【「モービウス」評論】吸血鬼神話に自覚的なダークヒーローの誕生篇
2022年4月10日 10:00

MCUのスパイダーマンが「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(22)をもってひとつの区切りとし、ソニー・ピクチャーズがマーベルヒーロー映画をどのように展開していくのかを示す指標として、このスーパーヴィランの単独作に注視している人は多いだろう。そんな期待に応え、知名度が高いとはいえないタイトルキャラクターの映画デビューを、本作は今後も目が離せぬダークヒーローの誕生篇として成立させた。
持病を克服するために研究を続け、人工血液を開発した天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)。物語は彼が吸血コウモリの特性を人間の遺伝子に組み込み、自身の病状改善を試みたことから、制御不能な殺人マシンと化す過程を描いていく。言葉だけで説明すると典型的なヴァンパイア神話を踏んだ内容だが、先行するスパイディ由来のスーパーヴィラン単独作「ヴェノム」(18)とは対照的に、深刻で笑いのテイストを抑えたトーンが特徴だ。監督のダニエル・エスピノーサは前作「ライフ」(17)で「エイリアン」(79)の近代科学に寄せた換骨奪胎を成したが、本作もまさに現代に吸血鬼を甦らせるというコンセプトに対して自覚的だ。展開の踏襲は言うに及ばず、「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)を意識したワード引用に至るまで、それは随所で確認することができる。
また力の覚醒や敵対者の同時的な派生をソリッドに描き、作品全体にリアリティが充満している。それらは視覚や構成面に顕著で、撮影監督を「ジェイソン・ボーン」のフランチャイズで手持ちキャメラの迫真性を主張したオリバー・ウッドが、そしてカオスを体現する高速編集をリドリー・スコット作品のエディターを常任してきたピエトロ・スカリアが担当していることから、この映画は受動や体感の要素が高く、過去のMCUには見られなかったアプローチが新鮮だ。加えてキャラクターの動きがハイスピードから超スローモーションへと転調する可変速度効果を用いたアクションは、現実世界においてスーパーパワーがいかに特異なものかを効果的に視認させる。
何よりこの作品は、医学のタブーを破って超人と化し、良心の呵責に苛まれたモービウスが、その力とどう向き合うのか不確定なところにミステリアスな牽引力がある。演じるレトの善悪に片寄らない中性的な雰囲気も、そうした点をウェットに引き立たせる。詳述するヤボは避けるが、ポストクレジットでは意外性のあるキャラクターが再登場し、スパイダーマン映画の拡張に期待を抱かずにはおれない。

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