【「神は見返りを求める」評論】ちゃんとカッコ悪さをカッコ悪く描くから、吉田監督はカッコイイのではないか
2022年6月19日 16:00
吉田恵輔が異端の感動恋愛ブラックコメディ「机のなかみ」でデビューしてから16年。昨年は「BLUE ブルー」「空白」と新作が2本公開されて各映画賞を獲ったり東京国際映画祭で特集が組まれたりして、本人がふざけて言った「巨匠」臭すら出てきている。
しかし、吉田監督といえば、どうしようもなくみっともない感情をぐいっと身近に引き寄せて、えぐってほしくない部分をガンガンえぐりにくる「笑うに笑えないコメディ」を得意としてきた。でも「ヒメアノ~ル」「愛しのアイリーン」のようなヘビーな原作物を手掛けていることもあり、ちょっと本来の作家性が忘れられてきてはいませんか? そんなところに「よくもここまで!」と心配になるくらいの十八番路線に戻ってきたのが「神は見返りを求める」だ。
主人公は不人気ユーチューバーのOL優里と、合コンで知り合った中年男の田母神。イベント会社勤務で、映像編集の心得が多少ある田母神は優里のYouTubeビデオを手伝うようになるが、思いがけず優里がぷちブレイクしたことで、羨望と嫉妬と愛憎が入り乱れる公開バトルに発展していく……。
コンセプトは「恩を仇で返す女」と「見返りを求める男」。いやはや、清々しいまでにみっともなく、ダサくて愚かでバカバカしい。自意識をこじらせた小市民的鬱屈をイジりはじめたら、もはや吉田監督の独壇場といっていい。ブラックな笑いの洪水はどんどんシャレにならない展開になだれ込んでいくので、作品の意地悪さについていけない人もいるかもしれない。
しかし吉田作品に一貫して感じられるのは、クソみたいな人間がクソみたいなことをしでかすのではなく、人間である以上、誰だってクソみたいなことをしでかすのだという普遍の真理だ。しかも「人間はおしなべて愚かである」と見下ろすのではなく、監督も登場人物と一緒に並走して、“愚かのトップランナー”の座を奪い合っているような気がする。なんなら「失敗」を愛でる天才なのではないか。そして愚かな失敗をしちゃいけない世界なんて、とっても住みづらいに違いない。
主演の岸井ゆきのとムロツヨシだけでなく、若葉竜也、柳俊太郎ら出演陣がみんないい。そしてどの役側もみごとにろくでもない。愚かであるからこそ、人は吉田ワールドで独自の魅力と濁った輝きを放つ。そしてちゃんとカッコ悪さをカッコ悪く描くから、吉田監督はカッコイイのではないかと思っている。
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