ガンダム新作「ククルス・ドアンの島」は「閃光のハサウェイ」級に飛躍できるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年6月3日 10:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の6月3日(金)から「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が公開されます。
1979年4月7日からテレビ放送が開始された「機動戦士ガンダム」シリーズの最新作ですが、本作は珍しい位置付けになっています。
それは、「原点」であり、ある意味でピークとも言える一番最初の、いわゆる「ファーストガンダム」の映画化となっているからです。
そもそも「機動戦士ガンダム」シリーズは、当初は全52話を予定していました。しかし、放送当時の視聴率がパッとせず、打ち切りのような状態で「全43話」に縮小されたのです。
ただ、放送開始から43年が経っても知名度が高いように、「機動戦士ガンダム」が革新的なアニメーションであったことは間違いないでしょう。
実際に、テレビ放送終了から半年後に発売された「ガンダムのプラモデル」が発売と同時にすぐに売り切れるような状況になっていき、作っても作っても売り切れる現象が生まれ、いわゆる「ガンプラ」のブームが起こりました。
その流れで、テレビ版の全43話におけるクオリティーをさらに上げることを目指し、「映画化」が始まります。

まずは、テレビ版の第1話から第14話を再構成した「機動戦士ガンダム」が1981年3月14日に公開され、興行収入が約17億円という大ヒットとなりました。

そして、テレビ版の第16話から第31話前半を再構成した「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」が1981年7月11日に公開と、矢継ぎ早に展開されます。

さらに、テレビ版の第31話後半から第43話を再構成した最終章「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」が、1982年3月13日に公開されますが、こちらでは大きなサプライズがありました。
それは、キャラクターデザインと作画監督を務める安彦良和が、制作中に入院したことでテレビ版のラスト10話分の作業ができていないことが関係しています。
劇場版では、このラスト10話を安彦良和が中心となり大幅な描き直しを敢行し、作画のクオリティーが大幅にアップしていたのです!
そんな背景もあり、この「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」の興行収入は23億円を記録し、今なお「ガンダム」シリーズの最高興行収入となっています。
ちなみに、この「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」から14年後を描いた「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」が1988年3月12日に公開され興行収入11億3000万円を記録しています。

さて、今から1年前の2021年に興味深い現象が出てきました。
それは、6月11日(金)に公開された「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」での出来事です。
私は、この「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」のクオリティーには驚いていて、間違いなく歴代「ガンダム」シリーズで最高峰の出来だと思っています。

とは言え、興行収入の面では、それほど期待できずにいました。
それは、「ガンダム」シリーズの映画化が、徐々にイベント化していて、映画の公開と同時に「劇場限定版Blu-ray」を映画館で買えるようにしていたからです。
実際に、「ファーストガンダム」の映画化以降も様々な「ガンダム」シリーズの映画化はありましたが、興行収入10億円を突破できたのは、1988年の「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」だけだったのです。
ところが、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」が凄かったのは、作品のクオリティーが究極的に高いことで「劇場限定版Blu-ray」を持っている層にも多くのリピーターを生んだ「作品力」です。

まず「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の上映時間は95分です。そして、公開前に映画の実際の冒頭映像を約20分もネットで見られるようにしていたのです!
この冒頭20分の映像は、何回見ても「鑑賞し足りない」と思わせるような凄さがありました。
その結果、「劇場限定版Blu-ray」を同時に販売しているにもかかわらず、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」以来、実に33年ぶりに興行収入10億円を突破したのです。
しかも、入場者特典も後押しして、シリーズ歴代最高の23億円に迫る興行収入22.3億円にまで伸ばすことができたのです!
これは文字通りの快挙で、「映画の興行史に刻まれるべき作品力」でした。


さて、その流れで「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が公開されるのですが、本作は「ファーストガンダム」の映画化なのです。
これはどういう仕組みなのかと言うと、1981年から1982年の映画3部作では抜かされていたテレビアニメ版の第15話「ククルス・ドアンの島」という1話を、映画用として108分に拡大したのです!
そして、キャラクターデザインを担当していた安彦良和がメガホンをとっています。
この「ククルス・ドアンの島」という1話は、元々1話完結型だったので、特に予備知識を必要とせず、上手い手法だと思います。
「戦争孤児20人と暮らすククルス・ドアンという元ジオン軍のエース・パイロットの物語」で、映画としての脚本は良く出来ていました。
作画のクオリティーも43年前の1979年のテレビアニメ版と比べれば、比較にならないくらい良くなっています。

ただ、ここでネックになるのは、良くも悪くもキャラクターデザインにあると言えます。
それは、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の場合は、新たな作品なので、キャラクターデザインなどを思いっきり最先端の形にすることが可能だったわけです。
ところが、本作は、あくまで「ファーストガンダム」の映画化なのでマイナーチェンジしかできない制約があるのです。
そのため、モビルスーツの戦いなどは3Dを使いながら、かなりクオリティーの高い映像に仕上がっていますが、キャラクターデザインの方は、ハサウェイと比べると「時代」の流れを感じてしまう面は否定できません。
とは言え、本作のような形で、まだ「ファーストガンダム」の映画化は可能でしょうし、是非、他の作品も見てみたいと思いました。

まさに、その実現性には、本作の興行収入の結果が大きく関わってくるでしょう。
そこで、本作の興行収入についてですが、本作も「劇場限定版Blu-ray」を映画館で発売します。しかも、冒頭の約10分をネットで見られる状態にしています。
これは一般的には、興行収入においてはマイナス要素となります。
しかも、Blu-rayを同時発売するようになってからは「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」だけしか興行収入10億円を突破できていない現実があります。
一方で、昨年の「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」におけるプラスのインパクトがあり、「ガンダム」ファンを新たに作った面もあります。



そこで、本作を別の角度で注目すると、ハサウェイの両親(ブライト・ノアとミライ・ヤシマ)の物語でもあります。
また、現在も大ヒット中の劇場版「名探偵コナン」シリーズで人気の高い安室透(もしくは降谷零)の元ネタであるアムロ・レイが主役の作品なので、割と親和性がありそうな気もします。
【アムロ・レイの声優は古谷徹(ふるや・とおる)で、この2つを合わせて、安室透(もしくは降谷零)という名前になり、声優も古谷徹が担当しています】
さらには、8週連続で入場者特典を配ることも決まっています。
このような要素を踏まえると、本作もハサウェイに続き、興行収入10億円を突破する可能性があります。
個人的にはハサウェイほどのリピーターは出ないと思いますが、新規層は増え、何とか新作の製作につながりそうな興行収入10億円は見込めるのではと期待したいです。
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