「TOKYO VICE」が生まれるまで――キャスティング秘話、日本文化・社会への徹底したアプローチ
2022年5月20日 13:00
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巨匠マイケル・マン(「ヒート」「インサイダー」)が参加し、WOWOWと米HBO Maxが初めて共同制作した新ドラマ「TOKYO VICE」。このほど、同作のエグゼクティブ・プロデューサーと監督を務めたアラン・プールへの単独インタビューが実現した。キャスティング、日本文化へのアプローチ、ヤクザの描き方など、制作の裏側について語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
本作は「世界で最も撮影が難しい都市」と言われる東京とその近郊で全てを撮影。舞台は、1990年代の東京アンダーグラウンド。世界で最もきらびやかな大都会として憧れられた東京のリアルで凶暴な裏の姿を描く。
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2013年「TOKYO VICE」の制作が決定した頃は、映画というフォーマットで、「ハリー・ポッター」シリーズで知られるダニエル・ラドクリフが主演を務める予定だった。それがどのような経緯でドラマとなり「主演アンセル・エルゴート」に変更されたのだろう。
「僕とともにエグゼクティブ・プロデューサーを務めたジョン・レッシャーが、本作を企画した。彼は、当初ダニエル・ラドクリフと一緒に映画を作るつもりだったんだ。でも、ダニエルとのタイミングなどが合わず、映画を作ることができなかった。さらに言うと、今の時代、真面目なテーマを扱った“大人向けの映画”を作ることが難しくなったからだ。コロナ禍で独立系映画が苦戦しているのを理解していた。その一方でテレビでは、真面目な題材にお金をかけることができるようになった。より掘り下げた内容、厚みのあるキャラクター……大人向けの作品をまともに作れるようになったんだ。だから、自然な流れで、テレビシリーズ化に変更した。実は、アンセルは早い段階で主演に決まっている。それは僕が関わる以前のことだ。アンセルが関わってくれたことは、HBO Maxのもとで製作ができることになった要因のひとつだ」
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ハリウッド映画では、日本の文化・社会を大袈裟に誇張したり、誤解を招く描き方を頻繁に見かける。「TOKYO VICE」は、どのようなこだわりをもって、真実味のある作品へと仕上げたのだろうか。
「この番組の主な使命のひとつが、90年代後半の東京を正確に描くことだった。日本で撮影された多くの欧米作品を見てみると、それは簡単に達成できない使命に思えた。そこで僕らは番組の始まりから、脚本の翻訳、キャスティング、現場の全てにおいて、専門家をつけ、物事を確認しながら撮影を進行していった。そのため、クルーのほとんどは日本人だった。日本で撮影を行ったアメリカのテレビシリーズを見てみると、少し辛い気持ちになる。なぜなら、それらの作品は、セリフがまるで直訳された脚本のような感じだったからだ。だからこそ、これまでに僕らが注いだ努力を、非常に誇りに思っているよ」
ちなみに、プールは大学時代に日本語を学び、日本に住んだ経験もある人物。過去には、リドリー・スコット監督作「ブラック・レイン」にアシスタント・プロデューサーとして参加している。
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日本での撮影は、海外と比べて、さまざまな制限が生じてくる。「ブラック・レイン」撮影当時と比べて、現在の状況について述べてもらった。
「『ブラック・レイン』の撮影時よりは、全てが良くなっていると思う。あの頃は、頻繁に撮影が中断していた。撮影の合間に、日本の警察がやってきて、カメラの前に手を当てられたこともあった。今回はジャパン・フィルムコミッション、東京フィルムコミッションの協力で、歩いているシーンであれ、車を走らせるシーンであれ、交通規制を行って撮影することができた。通常であれば、交通規制は時間のかかる作業だ。より多くの人々から許可を得なければいけないし、撮影が始まる直前までうまくいくかわからない時もある。でも、今作のロケーション・スカウトのスタッフは素晴らしい仕事をしてくれた」
さらに、日本の“慣習”にも驚かされたという。
「日本では撮影場所を確保して許可を得た後、監督が『別の場所で撮影したい』と言って変更したら、多くの謝罪が必要になる。ロケーションのマネジャーは、撮影を行わなかった場所に戻り、(菓子折などの)プレゼントを持って『ごめんなさい』と言わなければならない。東京の路上撮影を成功させるための労力を、私自身もそれほど考えたことがなかったし、アメリカの視聴者には想像し難いと思う」
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「TOKYO VICE」は、全8話での構成。マン監督が第1話、ジョセフ・クボタ・ウラディカ監督(「ナルコス」)が“ヤクザの視点”を中心とした第2、3、6、7話、HIKARI監督(「37セカンズ」)が“クラブで働く女性の視点”を中心とした第4、5話、プールがまとめとなる第8話で監督を務めている。
「(アメリカでは)通常のテレビシリーズを手掛ける際は、数人の監督とともに働くことになる。今作ではクボタ監督が2、3話を撮影している時に、HIKARI監督が4、5話のキャスティング、ロケーションの確認、脚本の調整を行っていた。僕らは、マイケル・マン監督のメガホンを引き継いだ感じだった。僕ら3人は、本作の撮影中、ずっと東京にいたんだ。例えば、クボタ監督が第2話の撮影をしていた時、急遽、第5話の撮影を行わなければならなくなった。そんな時は、すぐにHIKARI監督がセットに来て、撮影を進められるようになっていた。僕ら3人は、ローテーションのチームとして、スムーズに働けていたと思う」
劇中では、エルゴートの流暢な日本語に驚かされるはずだ。
「僕らは、19年にプリプロダクションを開始して、20年初期には撮影に入る予定だった。アンセルは、東京に来る前から日本語を勉強していた。当初は、基本的な日本語を勉強し、セリフの音声を学ばせるつもりだったんだ。アメリカ人が日本語を学ぶうえで難しいのは、イントネーションだ。アンセルは俳優だけでなく、『ウエスト・サイド・ストーリー』を見てもらえばわかるが、ミュージシャンあり、歌い手でもある。そのため、日本語のセリフを説得力のあるイントネーションで話すことができたんだ。その後、8カ月間も新型コロナウイルスの影響で撮影が延期した。その間、アンセルはずっと日本語を勉強し続けてくれた。僕が学生時代に通っていた日本語学校の先生から学んでもらい、絆を深めてもらった。日本語の勉強は、毎日数時間。撮影を再開した頃には、アンセルの日本語は別次元になっていた」
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キーとなっていくのは“ヤクザの世界”だ。リサーチはどのような形で行っていたのだろうか。
「実在のヤクザとの交流は、日本の法律上難しかった。海外の企業が、日本の犯罪組織グループと何らかのやりとりをすることが禁じられているからだ。でも、かつてヤクザだった人々とは話すことができたんだ。実際に元ヤクザ数名がコンサルタントとして、本作に加わっている。現在では、犯罪組織との接触が全くないということを証明してもらい参加してもらった。彼らは(自分たちの視点で)全てを的確に見守ってくれていた」
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日本の夜のエンタテインメントとして、クラブのホステスといった“水商売の世界”も的確に描かれている。
「(日本の)水商売の世界を紹介することは、非常に重要だった。だからこそ、そのまま『水商売』という言葉を使っている。他に言い換えるような言葉がないからだ。例えば『バー』『ナイトライフ』に置き換えることもできるが、『水商売』はとても特別な世界で、日本のサブカルチャーとして存在している気がする。『水商売』という言葉を聞くと、ヤクザの世界との相互関係を人々は考える。実際にホステスのいるクラブをリサーチし、セットには数人のクラブのママさんにも参加してもらっている。レイチェル・ケラー、エラ・ルンプフ、日本の女優たちにも、高級ホステスの振る舞いを学んでもらった。その他にも、ホストクラブへのリサーチも行った。ホスト・アキラ役の山下智久をホストクラブに連れて行っている。そこでは、若い男性ホストたちと話すことに、多くの時間を費やしてもらった。アメリカにもホステスに相当するものはある。しかし、ホストクラブは、アメリカ人にとって、完全に異質な概念だと思う。若い男性が独身女性のためにクラブを経営し、一緒の時間を過ごすという考えは、我々が持っていないものだ。それを紹介するのは、かなり難しいことだった」
ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」WOWOWにて毎週日曜午後10時より独占放送中。WOWOWオンデマンドにて配信中。
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