【ネタバレ解説】「万引き家族」ラストの意味は? 是枝裕和監督が語った“意図”
2022年6月11日 21:05
第71回カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを獲得し、第91回アカデミー賞では外国語映画賞(現在は国際長編映画賞)にノミネートされた「万引き家族」(是枝裕和監督/2018年)が、2022年6月11日にフジテレビ系「土曜プレミアム」で放送されます。
物語全体が多層的な意味を含んでおり、特に結末(ラストシーン)は、観る人によって無数の解釈が存在し、劇場公開中もさまざまな意見が飛び交いました。
実際、製作陣はどのようなメッセージを込めたのでしょうか? この記事では、2019年2月に行われたティーチインイベント(観客との質疑応答)における是枝監督の発言を基に、その意図を解説していきます。
※以下、「万引き家族」の重大なネタバレに言及しています。本編鑑賞前には絶対に読まないでください。
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東京の下町。高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋。
家主である初枝(樹木希林)の年金を目当てに、夫婦の治と信代(リリー・フランキー&安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)が暮らしていた。
彼らは初枝の年金では足りない生活費を“万引きで稼ぐ”一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。そんなある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子(佐々木みゆ)を、治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。
そして、ある事件をきっかけに仲の良かった家族はバラバラに。それぞれが抱える秘密や願いが明らかになっていく。
祥太がスーパーで万引きし、ケガしたことで、ゆり(りん/じゅり)の誘拐が発覚。一家は離散する。祥太は施設へ、ゆりは実の母親のもとへ戻される。
一家における事実(治と信代の関係性など)が明らかになり、事件は終わりを迎える。ゆりは母親から「お洋服買ってあげるから、こっちへおいで」と言われるが、首を横に振り拒否する。
その後、治と信代は疑似家族の幕引きを決意。祥太にそれぞれ別れの言葉をかける。祥太もスーパーではわざと捕まったことを告白。バスに乗り遠ざかっていく祥太を、治は名前を叫びながら追いかける。
ラストシーンは、ゆりがアパートの玄関前で、また1人で遊んでいる場面。柵の上に頭を出し、外の景色を眺める彼女の眼差しをとらえ、映画は終わる。
19年2月のティーチインイベントでは、やはり結末に関する質問が多く寄せられました。
特に、ある観客は是枝監督にこう問いかけます。「家族をフィーチャーした映画ならば、リリー・フランキーさんと城桧吏くん(治と祥太)の“別れ”で終わるのが自然だったのかと思いますが、あえて佐々木みゆちゃん(ゆり)が1人でいるシーンで終わらせた理由は?」
これに対して、是枝監督は“子どもの成長”が理由にあると答えました。
「祥太のなかに芽生えた倫理観が、家族を内側から壊します。一方“(本物の)家族”のもとへ戻ったゆり、彼女には首を振るという意思が芽生えています。(ラストで)彼女が見ている(柵の外の)風景は、映画の冒頭で“隙間から見ているもの”よりも広い。前向きな終わりというと言い過ぎかもしれませんが、『あの視界の先に私たちがいるかもしれない』ということをオープンにしたつもりです」
ゆりは、また母親からネグレクトされるのでは?という疑念も生まれます。是枝監督はこの結末で、“ある問題点”を明らかにしたのだと言います。
「ヨーロッパ(での上映)では、ゆりが実の母親のもとへ戻されるという展開に対して、一番驚いていた。虐待の事実がわかっているのに『なぜ帰す? 理解できない』と随分言われた。色々な形があるとは思いますが、確実に親から切り離すという手段が『普通だ』と感じるのでしょう」
「でもリサーチを進めるうちに、(虐待されていた子どもを)親のもとへ戻さざるを得ない状況というのは結構あったんです。養子縁組、里親制度が浸透していかないので、施設に留めておけなくなった時に(戻る場所が)実の親のもとしかなくなってしまう。そして結局虐待を受けて、施設に戻ってくるケースがすごく多い。この問題点があったものですから、(ラストの)実母のもとへ戻すという設定をとりました」
本編中盤、祥太が治に「『スイミー』って知ってる? 英語じゃないよ、国語の教科書に載ってた。小さな魚たちが、大きなマグロをやっつける話なんだけど、なんでやっつけるか知ってる?」と話しかけます。
治と祥太の特殊な結びつきを象徴する、短いけれどとても印象的な場面です。「スイミー」が本作において何を意味するかは、さまざまな記事で語られていますので、ここでは製作の背景を紹介していきましょう。
2018年6月の記者会見で、是枝監督は撮影前に行った各所への取材について、こう語りました。
「印象に残っているのは、親の虐待を受けていた子たちが暮らす施設。取材をしていると、女の子がランドセルを背負って帰ってきた。『何の勉強をしているの?』と聞いたら、国語の教科書を取り出して『スイミー』を読み始めた」
「職員が『みんな忙しいんだからやめなさい』と言っても聞かずに、最初から最後まで読み通した。みんなで拍手をしたら、すごく嬉しそうに笑ったんです。この子はきっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか、と思った。朗読している女の子の顔が頭から離れなくて、すぐに脚本に書きました」
この出来事は、是枝監督を強く突き動かしました。テレビプロダクションに所属していた20代のころ、先輩に「誰か1人に向かって作れ」と教えられたことを引き合いに、言葉を続けます。
「不特定多数の人に向かって送るものほど、『誰か1人に向かって作る』ことで、結果的に多くの人に伝わる。20代の時に言われ、ずっとそうしています。今、はっきりわかったんですが、僕は『スイミー』を読んでくれた女の子に向かって(『万引き家族』を)作っているんだと思います」
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