【「エリザベス 女王陛下の微笑み」評論】愛と敬意、女王陛下の“極上の微笑み”が満ち溢れた労作
2022年6月12日 08:00

2020年、コロナ禍に直面して新作準備ができない中、「ノッティングヒルの恋人」(1999)のロジャー・ミッシェル監督は考えた。こんな時だからこそ作れる映画があるはずだ。世の中には数多の映像があり、許諾が取れたらユニークなドキュメンタリーを作れるに違いない。
「モナ・リザ」のように世界の誰もが知りながら、その素顔を見たことがない人物とは誰か。監督と製作チームが選んだのは、英国の顔として在位70年、御年96歳(2022年現在)を迎えようとしていたエリザベス女王だった。
エリザベスは、世界最高齢の国家君主であり、世界53カ国に及ぶ英連邦諸国(コモンウェルス)を率いるリーダーでもある。1952年2月6日、25歳でエリザベス2世として即位、翌年に父ジョージ6世の王冠を引き継ぐ。後年、王冠を手にした彼女は“父とは驚くほど頭の形が似ていた”と微笑む。
戴冠式の後、イギリスの新たな顔として半年間の世界ツアーを敢行。57年に初の国連演説、65年には英国元首として約半世紀振りの西ドイツ訪問、ビートルズに大英勲章第5位を叙勲(69年にジョン・レノンは返上)。75年には日本の地を踏んでいる。
1981年、公式誕生日パレードで襲撃未遂事件、息子のチャールズがダイアナと結ばれたのはこの年だ。92年は、ウィンザー城が燃え、娘のアン王女が離婚するなど厄災が続いた。金婚式を迎えた97年、ダイアナ元妃が事故で逝去、沈黙を続け国民から大バッシングを浴び、葬儀に際して彼女の死を悼んだ。
2012年のロンドン五輪開幕式では「007」のダニエル・クレイグと共に空から登場、翌年には映画界に対する貢献によって BAFTA名誉賞を受けている。
若き日の決断と冒険、皇室にまつわる葛藤と逡巡など、エリザベスは何度も映画化されてきた。生きる伝説を描くという至難の業に挑んだ製作陣は、幼少期から直近までの膨大なアーカイヴをテーマ別に編集、常に微笑みを絶やさない女王の素顔に迫っていく。
バッキンガム宮殿のしきたりと面会人たちのリハーサルに始まり、時が止まったかのようなウィンザー城での日常、世界行脚と政治家やセレブとの面会、7000人が集うガーデンパーティでは誰にも気さくに声をかける。競馬に狂喜し、テムズ川の船上でチャーチルから金言を授かることも。良いことばかりではない、厄災の連鎖に「ひどい年」だと塞ぎ込むこともあった。
戴冠後には一度として同じ装いがないことにも驚かされる。ドレス姿で微笑む姿は、「ローマの休日」(1953)に主演したオードリー・ヘプバーンのお手本になり、時には軍服姿で兵士を勇気づけた。颯爽と馬に乗る姿は凛として美しく、若き日のポール・マッカートニーも魅了された。
ナレーションを使わず音楽で語る演出も冴える。クラシックからポップス、“女王陛下は可愛い娘”と歌うビートルズの「ハー・マジェスティ」まで、絶妙な選曲で時代を映し出したロジャー・ミッシェル監督は、2021年9月22日、サウンドミックスを終えた後に急逝。エリザベスへの愛と敬意、女王陛下の“極上の微笑み”が満ち溢れた労作を残して65歳で旅立った。
(C)Elizabeth Productions Limited 2021
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