ関連作品の映画化では、「鬼滅の刃」「呪術廻戦」などを筆頭に、入場者特典として「単行本」のようなものを付けることが定番化してきています。
ただ、そもそも、それを始めたのは、原作者の尾田栄一郎が初めて大きく関わった2009年公開の劇場版10作目「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」におけるコミック「ONE PIECE 巻零」(0巻)だったわけです。
そこで、今回あえて、この単行本の形の入場者特典を初めてダブルで仕掛けてきたことに、私は「プライド」のようなものを感じています。
それは、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」辺りからは、2冊目を出す際には、変化を出すため、単行本サイズではなく、パンフレットのような大きさにしている場合が主流になっていたからです。
これ以降の不確定要素としては、入場者特典の回数と規模感です。
私が意外だと思ったのは、第3弾のリリース・タイミング。第1弾、第2弾とかなりテンポ良く映画館から消え去っていたので、毎週行なうのではないか、と想定していました。
ただ、第3弾は「第2弾から2週間後」となったので、東映サイドの判断で、そろそろ十分に口コミが効いてきているから、作品力をより重視する流れになったのかもしれません。
個人的には、映画館はシネコン時代になってからどんどんシビアになり、客が減り始めると上映回数などをすぐに減らしにくるため、テンポが重要だと考えています。
それらのバランスが、「第2弾から2週間後」で、しかも「300万部」という部数なのかもしれません。
ここら辺の采配がどうなるのか。そして、第4弾、第5弾などのように入場者特典が続くのか、などが、さらに興行収入を伸ばしていくためには重要な要素となりそうです。
もちろん、入場者特典を気にしない層が少なくないのも確かで、地道なプロモーション活動も引き続き重要となります。
先週までは公開に合わせるタイミングでフジテレビの土曜プレミアムにて劇場版の過去作品が2週連続で放送されていたり、今週の日曜日にはフジテレビと東映アニメーションが制作しているアニメ「ONE PIECE」で、劇場版のコラボ作品が放送されるなど、空中戦対策もしっかりできています。
また、未知数で興味深いのは、かなり人気のある「アプリゲーム」において、コラボイベントが行なわれることが発表されていて、その相乗効果がどうなっていくのかという点です。
具体的には、これからのものだと「モンスターストライク」では8月20日から、「パズル&ドラゴンズ」では9月1日から、「グランブルーファンタジー」では9月14日から、とCMも含めて映画の情報がどんどん浸透していきそうな雰囲気となっています。
ちなみに、タイアップに際する業界通例は「一業種につき一社」となっていますが、本作ではその慣例をも打ち破り、影響力が高い複数の大人気ゲームアプリとのコラボを実現させているという点だけでも「本気度」が見えてきます。
果たして、これまでは興行収入50億円台が目途であった作品が、興行収入200億円規模にまで跳ね上がる快挙が起こり得る新時代は到来するのか――大いに注目したいと思います!
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